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「ジビエの解体」

 厨房の作業台を挟んで、俺は食料加工班のメンバーに事前説明を行った。


「野ウサギを捌く時に気をつけるべきことはふたつある。まずは単純に刃物を使うことの危険性。次にこいつらの血や肉には野兎病やとびょうと呼ばれる感染症をもたらす病原菌がついていることがあるんだ。症状としては熱、頭痛、悪寒、吐き気、嘔吐、衰弱、化膿、潰瘍。死亡率の高い病気じゃないが、死亡例はまあまあある」

『…………っ!!!?』


 すると、セラを除いた年少組の間から声にならない悲鳴が上がった。


「とはいえ、感染率自体はそれほど高くない。人から人への感染も無いし、皮手袋をするなどして予防すれば防げる程度のものだ。これは刃物による怪我等への重要な予防にもなり……」

「ちょっと待って、ちょっと待ってよっ」


 たまらずというように、フレデリカが起立した。


「なんでそんな危険なことをしなきゃならないのよっ。もっと他に安全な食材を使えばいいじゃないっ。わざわざウサギちゃんを食べなくても……っ」

「するとおまえは、今後一切肉類が食えなくなるがいいのか?」

「え」


 俺の脅しに、フレデリカは硬直した。


「飼育下に無い野生の鳥獣──ジビエの解体には、等しく感染症や寄生虫等のリスクがある。他からの物流が滞っている現状においてジビエ食を否定するということは、つまりはそういうことになるんだが?」

「え、え、だって……そんな……」

「大丈夫だ。適切な方法をもって処置する限りにおいて、ジビエは人間の味方だ」

「うう……」


 完全論破すると、フレデリカはふらふらと座り込んだ。

 俺たちのやり取りを見たせいだろう、他の年少組からの反論は無かった。


「納得いただけたようなので、実作業に移ろうか。まずはみんな、皮手袋をつけるように──」


 


 ──ちょっと……いやかなりグロいので、詳しい手順は省略します。申し訳ございません──

  



「うう……ひどい目に遭ったわ……」


 すべての野ウサギを捌き終えて倉庫に吊るすと、年少組は疲れ切ったようにドタドタとそこらに座り込んだ。


「大丈夫? フレデリカ? 顔色悪いよ? 治す?」

「治さなくていいわよ。……というかあなた、元気すぎない?」

「うん、セラはこーゆーの平気だから。おうちでいつもやってたし」

「そういえばそうだったわね……。それにしても狩りから戻ってウサギちゃんを解た……して、まだ動けるとか……」


 まだまだ元気なセラの様子に納得いかなげなフレデリカ。

 他の年少組もフレデリカ同様に死屍累々といった状態で、この後に何かできそうな感じはない。 

 マリーさんら年上組は普通にしているが、よく見るとみんな顔色が悪い。


「みんな、お疲れ様。以降の作業は明日行うとして、今日はゆっくり休んでくれ。頑張った分、美味い料理を食わせてやるから、夕飯を楽しみにしててくれよ?」

「あ……あなたまさか……」


 するとフレデリカが、震える指を俺に突きつけた。


「今捌いたばかりのウサギちゃんを食べさせようっていうんじゃ……」

「バーカ、そんなことするわけないだろ」

「そ、そうよね……いくらあなたでもそんな悪魔みたいな行い……」

「死後硬直を起こすとな、肉ってのは縮んで硬くなるんだ。下手に死後硬直前に加工したりすると、そん時に旨味の元である肉汁が流れ出ちまって悲惨なことになるんだ。だからジビエのマックスを味わいたいならある程度の時間を置くこと。死後硬直が解けて緩んでから行うこと。これが鉄則だ。つまりはすでに熟成しておいたやつを使うわけだ」

「……一瞬でもあなたを信じたわたしがバカだったわ」


 ふるふると首を振るフレデリカ。


「ほら、行くぞセラ。楽しい楽しい料理のお時間だ」

「わおーん! 『それが料理だ(セ・ラ・キュイジーヌ)』!」


 フレデリカの隣でニコニコしていたセラは、俺の呼びかけに反応すると、ウサギみたいにぴょんと跳ねた。

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