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「合理的な理由」

 ~~~カーラ視点~~~




「セラがいなくなって……二度と戻らないってのは……それは、例の聖女様を決めるという選定会議のことですか?」


 よほど驚いたのだろう。

 普段は見せない焦りを含んだ声で、ジローがたずねてきた。


「ええ」

「でもそれは、あくまでセラにギフトが……『癒しの奇跡』があると知られている前提の話ですよね? その……王都の本院に」


 わたしの表情を探るようにしながら、ジローは慎重に言葉を重ねてくる。


「でも、今は秘密にしているんですよね? あいつが大きくなるまで能力を使わせたくないからって。もっと体力精神力を鍛えてからだって。だったらそのまま伏せときゃいいじゃないですか。そしたら選定会議に参加する必要がそもそも無くなる。いつかは明かさなきゃならないんだとしても、相当先に延ばすことが……」

「……それはね、ジロー。伏せていられれば、の話なんです」


 ごほんと咳払いすると、わたしは説明を始めた。


「そもそもの問題として、セラの力を知っているのはわたしと修道院長、その他一部の者だけのはずでした。でも現に、あなたは知っている。この間のフレデリカの件よりも、もっと以前から」

「……あ」

 

 ハッとしたように口を押さえるジロー。


 ようやく気づいたのね。

 そう、その通り。


「人の口を完全に塞ぐことは出来ないのです。恥ずかしながら、それは宗教関係者わたしどもであっても」


 セラの噂は、いずれ王都本院に伝わるだろう。

 それが1年先か、2年先のことになるのかはわからない。

 だが、きっと……。


「4年後には知れ渡っているはずです。数少ないギフト持ちとして、当然、選定会議には出ることになります」

「他にも候補はいるんでしょう? セラよりも年上の、もっと強いギフト持ちが。なら、セラがそれに落ちてしまえば……」


 わたしは小さくかぶりを振った。


「『癒しの奇跡』は本当に希少な、強力なギフトなのです。歴代の聖女様の中でも、同じ力を持っていたのは初代マリア・アウグスト様と7代目リリーナ・エインズワース様のおふたりのみ。どちらの方も、歴史に残るような偉業を成し遂げておられます。例え落選したとしても、セラがザント(ここ)に戻される可能性は少ないでしょう。おそらくは王都本院の預かりとなり、より一層の修行に励むこととなります」

「それは……」

 

 絶句するジローに、わたしはさらに告げた。

 

「ただの料理人であるあなたが、セラについて行くことは出来ません。セラもここにとどまることは出来ません。あなたたちの関係はあと4年で終わりです。だからこそ……」

「……今はこれ以上関わるな、と?」


 胸の内から絞り出すようなジローの言葉に、わたしは胸を痛めた。


「仲が深まれば深まるほど、別れの辛さもまた深まります。その時セラはまだ14歳で、それほどの痛みに耐えられるかどうかわかりません。泣いてわめいて、それで済めばいいけれど、済まなかったとしたらどうなるか……」

 

 そんなこと、想像したくもないのだけど……。

  

「難しいことかもしれません。でもジロー、もしあなたが本当にセラのためを思うなら、もっと距離を置いてください。線引きを明確にして、なつかれすぎないようにしてください」

「それは……」

「それとも何か、理由がありますか? そうは出来ない合理的な理由が。あなたには」 

 

 意地悪な質問かもしれないと思いながら、わたしはあえてたずねた。


「理由……」


 ジローはぽつりとつぶやくと、何もない宙を見つめた。


「理由は……」


 なかなか出て来ない答えを、わたしはずっと待っていた。 

 広い広い礼拝堂の中、白い息を吐きながら。

 膝の上で拳を握り、じっと寒さに耐えながら。 

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