19
そうして戻った団長室。
買ってもらった物を、机の中に整頓しながら入れていくだけで、地味に時間がかかる。
レナートは、私が下着を買っている間に「便利そうだった」と鞄まで買ってくれていた。
柔らかくて手触りの良い、落ち着いた赤色の革。肩から斜めに下げられるようになっていて、大きさも丁度よい。上から蓋をして、ベルトみたいなバックル(金色だけどきらきらしていなくて、いやらしくない)で締めると形がコロンと丸く変わって、すごくかわいかった。肩掛けのベルトも同じようにバックルがついていて、長さを好きに調節できた。
「その赤。キーラに似合うと思った」
私の髪の色? 嬉しい……
「ありがとうございます。すごく……すごく嬉しいです……」
贈り物なんて、今までで初めて! 大切に、大切に使おう。
「気に入ってくれたか?」
「はい! とっても! 大切にしますね!」
「良かった」
目を細めるレナートが嬉しそうで。さっきまでの胸の痛みが消えて、ポカポカした。
私、変だ。レナートのせいで、胸が苦しくなったり、温かくなったり。今は少し泣きたくもなってる。これって、一体なんなんだろう。
「キーラ? どうし……」
コンコン。
「団長、ロランです」
私は、急いで笑顔を作って、なんでもないですよ、と頭を振る。レナートは、眉間にまたしわを寄せたけれど、渋々
「っ……入れ」
と言った。
がちゃり、と入ってきたロランは、とても不機嫌だった。
「アーチーを処分したそうで」
開口一番、むすりと放つ。
「そうだが」
レナートは、あくまで冷静だ。
「ボイドが暴れて大変でした」
あー、ボイドの部下だったのか……納得!
「だろうな」
「はあ」
「ヤンは」
「巡回に戻してます」
「そうか、ご苦労」
そしてジトリと私を見るロラン。
「楽しかった?」
「へ?」
「団長と王都デート」
――時が、止まった。
「げほっごほごほ」
「へ!?」
「大変仲睦まじく、いちゃいちゃしてたそうで、羨ましいことこの上ないですね。この僕が! あの暴れるイノシシと! 戦っていたというのに!」
あ、八つ当たりかな。イノシシって?
「えっと、イノシシってなんです?」
「今度討伐に連れてってあげるよ! そこらじゅうにいるから!」
「ありがとうございます?」
「あー、ロラン。その」
「化けの皮、剝がれてますよ」
私が言うと、またレナートの目がまんまるになった。
呆気にとられるレナートを無視して、ロランはずかずかと入ってきて、どっかりとソファに身を投げ出す。私は、慌てて扉がきちんと閉まっているか確かめた――閉まっていた、良かった、と胸を撫で下ろす。
「もう、ここでは脱ぐ。やってらんない」
「おい……」
「キーラ、表向き僕とレナートは『超絶仲が悪い』からね」
「え?」
「そういうことで、よろしく」
「理由があるのですね?」
私がレナートを振り返ると
「そうだ。今はまだ言えんが」
と渋い顔。
「分かりました! 私も銀狐の弟子として、きっちりと化けの皮、被ります」
「っ」
「狐っていうより、子猫ちゃんだけどね」
「む!」
「レナートが、可愛い可愛いってうるさいけど、頑張ってね」
「へ!?」
ドン!
派手な音がしたかと思うと、机の天板にレナートは額を打ち付けていた。ぷしゅううう、て音がしそうなほど、耳が真っ赤になっている。
「あの……団長? 大丈夫です……か?」
ものっすごい音でしたよ?
可愛い? って……
「あ!」
レナートは、突っ伏したままだ。
「あ?」
ロランだけが、反応した。
「もしかして、あの『かわ』って言いかけてたのは……」
「ぶっ! レナートが!? ぶっははははは! 駄々洩れてる! 駄々洩れてるよ! 可愛いが駄々洩れてる!」
ロランって、本当に伯爵家の人なのかな?
「ひー! ひー! あの堅物がねー!」
あ、また引き笑いしてる。それ、やめた方がいいよ、どんな恋心も、きっと一気に冷めちゃうよ。
「あの、団長、私気にしませんから……その、小動物的なやつですよね……大丈夫ですから」
ぴたり、とロランの動きが止まった。
「ねえキーラ、それ本気で言ってる?」
「え? はい」
「うわあ」
今度は憐みの目。なんだろう、こんな綺麗な顔してものすごく残念。ある意味すごい。
「んん! ごほん! それより今後の仕事の話をしよう」
レナートが仕切り直そうとするけれど、おでこが真っ赤でイマイチしまらなかった。
「団長、その前に。おでこ、冷やしませんか?」
「うぐ」
「キーラ、やさしいね」
「普通ですよ?」
「……仕事の話をさせろ」
ロランと私は、顔を見合わせて、肩をすくめた。
「「はーい」」
「ごほっ。まずはボイドだが……」
お読み頂き、ありがとうございました!
二人を早くイチャイチャさせたくて、頑張って続きを書いております!




