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【本編完結】ワケあり事務官?は、堅物騎士団長に徹底的に溺愛されている  作者: 卯崎瑛珠
第二章 誤解!? 確信! 仕事!!

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「レナート様」

「どうした?」

「あの、化けの皮が」

「……言ってくれるな」


 ホールの前の方で、王女にべったりと張り付かれている銀狐。感情が全部死んでる。あれは、あとで大暴れだよなあ。愚痴聞いてあげなくちゃ。

 それにしても、ソフィの方がまだマシって思っちゃうのは良くないか。王女様だしね。うん。

 あ、あれが国王と王妃かな。ステージのすごい大きな椅子から降りてきた。


「キーラ」

「はい」

「陛下のダンスが終わったら、一度だけダンスをしよう」


 楽団が楽器を構えて、静かに音楽が始まった。

 

「わかりました」

「初めてが、私の相手では申し訳ないが」

「どうしてです? 私は、レナート様がいいですよ」

「そ、うか。よかった」


 あ、耳の頭が赤くなっている。眉間のしわが少し緩んだ。


「レナート!」


 すると、少し青みがかった黒い髪を後ろで結んだ、体格の良い男性に声を掛けられた。

 

「団長。お久しぶりです」

「お前も団長だろ」

「そうでした」

「珍しく、可愛い子を連れているじゃないか。紹介してくれないか」

「は。私の専属事務官の、キーラです」

「キーラと申します!」


 即座にカーテシーをした。ちゃんとできているだろうか。


「そうかしこまらなくて良いよ。私はアルソス騎士団団長、フレッドだ」


 あ、優しい! すぐに姿勢を戻せた。

 

「フレッド様。ごきげんうるわしゅう存じます」

「うん。レナートの前の上司。よろしくね」

「え?」

「そういえば、言ってなかったな……」

「おいレナート、無口にも程があるぞ」

「……」

「キーラ。レナートはもともとアルソスの人間なんだ」

「そうなのですか」

「うん。師団長として素晴らしい功績だったから、メレランドの団長に推薦したのさ」

「なるほど! わかります。真面目ですし、強くて頭も良いですし、何より優しいですもんね」


 フレッドとレナートが、きょとんとしている。


「あれ? 私、変なこと言っちゃいました……でしょうか」


 だんだんフレッドの口角がぷるぷるしてきた。

 え? これもしかして怒られる!?


「ぶはっ」

「キーラ……嬉しい」

「へっ、はい」

「くっくっく。 安心した! キーラ、レナートをこれからも宜しく頼む。本当にとても良い奴だからな」

「はい!」

 

 じゃ、と笑顔でひらひらと手を振って去っていく。その背中を、周囲のご令嬢が羨望の眼差しで追っているが、全て無視していくのがまた、堂々としていてかっこいい。


「すごくかっこいい人ですね」

「うぐ」

「レナート様?」

「……天国から地獄……」

「へ?」

「なんでもない」

 

 なんか急にしゅんとしちゃった。私、またやらかしちゃったのかな。


「レナート様、私何かおかしなことを」

「いや。キーラは素敵だ。今のもとても良くできていた」

「そうでしょうか」

「さあキーラ。ダンスだ」


 す、と差し出されるレナートの手。

 私はたくさん練習したことを思い出しながらも、不安になる。


「大丈夫だ。楽しもう」


 でも、レナートが優しく微笑んでくれたから。


「はい!」


 私は、一歩、踏み出せる。



 

 ◇ ◇ ◇


 


「キーラ、僕とも踊ってよ」

 レナートとのダンスが終わって戻ってくると、ロランに話かけられた。

 王女様は? と首を巡らせると、むくれた顔で金髪碧眼の男性のダンスの誘いに従っている。

「あれは、アルソスの王太子。ナルシス王太子殿下、ね」

「なるほど」

「ごほん。キーラ嬢。このわたくしめと、ぜひダンスを」


 ロランがかしこまってお辞儀しながら手を差し出すので、私は笑いをこらえながらその手を取った。

 

「レナート、キーラ借りるね」

「……俺のものじゃない」

「え、そうなの? 僕はてっきり」


 にやける銀狐に、なんだか腹が立つ。

 

「ロラン様、それどういう意味ですか?」

「あー。なるほど鈍感!」

「は!?」

「眉間にしわ。それ、レナートじわって言うんだよ」

「おいこら」

「ぷっ、あははは!」

 

 思わず大笑いしちゃった! マナー違反。やらかしちゃった。


「いいじゃん。いこ、キーラ」

 

 ダンスホールのシャンデリアの下で微笑むロランは、やっぱり貴族なんだなあと思う。

 場慣れしているし、所作も綺麗。華麗にターンをさせられるリードも、柔らかなステップも、さすがだ。


「どう? 見直した?」


 性格以外はね! って言ったらすごく笑われた。

 でも私は、レナートの実直で優しいダンスの方が好きだなと言ったら

「それ、レナートに言ってやりなよ。絶対だよ」

 となぜかすごまれた。



 

 ◇ ◇ ◇



 

 あの平民の赤髪! いきなり舞踏会なんて、絶対に恥をかくだろうと思って呼んでやったのに。

 なんでちゃんと振る舞えているの?

 しかも、私のロランとダンスするなんて! ロラン、笑ってる。なんで? 私、王女なのに! あんな風に笑ってくれたことなんか、ない!

 あの女、絶対許さない。絶対、絶対、許さない!


 

 

 ◇ ◇ ◇



 

 帰りの馬車で、レナートはたくさん労ってくれた。

「陛下への挨拶も良くできていたし、ダンスも上手だった。たった十日間でよく頑張ったな」

「レナート様とロラン様の教え方が上手だったからです」

「……もしかしたら」

「はい」

「いや、なんでもない。疲れたな。明日は休みだ、ゆっくりしよう」

「そうですね! めちゃくちゃ寝ます!」

「ははは」

「あ、でも」

「なんだ?」

「ロザンナさんと、メリンダさんと、アメリさんに、お礼をしたいです」

「そうだな。一緒に何か買いに行くか」

「一緒に?」

「ああ。まだ事務官の給料は入っていないだろう。それに今回は私からも礼をしたい。キーラをこんなに可愛くしてくれた」

「……嬉しいです」


 また、可愛いって言った!

 胸が、なんか、すごいドキドキするよ。

 

「あの」

「ん?」

「ロラン様に言えって言われたので、言います」

「なんだ」


 正直に、私はロランより、レナートの実直で優しいダンスの方が好き、と言ったら。


「うぐごほ」


 レナートが真っ赤になって固まってしまった。

 私はどうやら、またやらかしたみたい……


 でも私は、確信を持って言える。

 あの時ロランの誘いに乗って、ここに来て良かった。

 仕事にはやりがいがあるし、優しくて真面目なレナートに、こんなにも大切にしてもらっている。


 

「また、お仕事がんばりますね!」

「ああ。よろしく頼む」

 


 その夜は、心地よい疲労感ですぐに眠った。

 後日、あんな騒動に巻き込まれるとは知らずに――

 

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