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「出頭命令?」
昼過ぎに、王宮から団長室へ使者がやって来た。
対応したレナートが片眉を上げて、不機嫌を隠さない。
「騎士団長と、専属事務官をお呼びです。今すぐ王宮へお越しください」
「王宮? どこの誰宛に行けばいいんだ」
「とにかく、お越しを」
「明日にはブルザーク帝国の一行が王都へ入る。歓迎式典まで二十日あるとはいえ、警護や親善試合の準備に忙しい。それを分かった上で、だな?」
使者の肩がびくりと跳ねた。
怯えているが、それ以上何も話さない。本当に『伝言』しか持っていないのだろう。
「はあ。仕方ない。行こうキーラ」
「はい」
恐らく呼び出したのは、財務院会計監査人、クレイグ・オルグレン男爵。
王女の嫌がらせを画策した人物(レナートが新手の詐欺師と言っていた)だ。
昨夜の打合せで、ある程度の予測はできていた――
◇ ◇ ◇
「国庫管理人のうちの一人だ。奴が賭け事の胴元だと思う」
レナートが渋い顔をしていた。
「……国庫、お金残ってますかね」
私が問うと、
「鞘とマントだけでも結構な支出だ。騎士団の金庫では賄えないから、財務院に経費申請しているが」
もっと渋い顔になった。
「あー、なるほど。払えないから」
ヤンがとても嫌そうな顔をして
「キーラに罪を着せる気だな」
ロランが言い切った。
「え? 私、ただの事務官ですよ?」
「縛り首にして、代金を踏み倒す算段だろう」
「しし、しば、しばり、っっ」
レナートの発言に、私がショックで言葉を失うと、
「大丈夫だよ、キーラ」とヤンが慌てて
「そんなことにはならないよ」とロランが慰めてくれた。
そしてレナートが、これ以上ないぐらいに怒っていた。
「そいつを、縛り首にしてやる」
◇ ◇ ◇
王宮に来たのは、実は二度目。
初めは、王女発案の騎士団視察後の舞踏会。
そして、今日。
騎士団本部からは歩ける距離だけれど、馬車に乗れ、だって。
別に逃げないし! って思ったけど、素直に言うことを聞いた。
あっという間に着いて、馬車から降りる私を、レナートは丁寧にエスコートしてくれる。
レナートは騎士服だからかっこいいけど、私は事務官の制服替わりのブラウス、ベスト、パンツそしてロングブーツ。全然見合ってないです、て遠慮したけど、レナートが「俺がやりたいんだ」だって。
「ここにはろくな縁がない気がします」
「奇遇だなキーラ。俺もだ」
「団長も?」
「ああ。『騎士団を立て直してくれると聞いた。あとはよろしく』だけだぞ、ここの国王」
「うわあ……」
あんな王女が育つんだもんなあ。お察し、てやつかな。
「え、国王陛下って普段何しているんです?」
「アルソスでは、隣国の役人や商人と頻繁に接見をして情報を仕入れたり、国内の様子を役人から吸い上げて采配したりしているが」
「メレランド……は?」
「知らん」
「へ? 騎士団長ってその、国の警護の要なわけですよね?」
「一度会ったきりだ。興味がないんだろうな」
そしてレナートは声を潜める。
「困るとアルソス国王に『兄者~助けて~』という手紙を出すらしいぞ」
「ぶっ」
前を歩いていた役人が、眉をひそめて振り返る。
「何を笑っているのですか!」
むかっとしたら、
「名乗りもしないやつに払う敬意はない」
先にレナートがやり返してくれた。
「で。どこに向かっているんだ?」
「ふん! 王の間です!」
「「は?」」
思わず二人で、顔を見合わせる。
「国王との接見です!」
ふふん、と鼻を鳴らす彼に、
「理由は?」
とレナートは畳みかける。
「国庫無断使用です! あなた方は、罪人なのですよ!」
――は?
「いや意味が分からん。何もかもの手順をすっ飛ばしているが、正気なのか?」
「失礼な!」
「まず、国庫の無断使用はしていない。罪人に国王陛下はお会いにならない。罪人を裁くのは法務院だがその制服は財務院だな」
「わ、わたしは、国王陛下の勅命で!」
――また、勅命。
レナートからも、また殺気が溢れてきた。
「なるほど……とことん腐っているわけだ。駄々っ子のためにここまでやるとは」
「え!」
まさか、王女の戯言を信じて勅命を出したの!? そういうこと!?
「キーラ。何があっても俺から離れるな。いいな」
「は、はい」
レナートがさり気なく帯剣の柄を確認したのを見て、私は、王の間ではなく死地に向かっている、ということを理解した。




