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【本編完結】ワケあり事務官?は、堅物騎士団長に徹底的に溺愛されている  作者: 卯崎瑛珠
第三章 疑惑!? 騒動! 解決!!

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「レナート・ジュスタ騎士団長と、その専属事務官、到着!」


 扉口で叫ばれ、足を踏み入れた『王の間』は、少し広いホールのような部屋だった。

 五段の赤絨毯が敷かれた階段の上に置かれた椅子に、どっかりと座っているのが国王。舞踏会でも見かけた、でっぷりした金髪金髭のおじさん。

 目が小さくて、どこを見ているのか分からないんだよね。王妃はいないみたい。


「残念だ、騎士団長」


 レナートと二人で眼下に並ぶのを待てずに、いきなり話し始めた。その椅子の脇には、扇子で顔の半分を隠しているけれど、目が笑っているアネット王女が立って寄り添っている。

 

「まさか我が兄アルソス国王の信頼を裏切り、事務官と結託して私的に国庫を使用していたなどとは! 嘆かわしい!」

「事実無根にございます」


 レナートはあくまで冷静。けれども、既に国王は激高していた。()()()()()()()()

 

「だまれ!」

「証拠がどこに」

「だまれと言ったぞ! クレイグ!」

「ははーっ」


 大げさに礼をしてから出てきたのが、クレイグ・オルグレン男爵。騎士団本部へ乗り込んできた財務院の役人で国庫管理人だ。


「間違いございません! そこの二人が、明日使用するマントの代金さえも使い込んで払えず、手配ができなかったのです!」

 気弱そうなおじいさんを、無理矢理引っ張ってきて、発言しろと促す。

「こちらが、その職人です!」

「そ、そのとおりですじゃ」


 ――いや違うし。マント職人さん、若くて腕のいいお兄さんだったよ。


「茶番ですね」

「キーラ……」


 しまった、思わず言っちゃった!


「あらあ! お金を盗んだだけじゃなく、陛下を侮辱するのねっ!」


 扇をぱちん! と弾くような音を立てて閉じ、アネットが叫んだ。

 

「ぬぬぬぬ! なんと無礼な! 縛り首だあっ!」

 

 ――えっ。もしかして私、今、……人生終わっちゃったの?


 ちらりとレナートを見上げると、眉をしかめたまま国王を睨んでいる。

 前を見やると、怒りで顔を真っ赤にする国王と、その横で笑いを噛み殺している王女。

 

「キーラを縛り首にすると。そう仰いましたか」


 低くて冷たい声が、王の間に響いた。

 レナートの殺気で、全員押し黙る中、気炎を吐くのはクレイグだ。


「庇いだてするならばっ! 騎士団長、貴様も」

「黙れ。陛下に聞いている」

「ぐぬ」

「そうだ! 縛り首だ!」

「……確たる証左もなく、いたずらに人の命を奪うとは。嘆かわしい。真実茶番です」

「はん! そのような平民ごとき!」


 ――あそっか。平民の私には、生きる価値なんてないよね。


「……マントの手配ができなかったなどとは、事実無根。既に騎士団本部に納入済であり、その職人はニセモノである。よって事務官は無罪であると証明する」


 クレイグが、大慌てで否定する。

 

「そんなわけはない! 世迷言(よまいごと)を!」

「世迷言などではない。謀略でもって事務官を(おとしい)れようとしたのは、誰であるか」

 ぎっ、とレナートは王女を睨んだ。さすがに(ひる)んで、再び扇を開く。変な鳥の羽が付いている、どピンクのものだ。正直趣味悪い。

 

「黙れい!」

 とただ叫ぶクレイグを、レナートは一瞥(いちべつ)してから、王座に向き直る。

 

「陛下。このような蒙昧(もうまい)(きわ)まりない虚言(きょげん)をお許しになるのですか」

「陛下! このわたくしめは、嘘などついておりません!」

「クレイグは、嘘などつかぬ!」

「ではこの者のしたことを、罪とお認めにならない。そう仰るか」

「クレイグが罪など、犯すわけがない!」

「浅はかなご決断ですね」

「なん、だと! 余を……余を、愚弄(ぐろう)するか!」

「愚弄ではなく、事実を申し上げている。キーラ」

「はい!」

「書類を」

「はい、こちらに」


 鞄から取り出したのは、騎士団長室できちんと保管していた『写し』だ。


「ありがとう――これらは、ブルザーク帝国受け入れにあたって手配した品々の、経費申請の写し。確かに財務院に提出した」

 レナートは、そう言いながら右手の書類の束を掲げた後

「がしかし! こちらは、職人たちから騎士団本部へ送られてきた督促状(とくそくじょう)だ。代金を払えと!」

 左手の束を掲げ、そして

「これは、一体どういうことなのだ! 財務院!」

 とクレイグに詰め寄る。

 

「し、知らん! 騎士団が、盗ったからだろう!」

「おかしなことを言う。()()()()()()()()()()()金だぞ? 所在の分からぬ金を、どう盗る」

「貴様あ! 盗人のくせにぃ! 陛下! こやつが全てを(たくら)み、盗んだ張本人ですぞ!」


 クレイグが、(つば)()き散らしながら、レナートを指さす。

 レナートはその行為へ、最大限の嫌悪感を返す。

 

「だから、国庫にある金を、どう盗るというんだ? 申請したのに、支払われていないのだぞ」

「職人どもと結託して、嘘を」

「嘘だと? 生活が困窮(こんきゅう)し、財務院を何度も訪れた職人たちを、貴様らはどう対応したのだ」

「知らん! 嘘をつくな!」


 口角に泡を溜めて、否定の言葉を怒鳴り散らすクレイグに、レナートは――


「王宮の手前で、餓死(がし)寸前で倒れた者もいるのだぞ。貴族や役人は、民を救うためにいるのではないのか? 私腹を肥やし、見殺しにし、貴様には何が残るのだ」

 と静かに詰め寄る。


 ちなみに職人たちは、騎士団の寮でロザンナさんのおいしい食事を与えて、元気になりつつある。

 

「このわたしを、脅しよって! 許さん! へへへ陛下ぁ! こやつはもう、気が狂っておりますぞ!」

「うむう、ただちに! しゅ、収監せよ!」


 王宮を警護している騎士たちは、レナートの部下であり、私とも顔見知りだ。だから、動けない。私たちが正しいのなんて、分かりきっているから。

 そう油断していたら、後ろから急に首を、腕で羽交い絞めにされた。


「うっ」

「な!?」


 レナートが、驚愕に目を見開いている。

 私は、うまく息ができないから、声も上げられない。なされるがままに、ずりずりと後ろへと引きずられていくことしかできない。

 

「ぐはは! 熱くなったらだめだぜえ」

「……っ! ボイド!」


 ――いつの間に!



 壇上で高笑いする王女が、目の端に見えた。

 王の間は、気軽に入れる場所じゃない。貴女が、ボイドを招いたのね……そこまで、するんだ……




お読み頂き、ありがとうございました。

不快な奴には正義の鉄槌が待っております。


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