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【小説版も発売します】追放されたやさぐれシェフと腹ペコ娘のしあわせご飯  作者: 呑竜
「第2部第2章:エンパナーダのおもちゃ箱」
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「ティアという少女は」

 オスカーと俺との同部屋生活は、当然だけど上手くはいかなかった。

 第一印象が最悪だったせいもあるが、オスカーは事あるごとに俺に突っかかって来るようになった。


 修道服の着こなしがだらしないと文句をつけられ、ザントから持って来た荷解にほどきが遅いと無理やり片付けられ、夜ふかししないで早めに寝ろとランプを消され……。

 あまりにうるさいので「おまえ、オカンみたいな奴だな」と煽ってやったら「だ、だ、だ、誰が貴様の母などに……! というかそもそもボクは男だ!」と烈火の如く怒り出した。


 無駄に煽った俺も悪かったが、ともかく部屋には常にギスギスした空気が漂うようになった。

 あげくの果てには……。


「『同部屋の人間の成績が悪いとボクまで悪く見られるんだ!』 とか言って消灯ギリギリまで付きっきりの神学個人教授だぜ? たまらねえよ……」


 ある日の休み時間。 

 窓際の自分の席でぼやいていると、前の席に遊びに来たセラがケラケラと笑った。


「やっぱりセラと一緒の部屋の方が良かったねー。でも残念、男は男とじゃなきゃダメな決まりだからねー」

「まったくだ。おまえと同部屋ならあんなギスギスした空気にはならねえだろうな」

「毎日一緒に寝て~、一緒に起きて~。イチャイチャふーふ生活が送れるもんね~」

「ああ、この際それでもいいわ」


 いつもなら速攻否定してるところだが、精神的に弱り切っていた俺は何も考えずに同意した。

 思ってもみない肯定に驚いたのだろう、セラは瞬時に顔を赤くした。


「ふうーん……? ふうーん……? そーなんだ。やっぱりジローはセラのことが大好きなんだねー……?」

 

 修道服の裾をいじってモジモジ、上目遣いになってチラチラするセラ。


「あーいや、それほどでもないが、あいつに比べりゃマシって話」

「もうちょっと夢見させてくれても!?」


 ガァン、とばかりに頭を抱えるセラ。

 セラの隣に座っていたティアは、セラの激しいリアクションにびっくりして硬直している。


 おっとそうだ、こいつの紹介がまだだったな。

 

 ティア・シグムント。性別女。年齢10歳。

 セラと同じぐらいに小さくて、修道服がぶかぶか。

 セラと同じぐらいに容姿が整っていて、綿菓子のように白くふわふわの長髪や飴細工職人の作った最高傑作みたいな琥珀色の瞳が、まるで絵本の中のお姫様のように可愛らしい。

 セラと全然違うのは、人見知りで気が弱いという一点。

 困り眉で垂れ目がちで常にビクビク周囲に気を配っている、とても生きづらそうな感じの女の子だ。


「……しかしおまえの相方は当たりだよな。おとなしくて、年下で、まさにおまえ好みじゃないか?」

「おっと、うちの隊員に気軽に話しかけるのはやめてもらおうか」


 ふふん、とばかりに調子に乗ったセラは、俺とティアの間にがばりとばかりに両手を広げて立ちはだかった。


「ティア隊員は我がセラ商隊のせいえーだからね。他の商隊に引き抜かれでもしたら大変だから」

「俺は商隊率いてねえし、引き抜くこともねえよ」

「オスカーと交換とかも許さないから」

「あいつは男だ。どうやったって交換出来ねえだろうが。なあティア。嫌になったら遠慮なく言えよ? そしたらすぐにセラを叱ってくれる優秀なお姉さま方を召喚してやるから」

