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【本編完結】ワケあり事務官?は、堅物騎士団長に徹底的に溺愛されている  作者: 卯崎瑛珠
第二章 誤解!? 確信! 仕事!!

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「というわけで、視察に備える必要がある」

 レナートが、手紙から顔を上げて言う。

 ボイドが大暴れしたのには、訳があった。

 団長・副団長が交替して半年経ち、王宮からそろそろ『現状視察』に訪れたいと打診があったそうだ。

 

 王宮関係に直接自分の力を誇示できる機会が訪れるのだから、部下を一人でも多く抱えていたいというのは、至極当然の要求かもしれない――それがまともな部下なら、だけれども。


「すっごい、いやーな予感」


 ロランが、ものすごいしかめっ面をしている。


「当たっているぞ」


 レナートも、それを上回る渋い顔。


「どういうことです?」

「ああ。早速で済まないが、お茶を淹れてくれないか?」

「あ! はい! 気が利かなくて、すみません!」

「いやいや」

「え? キーラ、お茶淹れられるの?」

「さっき、簡単な方法だけ、習ってきました。おいしくなかったらごめんなさい」

 

 メリンダさんが、とりあえず慣れるまではと、小分けにした茶葉にお湯を注ぐだけのものを十回分、作ってくれていた。

 それで量と蒸らす時間を少しずつ覚えたらいい、これは色が分かりやすいから、初心者向きだよ、と言って。


「うわあ。僕ここ、入り浸っちゃう」

「ダメだぞロラン」

「分かってるよ! でもレナートずるい!」

「あの、副団長室は、ないのですか?」

「来てくれるの?」

「えっと、団長が良いなら、ですが」


 ロランが、キラーン! と目を光らせた。一方でレナートの眉間のしわが、深くなる。

 

「時々で良いから、お茶淹れにきて欲しい! いいよね? レナート」

「……はあ。まあキーラのためにも、良いだろう。団長ばかり、と言われるのも良くはない」

「そうですね。わかりました。では、淹れてきますね」


 団長室の脇にキッチンスペースがあり、レナートが言っていた通り小さな魔道コンロも置いてある。簡単な食事なら作れそうだった。

 

 先ほどメリンダさんのお店で買ったティーカップを、もう使える! と心が弾む。

 

 団長のは濃い青の花、私のは赤い花で、お客様用のは黄色い花。同じ模様だけれど、色が違うだけでなんだか特別なものみたいだ。


「どうぞ。焼き菓子も、さっき買ってきたんです」


 トレイに乗せて、持っていく。レナートのは、執務机脇の袖机に置いて、ロランと私のは、ソファ前のテーブルに置いた。

 食堂で働いていた時の経験で、配膳に慣れているのが役立った。

 

「うわあ! 嬉しいなー。まさか本部でお茶できるなんて」


 ロランが素直に喜んでくれたのが、本当にうれしかった。やっと少し役に立てたなって思えたから。


「……うん、美味い」

 レナートがすぐにそう言ってくれて、心からホッとした。

「キーラも飲みなよ。おいしいよ!」

「はい、ありがとうございます。お茶も焼き菓子も、初めてです……すごい、いい香り。あ、美味しい!」


 二人の目線が優しくて、背中がこそばゆくなった。

 しばらくそうして、お茶とお菓子を楽しんでから。


「はあ。で、僕の嫌な予感は?」


 優雅なしぐさで、ロランが促す。


「ああ。来るぞ。お姫様が」

「うげえ」

「お姫様?」

「ああ」

「メレランド王国第一王女アネット・メレランド、だよー」

「へえ、王女様! それが、なんでうげえなんです?」

「ロラン」

「あーもー、はいはい。自分で言うのもなんだけど、ものすごい、しつっこく追いかけられてるの、僕」

「追いかけられてる、とは?」

「ロランと結婚したいんだそうだ」

「はあ」

「いやすぎ」

「嫌なんですか」


 ロランの口が、びっくりするほどへの字に歪んだ。悪いけど、おもしろい。


「どこの誰が好き好んで、ワガママ放題、可愛がられて当たり前、高飛車で傲慢なお子様と結婚したいよ?」


 レナートの肩が盛大に震えている。


「えーと、それは……嫌かもですね?」

「嫌だよ。しかも王女だからって無視できないの知ってて、追い込んでくる。性格極悪でうるさいし、最悪。大嫌い」

「言い過ぎ……でもないな」

「代わってくれよレナート」

「無理だ」

「だよね。『顔怖い! 嫌い!』って叫ばれてたもんね」


 ええっ!? なにそれ! 王女だからって、失礼にもほどがある! ――そりゃ、ロランにも嫌われるわけだわ!

 

「すまん」

「断れないよね、知ってた。遠征任務ない?」

「それで逃げても、日を変えられるだけだと思うぞ」

「はいはい! 言ってみただけ! 心の準備させて」

「二十日後だ。キーラも、色々準備が大変だと思うが」

「がんばります!」

「頼む」

 


 まあでも、王女様の目的はロランだし。私には関係ないなってどこかで他人事だった。

 ――その考えは、ものすごく甘かった、と痛感したんだけどね……


 


お読み頂き、ありがとうございました。

ワガママ王女様。嫌な予感しかしませんね。


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― 新着の感想 ―
[一言] すっかりキーラも馴染んでますね! これはまた波乱の予感。 続きが楽しみです!
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