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【本編完結】ワケあり事務官?は、堅物騎士団長に徹底的に溺愛されている  作者: 卯崎瑛珠
第三章 疑惑!? 騒動! 解決!!

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「団長、本当に大丈夫ですか?」

 団長室の自分の机に座りながら私が言うと、

「大丈夫だと言った。信じられないか?」

 としかめっ面で答えるレナート。

「違うんです。私のせいで団長に何かあったらって、それが怖いだけです」

「なるほど」


 レナートは執務机で座ったまましばらく考え込んでから、顔を上げた。

 

「じゃあこういうのはどうだ」

「はい」

「ありえないが、もしもだ。キーラのせいで、俺が団長を罷免(ひめん)されたら」

「……はい」

「一緒にアルソスへ行くのはどうだ?」

「へ!?」

「俺はフレッド様との約束で、アルソスの騎士団にはいつでも戻れるんだ。そこでまた一緒に働こう。どうだ?」


 レナートは、どうしてそんなに私のことを大切にしてくれるんだろう。

 

「安心したか?」

「……はい」

「そうか。なら仕事をはじめよう」

「はい!」


 コンコン。

 

 突如として響くノック音に、二人で顔を見合わせる。今日は誰も来る予定はなかったはずだからだ。

 


「ロランです」

「……入れ」


 疲れ切った顔の副団長が、入ってきた。

 

「おはよう」

「……おはよう……」

「おはようございます。ずいぶんお疲れですね。お茶淹れましょうか?」

「ごめん、お願いする」

「はい」


 私がキッチンスペースへ移動すると、レナートが椅子から立ち上がり、ロランに近づいて行ったのが分かった。ソファに座るよう促し、自身もその向かいに座る。

 そうして、真剣な顔で告げたのは。


「ロラン。キーラは王女に頬を叩かれたそうだぞ」

「っ」

「お前は危険なことをした。分かっているのか」

「申し訳ない」

「俺にではなく」

「うん」


 私は茶器をトレイに並べて、静かに運ぶ。

 床に膝を突いて、来客用テーブルにティーカップを並べていく。とぽとぽと熱いお茶を注ぐと、湯気が立ち上ると同時に良い香りが部屋に漂った。

 しばらく、カチャカチャと茶器の音だけが鳴る。


「キーラ……」

 低い声を出すロランは、本当に苦しそうな顔をしていた。

「化けの皮、剥がれていますよ」

「本当にごめん」

「ロラン様」


 私は床に膝を突いたまま、ロランを見上げる。


「私はあれで、正解だったと思います」

「!」

「あのお方には、きっと優しくしたらダメです。毅然と対応されるべきだと私も思います」

「そうだけど、キーラを危険な目に遭わせてしまった。僕は、分かっていてそれで……」


 なるほど、だから部屋から出て行く時に、あんな苦しそうな顔をしてくれていたんだ。ロランは優しい。私はただの平民なのに。

 

「次からは、心構えをします。それに」

 

 レナートを振り返る。濃い青と目が合って、頷かれた。


「ずっと一緒にいようって、団長が言ってくれたから。もう大丈夫です!」


 ロランが目を見開いて、レナートを凝視する。


「え? レナート、ついに?」

「違うぞ」

「ん? 違う?」

「ごほん。事務官として、だ」

「ええ……なんだあ……」

 

 二人で意味の分からない会話をした後で、んはー、と体中の力を抜いてだらけるロランは、とても人に見せられないなと思う。

 じとー、と見ていたら、はいはい、と起き上がってティーカップをソーサーごと持って一口飲んだ。


「あ、おいし」

「この間、団長と選んで買ってきたんです! 新茶なんですって。ね?」

「うむ。うまい」

「へえへえ。おなかいっぱい」


 全部飲み終わっていないのに?


「あーと。んじゃ本題。レナートにこれ、届けに来た」

「!」

「……確認された。やはりそうだった」

「そ……うか」


 ロランがティーカップを丁寧に置いてから懐から出した封筒には、見たことのない大きな封蠟(ふうろう)がしてあった。上側がペーパーナイフで切られているので、ロランが先に見たのだろう。


「預けておくね」

「わかった」

「あ、キーラ。これは外交上の機密文書だから。絶対に見てはだめだよ」

「はい! わかりました!」

「ふふ。素直でいい子だね」

「子ども扱い!」

「なんだよ、褒めたのに。さあ一緒にお茶を飲もう。おいしいよ」

「ありがとうございます」


 自分の机で、と思ったらレナートに目でここで飲め、と言われたので、ありがたくご一緒させて頂く。


「ふは。目で会話してる。すごいね」

「そうでしょうか?」

「うん。嬉しいな」


 よくわからないけれど、レナートの耳の上が少し赤くなって、ロランが微笑んでいるから、私も嬉しくなった。


 お茶のあと、二人で機密事項の打ち合わせをするというので、私は食堂に仕入れの確認に行くことに。

 部屋を出て扉を閉める時、レナートがなぜか少し、悲しそうな顔をしているような気がした――


 

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