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「キーラ、こっちにエールくれーーー!」

「はいおまちー!」


 ここはとある王国にある、小さな港町。

 漁を終えて家に帰る前に、ご飯ついでに一杯飲みに寄るような小さな食堂で、私、キーラは働いている。


「こっちにもくれー!」

「はいよー!」


 早朝から夕方まで、ここの食堂で給仕して、クタクタになって寝て、の繰り返し。

 その生活は、充実していたように思う。

 

 十八歳の私には、両親も親戚も、いない。

 十歳ぐらいの時に、漁師の老夫婦に拾われて、一緒に暮らしていたのが最初の思い出。つまり、私にはそれ以前の記憶も、ない。(だから十八歳、ていうのも、たぶん? な感じ)

 二年前にその夫婦が立て続けに亡くなって、何とか住み込みで働ける場所を、と探したのがこの食堂。マスターは元漁師だけど、膝を痛めて船には立てなくなって、料理の腕を生かしてやり始めたんだって。


 この食堂、自分で言うのもなんだけど、第二の家みたいな感じで、落ち着ける場所――の、はずだった。


「あーあー、ねむーい」


 夕方の、日が暮れかかっている時刻。

 大きな欠伸(あくび)とともにだらだらと出勤してくるのが、ソフィ。

 数か月前から雇われた、というか、勝手に居着いた? ()()だ。

 今日も今日とて、胸の谷間を強調した(ほぼ見えてる?)エプロンドレスに、ふわふわの髪の毛は縛りもせず、遊ばせている。


「ソフィ、遅いよ。髪の毛また結んでないし」


 私はもちろん、きっちり後ろで結んで、頭には布を巻いている。エプロンもしているし、男の子かと思った! てよく言われるけど、この方が動きやすいし、なにより清潔だ。


「キーラってほんとうるさーい。おばーちゃんみたーい!」

 

 ってクスクス笑われるのも、いつも通り。

 それに合わせて、エールを気持ちよく飲んでいるおじさん連中が

「ほんと色気ねーよなー! ソフィちゃんと大違いっ!」

 て調子に乗って、その腰や尻を撫でまわすのも、いつも通り。

「いやあん! どこ触ってるのよー!」


 

 ――きゃっきゃ言ってないで、さっさと料理運べ!


 

 って怒鳴りたいけど、怒鳴ったら、今度は泣かれる。

 

 前に一回怒鳴って泣かせたら、マスターに「泣かせるなんて……ここは俺の店だぞ」って言われてしまった。その後ろで、ソフィは舌を出して笑っていた。つまりは嘘泣き。私は、本気で怒られる。理不尽だ。だからもう、耐えるしかない。


「おい、料理まだかよ!」

「はい、はい、ただいまー!」


 私がテーブルの間を走り回るように忙しくしていたって、ソフィは常連客達とだらだらとおしゃべり。

 ぽよぽよのおっぱいを見せつけて、可愛いだの、魅力的だの、褒められて上機嫌。

 


 ――ソフィが来てから、夜も営業するようになった。小さな酒場として。



 私は、ソフィと入れ替わりで、部屋に戻る。

 彼女が何をしても、彼女の勝手だけれど。

 ただ、私の暮らしを、邪魔しないで欲しい。


 

 そう、思っていたのに。

 

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