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【本編完結】ワケあり事務官?は、堅物騎士団長に徹底的に溺愛されている  作者: 卯崎瑛珠
第二章 誤解!? 確信! 仕事!!

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「キーラ、この決裁だが」

「はい、そちらは、王女様を迎えるにあたって新調した、各隊長のブーツ代だそうです」

「ならこちらは」

「馬の(くら)を新調したいと」

「ブーツは良いが、鞍は却下だな」

「そうですね!」


 タウンハウスに引っ越してから十日経つ。

 事務官として働き始めて、ようやく軌道に乗ったように思う。


「あーもう! 字は見たくない!」

「頑張ってヤンさん」

「おーう……」

 

 ヤンは、私の隣に小さな机を置いた。私のはボイドが勝手に持ってきた、立派な机なのに……と遠慮したら「どうせ見習いだし、本業は護衛だからさ」と明るく言われた。

 そんなヤンには、検算などの二重確認をお願いしている。私の計算した金額が合っているかや、誤字や脱字がないかを確認する仕事だ。

 

 私の方はというと、新しい仕組みを思いついてレナートに言ってみたら、ああでもないこうでもない、と真剣に相談に乗ってくれて。

 ヤンも交えて三人で意見を出し合って、採用され、騎士団全体へ通達された。

 

「キーラの考えた案は、非常に素晴らしい。これはできれば、王宮にも普及させたいぐらいだな」

 とお褒めの言葉を頂いている。

 それは初日に膨大な申請の書類を見て、食堂での注文や会計の経験を生かした知恵を絞ったもので――


「確認する箇所が共通してるだけでも、効率めちゃくちゃ上がりますね」


 とヤンも言ってくれて、なんだか恥ずかしい。

 ワックスタブレットに売り上げを書く時、エール、大皿、小皿、と位置を分けていたのを思い出しただけなんだけど。

 

「そうなのだ。本当に助かっている」

「お役に立てて嬉しいです!」


 経費の申請では申請書を出すことになっているが、みんな驚くほど適当に書いていた。

 

 そのため、一体何のための経費か、確認するのに苦労していたのだそう。

 そこで私は、出される紙と(つい)になる書類を、申請者に確認しながら作って、それを『写し』と呼ぶことにした。

 

 写しには『誰』『日付』『金額』『品物』『目的』を決まった法則と順番で書く。『目的』には、新調や紛失、壊れたなど、それを購入する理由が分かるように。そして申請者は、私が書いた内容を確認して、写しに署名をする。それでようやく、申請が受理される。

 

 受理された申請書と写しを一緒にレナートへ出すと、その妥当性を判断して、承認なら署名。却下なら署名欄にバツを書いて無効にしてしまう。申請書は申請者に戻して、写しは日付順に団長室で保管(念のため、鍵付きのところ)。

 

 申請者は承認された申請書を持って、王宮の管理官のところに行くと、経費に応じたお金が支給される。

 写しを団長室で保管することによって『勝手に署名』『申請金額の水増し』等の不正行為をされた時に、照合して糾弾できる仕組みだ。

 今まで杜撰(ずさん)な会計で、湯水のようにお金を使ってきた騎士団再生の第一歩。このままうまく行けば良いなと思っている。

 

「そろそろ時間だぞ」

 レナートが、机の上に置いてある懐中時計を見て告げた。

「わかりました。ヤンさん、行けますか?」

「んんーと、えっとここがこうだから……終わった!」


 んあああ、とヤンが伸びをしてから、すく、と立ち上がる。


「行くか」

「はい」


 私は小さなバスケットに、茶葉と焼き菓子のストックを入れながら応じる。

 一日一回決まった時間に、ロランのお茶を淹れに、副団長室へ行くのだ。


「また愚痴聞かされるかなあ」

「ふふ」


 ヤンのぼやきも分かる。

 お茶で緊張が緩むらしく、毎回愚痴が酷いのだ。それを聞くのも私たちの日課になりつつある。

 忙しいけれど、充実した日常ができ始めていることが、私にとっては何よりも嬉しい。

 

「しかし、通いのメイドさんには笑ったよなあ」

 廊下を歩きながらヤンがいたずらっぽく笑う。

「そうですね!」

 

 メイドのアメリさん(三十歳で、二人の子供のママだ)はレナートの顔が怖すぎて、会話できなかったんだとか。

 ヤンの人懐っこさがなければ、決して分からなかったし、解決しなかっただろう。ちなみに旦那さんは、パンやさん!

 

 今では誤解も解けたし、私たちが手伝う必要もないぐらいに、一生懸命働いてくれている。一人では広くて大変ではないですか? と聞いたら――横暴だったり、暴力を振るうお家! もあるのだとかで、レナートのタウンハウスは居心地が良いのだそうだ。ひどい話だなと思う。

 だからなるべくアメリさんが困らないように、洗濯物を分別したり、使っている部屋は私とヤンが掃除したり、など相談しながら協力している。とっても快適だ。

 

「キーラはすごいなあ」

「すごい? って?」

「人のために考えて動けるのって、すごいよ」


 それ、レナートにも言われたなあ。


「私ってほら、親も誰もいないから。生きるのに必死なの。必要とされなかったら……」


 捨てられちゃうかもしれないもの。

 って言う前に、ヤンに頭をぽんぽんされた。まるで子供扱いだ、と頬を膨らませたところで、ヤンは副団長室の扉をノックする。


 

 コンコン。


 

「はい」

「お茶の時間です」

「どうぞ」


 扉を開けるとそこには――ロランの他に、一番隊隊長のルイスが立っていた。

 

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