「ちょ、ちょっと待ってジロー。セラ別に、そんなに悪い事してないよっ?」


 カーラさん含めた年上の女性陣がはるばる自分を叱りに来る想像に震えたセラは、手をわちゃわちゃさせて慌てた。


「無理やり勧誘とかしてないし、ティアも乗り気だったし」

「ホントかああー?」

「ホントだよーっ。ねえティアっ、ねっ? ねっ? そーだよねっ?」

「え、えと、えとえとえと……っ」


 ティアは口を開いたが、ぽしょぽしょと小さすぎて、何を言っているのかわからない。 

 業を煮やしたセラは、自ら弁明を始めた。




 ~~~説明的回想シーン始まり~~~




「お邪魔しまあーっす! セラでーっす!」


 セラはバタンと思い切り自室の扉を開けた。

 ジローと同部屋でないのは悔しいが、自分より年齢の低い女の子が同部屋かもしれないと、希望に満ち満ちた表情で挨拶をした。


 しかしなかなか、返事は返ってこなかった。

 しんと静まり、そもそも誰もいなかったかのようだ。


「あれー? 誰もいないのかなー? セラの一番乗りかなー?」


 きょとんとしながら室内に足を踏み入れるセラ。

 中にはどう見ても先ほどまで誰かがいたような痕跡があるのだが……。


「ふうーん……? ふうーん……? なるほどね~?」


 腕組みしたセラは、キランと目を光らせた。


 猟師の家に産まれ、野山を駆け回って育ったセラである。

 その野生の勘は、平地で暮らす者の比ではない。

 部屋の中に隠れ潜む者の存在に、早くも気づいていた。


「誰もいないならしかたないかー。セラが一番乗りってことで早い者勝ちで、どっちのベッドを使うか決めさせてもらおうーっと♪」


 ふんふんとばかりに鼻歌を歌いながら、セラは二段ベッドの前に立った。


「上にしよっかな~、それとも下がいいかな~♪ 下のどっしり感もいいけど上から見下ろす感じもいいから上にしよう~……っと見せかけてええええええーっ!」


 上段に昇ると見せかけて、セラはガバリすさまじい勢いで下段の下を覗き込んだ。


「見つけたぞおおおおーっ!」

「ぴゃあああああああーっ!?」

「逃げられると思うなーっ!」

「いやあああああああーっ!?」


 下段の下に潜り込んでいたティアを、セラは無理やり引きずり出した。

 先に部屋に入っていたティアは、セラのハイテンションにびっくりして思わず隠れてしまったらしいのだが……。

 



 ~~~説明的回想シーン終わり~~~




「そんでね? そんでね? そのままの流れでティアを隊員に任命したの」

「やっぱり無理やりじゃないか」

「ええええーっ!? 違うよおおぉーっ!」


 セラは全力で否定するが。


「いやだっておかしいだろ。初対面の人間をベッドの下から引きずり出して、挨拶もそこそこに隊員に任命するとかどこの地方の奇習だよ」

「セラ商隊はそれでいいんだもん!」

「奇習については否定しねえのな……」


 チラリとティアを見やると、ティアはキョロキョロと俺とセラの間で視線をさ迷わせている。


「さっきも言ったが、ホントに嫌なら……」

「い、嫌じゃないです!」


 するとティアは顔を真っ赤にし、息を荒げて否定した。


「セ、セラ隊長はいい人ですっ! わ、わたしのこと叩いたりしないし! みんなの前で悪口言わないし! ご飯だって取り上げないで全部食べさせてくれるし! ろぼーの石ころじゃなく人間として扱ってくれるし! た、隊員とかはよくわからないですけど! わたし、セラ隊長と一緒にいるの楽しいんです! だからこれでいいいんです!」 


 この言葉に、俺とセラは思わず顔を見合わせた。

 人間として扱われるのが嬉しいとか、ティアのいた修道院ってマジでどんな環境なんだ?

 俺と出会った時のセラもたいがいだったが、少なくとも直接的な暴力は無かった。

 何ごとにも引っ込み思案なティアの性格も、もしかしたらその修道院で醸成されたものなんじゃないか?


「……おう、セラ」

「……なぁに? ジロー」

「おまえ、隊長なんだろ? 絶対こいつのこと守ってやれよ?」

「がってんしょーちっ」


 セラと共に拳を打ち合わせると、俺はしばしティアの様子を見守ることに決めた。

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