「まさかの労働運動?」
前任者であるマシューが料理番に復帰してすぐ行ったのは、諸悪の根源である俺やセラたち料理担当を徹底的に排除することだった。
そこまでしておいて、提供する料理はクソまず飯ばかり。
塩辛い魚を焼いたのや野菜と豆の煮物がメインで肉はほとんど出ず、何を思ったかパンはハーブまみれ。
中世レベルのしかも修道院の食事なんてそんなもんではあるのだろうが、ここの子供たちは俺のせいで舌が肥えてるからな。
今や食事時間には地獄みたいな空気が流れてる。
「……ちっ、誰が諸悪の根源だよ」
一方、役職を解かれただの修道士になった俺は、完全にふてくされていた。
「人がどんだけ頑張ってきたかも知らず、大上段にクビ切りやがって……」
「そうだな、今回の件でキミに非はない」
今日も今日とて教室の片隅でぶうたれていると、隣の席のオスカーが俺の意見に同意した。
「マシューという男、さすがにやりすぎだ。いくら元料理番とはいえ。大体、ちゃんと調べればわかるはずじゃないか。ジローがしていることは教育的に正しい。セラはもちろん、ティアやマックスの成長の仕方だってそうだ。ここへ来た時とはまるで違っていて……なんだ、どうした?」
「いや、おまえが俺のこと庇ってくれるなんて珍しいと思ってよ」
「お、おかしなことを言うなっ」
俺がツッコむと、オスカーは顔を赤くして狼狽えた。
「特別おまえを庇って言ってるわけじゃないっ。不正義がまかり通るのが嫌いなだけだっ」
「はいはいそういうことにしとくよ、ありがとさん」
「この……っ!」
俺がひらひら手を振ると、オスカーは何かを誤魔化すように怒り出した。
「だっ……大体だな! キミはこのままでいいのか!? あんな男に料理番の座を奪われて、ただの修道士としてふて腐れているだけなのか!?」
「んー……」
「料理にしたって雲泥の差だろう! キミの作ったそれと違ってあいつの作ったのは死ぬほどまずい!」
完全に俺に胃袋を掴まれたオスカーが声を荒げる。だが、だからといってどうにも出来ないのが現状だ。
人事に関して俺に決裁権などはなく、グランドシスターが認めたのならばマシューから料理番の座を奪うことは出来ない。
「どれだけの人間がキミの料理を待ち望んでいると思ってるんだ!」
オスカーはなおも納得いかないようで、なんとしてでも俺に立ち上がるよう要求して来る。
そうこうするうちに、子供たちが俺の席の周りに集まって来た。
――そうだよ。ジローさんがやるべきだよ!
――あんな奴追い出して、元通りにさあ!
――出来ることがあるなら協力するよ!
最初は俺のことを怖がってばかりいた子供たちが、見たこともないような熱のこもった目を向けてくる。
「おまえら……」
食欲とイコールの熱意ではあるんだろうが、まあありがたいわな。
大人として、ここはなんとかしてやりたいところだが……。
「よしやるか。とはいえ、いったいどこから手をつけたらいいものか……」
料理という仕事から干された経験のない俺には、こういった状況で打てる手段が思いつかない。
さてどうしたものかと腕組みしていると……。
「ジロー! ジロー!」
子供たちをかき分けかき分け、セラがやって来た。
その後ろにはティアもいて、ハアハアと何やら息を切らしている。
「きょかとれたよ! 偉いおばーちゃんのきょか!」
「グランドシスターの許可?」
いったいなんの許可が下りたんだ?
ってかグランドシスターをおばーちゃんとか言うのいいかげんやめろ。
「戦うんだよ! ろーどー権を奪おうとする支配かいそーと戦うの! 怪しい機械があるなら壊しちゃえばいいんだよ!」
「おまえのおかーさんはまたなんてことを教えてんだよ……」
ラッダイト運動でもするつもりか? それとも授業のボイコットとか?
いや、だったら許可は下りねえか……ってことは……?
「エマさんとやったでしょ! 料理で戦うの! 決闘だよ!」
意外と血の気の多いところのあるセラは、拳を突き上げながら高らかに決闘を謳い上げた。
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