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【本編完結】ワケあり事務官?は、堅物騎士団長に徹底的に溺愛されている  作者: 卯崎瑛珠
第四章 別離?? 決意!? 溺愛!!

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「お久しぶりです、キーラ殿下」

「おひさし……殿下?」

 

 ロランが畏まって

「こちらはブルザーク帝国海軍大将、ヨナターン・バザロフ閣下であらせられます」

 と紹介をすると、ヨナターンは

「いかにも、海軍大将ヨナターンである。突然の訪問、無粋であったか?」

 と目線を国王に向けた。

「ひっ、いやその」

「取込み中のようだな。出直すか? ヤン」

「はっ」

 

 ヤンが、ビシッとヨナターンへ、(かかと)を鳴らした騎士礼をする。その礼は、ヨナターンと同じで、メレランドのものとは違っている。

 

「任務ご苦労」

「ありがたきお言葉」

「ヤンさん……?」

 私が疑問に思っている間に、ヤンは

「閣下。誠に言い難いことではございますが、こちらの(やから)が、我がキーラ殿下に暴力を振るったため、排除いたしたところであります」

 と廊下に突っ伏しているボイドを手で示した。

 

「なんだと! どういうことか、説明を願う!」

 鬼気迫るヨナターンに対して、

「えっ? いやその! その方こそ、どどどどういうことだ!」

 開き直れるメレランド国王。ある意味尊敬する。あ、図太さは遺伝か。


 はあ、と大げさに息を吐いてからヨナターンは

「そちらにおわすキーラ殿下は、我がブルザーク帝国皇帝陛下の、妹君であらせられるのだ」

 と言い切った。

「へはっ!?」

「行方不明でずっと探していた。ようやく見つかったとの知らせで迎えに来てみれば……なんたることか!」


 え? 皇帝……妹? え? 私が!?

 

「えっ、ちょちょ、ヨナさん! じゃない、えっと閣下?」

「殿下、どうぞヨナと」

「いやいやヨナさん! えっと、ぜんぜん! わからないんですけど!」


 物事が次から次へと起きすぎて、とても受け止めきれない!


 眉尻を下げるヨナターンの代わりに、

「陛下、殿下。明日、アルソス国王陛下がこちらにいらっしゃるとのことです」

 ロランが、淡々と言う。

「その時、全てをお聞きになると。どうかそれまで陛下は、お部屋にてゆっくり休まれてください。ただし逃げようなどとはお考えにならぬ方が賢明。(おか)にはアルソス騎士団、海にはブルザーク帝国軍がおりますゆえ」


 がくり、と国王が床に膝を突き、逃げ出そうとしたクレイグは

「甘いっすよ」

 ヤンが足を引っかけて転ばせ、味方であったはずの二番隊の騎士たちがその身柄を取り押さえた。

 

「これこそ、詐欺師であり、売国奴(ばいこくど)である。即座に収監せよ」


 冷え冷えとしたレナートのその発言で、騎士たちは怒りの矛先を全てクレイグへと向けた。

 私は茫然としたまま、レナートの騎士服の裾を握りしめていたけれど、

「キーラ……殿下」

 と呼ばれてしまったので、思わずその手を――離した。


 


 ◇ ◇ ◇

 



「さあ、まいりましょう」

 ヨナターンに促されても、足が全く動かせない。

「せっかくの再会です。積もる話もあり、できれば殿下のお時間を賜りたく。よろしいか、レナート殿」

「はっ」

「貴殿が同席すれば、殿下も安心されよう」

「喜んで」


 床にへたりこんでいた国王を、役人のようなおじさんが支えて立たせて、どこかへ連れていく。

 気絶したままのボイドは、どうする? と思ったら、ヤンと目が合った。

 

「あー、閣下。自分はこいつを収監してからいきます」

「わかった。殿下への手出し、本国なら斬首だが――」

「ざ、んしゅ?」


 恐る恐るヨナターンを振り返ると

「ええ。例えわずかでも、皇帝のものに危害を加えた者は、即刻首を()ねられます」

 と教えられた。

「そうなんですか」


 あ! もしかして、頬を叩いたのも、ざんしゅ?

 私は、なにげなく王女の所在を目で探す。

 

「ひっ!」


 ――やっぱりまだいたのね。そして、びくっとするってことは、自覚あるっぽいね。


「どうなされた?」

 ヨナターンの疑問に答えるのは

「お聞き苦しいと存じますが、そこのアネット王女殿下が、以前キーラ殿下の頬を叩かれたのです」

 渋面のレナートだ。


 ――ここで言っちゃうのね! 相当怒ってたもんね!

 

「なにゆえそのような」

「あ! の! 私がちゃんと、お辞儀をしなくってそれで」

「は?」


 ヨナターンが、心底意味が分からないというように、首を傾げる。

 

「閣下。僭越(せんえつ)ながら、私はその場に同席しておりましたので申し上げます。キーラ殿下の行動になんら問題はございませんでした。突然のご訪問に驚かれただけです」

 

 ロランが一歩進み出て言い、レナートが容赦なく畳みかけた。

 

「ですから――悪意からではと」

「ほう? ……それは、誠か?」

 

 ぎろり! とヨナターンがアネットを睨むと、彼女は顔面蒼白になって、へなへなと床にへたりこんだ。

 

「あーとえっと。そうすると、もしかして?」

 アネットとヨナターンを交互にちらちら見ると

「キーラ殿下のお望みであれば、この場で首を斬りましょう」

 ヨナターンが言い、

「ひいっ!」

 王女は短い悲鳴を上げて、お尻を引きずるように後ずさりする。


 ざ、とヨナターンがつま先を王女に向けた。

 

 海軍大将の剣は、たくさんの豪華な飾りがついて、キラキラ光っている。

 その鍔元(つばもと)を握り、見せつけるように抜こうとすると――しゅわわわ、と音がして、絨毯(じゅうたん)が濃く染まっていく。


「いえ! いいです! そんなことで斬首なんて!」

「なんと。お心が広くてあらせられる」


 カチィン! と大きく音を鳴らして、ヨナターンは刃をひっこめた。絶対、わざとだ。

 

「ふん。寛大な御心(みこころ)に感謝するんだな。では、参りましょう」

「はい」

 

 好きな人の目の前で、粗相(そそう)をしてしまったアネット。

 ロランが、これでもかと侮蔑(ぶべつ)の視線を送っているけど、絶対わざとだ(二人して行動が似すぎじゃない? 仲良いから?)。

 でもごめん。私、全然同情できないや。だって自分の行動が招いたことだもの。

 

 

 ――レナートにありがとうを言いたくて見上げたのに

「大丈夫です。お側におりますゆえ」

 他人行儀に微笑まれたのが……とても寂しかった。


 

お読み頂き、ありがとうございました。

ついに、判明しました!


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