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舞踏会の後の日常は、忙しくてとても充実していた。
書類仕事の他に、お茶や裁縫の講習を受けたりして、だいぶ上達したように思う。
ちなみに、ロザンナさんたちへのお礼は、きれいな刺繍のハンカチにしたら、とっても喜んでもらえた! レナートとまたデートしたのねーってからかわれたけど。デートじゃないです、買い出しです。
練習ついでに食堂でお茶の時間を設けてみたら、騎士たち、飲みに来てくれるようになった。一緒にお茶して仲良くなれたし、なによりみんなとゆっくり話ができるようになって、色々なことが分かってきた。
特に書類関係の不満や疑問を雑談で聞くことができたのは、大きな収穫だと思う。それらをレナートと相談して改善するようにしたら、みんなの顔が明るくなった。
騎士として来たのに、ほとんど文字書いて一日終わるとかー! などという愚痴は、確かに! と思った。みんながみんな、読み書きが得意なわけではない。
中でも報告書は、そもそも何を書けば良いのか分からない、という声が多かった。それについては、私が『お手本』を作ることで解消。レナートも「問題がないことが分かれば良いし、問題があれば、それを書けば良い」と自由にさせてくれた。ほんと心が広い!
視察後、覚えとけよ! と豪語していたボイドは……ヤンの不在によって絶賛不完全燃焼中。
「すみません、家庭の事情で。ご迷惑おかけします」
とヤンは長期の休みをもらっている。その間、じゃあ私の護衛はというと。
「キーラちゃん、今日はこっち?」
「はい!」
様々な団員と一緒に、積極的に雑用をするようにしたら、心配そのものがいらなくなってきた。
少しでも騎士団員の顔と名前を覚えたいからと、手伝うようになったのだけれど、これが功を奏した。それに、
「危ない目にあったんだって? ここで作業したら良いよ」
と善意で守ってくれる騎士たちも、当然存在していた。もしかしたら、ヤンが何かしてくれたのかもしれない。
レナートが改めて調査したところによると、『素行の悪い』騎士団員たちはボイド傘下。その他は、報復が怖くて嫌々従っていたということらしい。
アーチーの街中での『告白』によって数名の仲間が処分・解雇され、王都での代金踏み倒しは王宮へも報告されるに至り、少しずつだけれど、平和になりつつある。
「キーラのおかげだ」
レナートがそう言うので、大したことはしていないですよ、と返したら。
「この『写し』のおかげで不正に金を得ることが難しくなっただろう?」
「はい、そうですね」
「資金源がないと、人はついてこないものだ。悪者は特に、な」
とのありがたいお言葉が。
レナートも、だいぶ表情が柔らかくなってきて――時々可愛いなって思っている。本人には言えないけど。
さて今日は練習用の武器磨きの日。
演習場脇のベンチで一生懸命に布で拭いているわけだが、とにかく数が多いので、大変!
「うわわ、剣が終わったら次は槍ですか?」
傍らに、山のようになっている刃のつぶされた剣の数々は、少しだけ輝きを取り戻していた。
それらをガシャガシャと持っていきながら、団員たちが苦笑する。
「そー。あと弓と、ナイフと、盾ね」
「ひえええ。大変ですね! みなさん。すごいです」
「キーラちゃんに褒められたら、やる気出るなあ」
「うんうん。がんばっちゃうね」
「ほんとですか? じゃあ、いっぱい褒めます!」
なんていう、和やかな日々が、とても嬉しかった。
◇ ◇ ◇
「要人接待? ですか」
「そうだ。今朝、王宮から通達が来た」
「ブルザーク帝国って?」
「リマニに住んでいたなら、少しは見たことないか? 軍船」
「あ! 時々沖を横切っていましたね。すごいですよね。大きくて強そうで」
「そうだ。あれが攻めてきたら、メレランドなどひとたまりもないような軍船をいくつも所有している、海の向こうの大国だ。こういった魔道具をそこから買っているんだが」
レナートは、こんこん、と机上のランプを指でつつく。魔石で点灯する、便利なものだ。
「あちらの軍――こちらの騎士団のようなものだが、人材を一新したらしくてな。海軍大将が直々に挨拶に来たいのだそうだ」
「かいぐんたいしょう」
「帝国の、海軍の中で一番偉い」
「ぎょええええ」
「カエルがつぶれたみたいな声だな」
「だって! めちゃくちゃ偉い人じゃないですか! 具体的に何をすれば……」
レナートが、渋い顔で紙をぺらりぺらりとめくる。
「晩さん会、夜会の護衛、道中の警備、王都巡回。もし王都観光に行きたいと言われたら、その付き添い」
「ぎょええええ」
「死にそうだな」
「ヤンさんは!」
「どうかな。帰って来られたら良いが……」
「ご家庭の事情、でしたっけ」
「そうだな」
「団長、眉毛がすごい下がってます!」
「はあ。なぜこのような小国にわざわざ……」
小国。そうか、メレランドは小さい王国なんだ。地図を見たら、アルソスは大きいけど、メレランドってこれっぽっちなの? て思ったもんね。
「ま、淡々とやるだけ、やろう」
「そうですね!」
さらに忙しい日々が、バタバタと始まった。
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