「あなたたちと、最高の朝食を」
~~~フレデリカ視点~~~
シスターだからといって、みんながみんな信仰心に篤いというわけではない。
職業の一種として選択する者もいるし、行儀見習いの一環として選択する者もいる。
わたしの場合は後者だ。
レーブ公爵家の三女として恥ずかしくないレディになるために、12の時に2年間の期限付きでやって来た。
豊かな自然以外に何も無い、極寒の修道院で暮らして早や1年。
公爵家の威光、そして自然に備わったカリスマ性もあって、わたしはみんなに一目置かれる存在になっていた。
おっと、もちろんそれだけではない。
この輝くような美貌は、やはり強力な武器だ。
黄金の糸を束ねたような髪の毛は背中の辺りでくるくると軽やかにカールし、瞳は極上のサファイアのように深い青色をたたえている。
肉体こそまだ成長途上にあるものの、そのたたずまいにはすでに大人の女性のたおやかさが匂い立ち……ああぁっ。
「……カ・ン・ペ・キっ」
鏡に映った自分の姿にうっとりため息をついた後、わたしは自室を出た(多額の持参金を支払った者は、大部屋ではなく個室を与えられるの)。
「あら、フレデリカ様、ご機嫌よう」
「フレデリカ様、本日もご機嫌麗しゅう」
廊下で待ってくれていたのだろう、マリオンとルイーズがスカートを摘まむようにして挨拶してきた。
「おはよう。マリオン、ルイーズ」
挨拶を返すと、わたしは先頭に立って食堂へと向かった。
共に名だたる商家の娘であるふたりはわたしと同じように行儀見習いとしてここに来ている。
王都で流行のファッション、演劇に音楽。
話題の合うわたしたちは、何をするにも一緒だ。
「そういえば、聞きました? フレデリカ様」
どことなく子狸に似たユーモラスな体型のマリオンが、辺りをはばかってか声をひそめて話しかけてきた。
「最近あいつが、厨房に入り浸っている理由」
「あいつってセラのこと? どうせ成績アップが狙いでしょ? いつまで経っても正シスターになれないから。もっとも、そんなもので鬼のシスター長が心を動かされたりはしないと思うけど」
「それがどうも違うらしいんですよ」
狐を思わせる細い目のルイーズが、やはり同じように声をひそめた。
「ニホンから来たとかいう料理番がいるじゃないですか。黒髪で黒い目の……」
「あなたがちょっといいかもって言ってた奴ね。鋭い目つきが素敵って」
「そ、そんなこと言ってませんわっ」
わたしが茶化すと、ルイーズは顔を真っ赤にして否定した。
「と、ともかくその料理番と、セラが結婚の約束をしたそうなんですよ。それであいつ張り切って……」
「結婚? セラと? いい年の大人が? ぷっ……くくくくく……っ」
あまりといえばあまりの組み合わせに、わたしは思わず吹き出した。
「そ、それは面白いわね。最っ高のジョークだわ」
おかしさのあまり涙を流しながら、わたしはふたりの肩を叩いた。
「それじゃあさっそく見に行きましょう。ふふ、それにしても今日は楽しい朝食になりそうだわ」