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「商隊到着!」

「ジロー! 来た来た! 来たよおー!? とうとう来たんだよおー!?」


 セラに引っ張られて厨房の外に出ると、修道院への長い長い上り坂を馬車が列をなして登って来るのが見えた。

 その数、実に二十台。

 荷台の側面に掲げられた真っ赤なのぼりには、『ランペール商隊』の文字がデカデカと踊っている。

 幟の下部に記載された数字は『001』。

 王国の商業ギルドに登録された中で最も古い、伝統ある商隊の証だ。


「しょーたいだよ!? 馬車がいっぱいなんだよおおーっ!?」 

「わかってる、わかってるからそう引っ張るなって」

「わおー、馬だ! 馬でっけー! ひひーん!」 


 ぴょんぴょん飛び跳ねたり俺の腕を引いたりと忙しいセラをなだめつつ、俺は厨房から修道院前の広場へと向かった。




 広場に辿り着いた頃には、馬はすべて頚木くびきから解き放たれて休息を与えられていた。

 馬車はすべてその場に根を下ろして商売モードに移行、それぞれにシスターたちが群がっては黄色い声を上げていた。


「ジロー! ジロー! どこ行くの!? そっちじゃないよ!」

「待て待て落ちつけ……ここははやる気持ちを押さえてだな……」

 

 今すぐ品定めにかかりたい気持ちを押し殺しつつ、俺はハインケスのところへ向かった。

 と言って、奴に挨拶をしようなんて殊勝な心掛けがあるわけじゃない。

 正確にはハインケスとカーラさんが話している中年男性に用があるのだ。


 でっぷり太った体をゆったりとした貫頭衣で包み、頭の上に金色の羽飾り付きのベレー帽をちょこんと乗せている。

 他の商人や御者、護衛たちとは明らかに違う貫禄で、ひと目でお偉いさんだとわかる。

 おそらくはこの人がヴェルナー・ランペール商隊長なのだろう。

 伝統あるランペール商隊の五代目であり、エマさんそしてレーヴ公爵家が懇意こんいにしている有力者だ。

 ひいては俺が、これから贔屓ひいきにさせてもらう商売相手でもある。

 ならば最初が肝心、絶対に粗相そそうのないようにしなければならない。


「セラ、おまえは先に馬車のほうを見てな。俺はあとから行くから」

「え? え? 一緒に行かないの?」

「大人同士の難しい話になるから、おまえにとっては退屈だろ? だから先に見ておいてさ……そのほうがいいだろ?」

「ええー……?」

「欲しいものあったら買ってやるからさ、な?」

「ううー……?」

「な? いいだろ?」

「うんー……、わかったぁー……」


 重ねて言うと、セラはようやくうなずいてくれた。 

 俺の腕を離すと、名残り惜しそうにしながらも馬車のほうに向かって歩いて行く。


「……悪いな、セラ」


 大事な局面であることを察してくれたのだろうセラに心の中で謝りつつ、俺はランペール商隊長のところに向かった。




「やあ、あなたがジローさんですか。エマ女史からお話は伺っておりますよ。決闘のことも、その腕前もね。有意義なお付き合いの出来る方だと太鼓判を押してくださいました」


 俺が挨拶すると、ランペール商隊長は満面の笑みで迎えてくれた。

 エマさんが上手いこと伝えてくれていたおかげだろう、両手で握手を求めてくるフレンドリーぶりだ。

 そう、これこそがエマさんが去り際に言っていたお礼(・ ・)の正体なのだ。


「さて、まずは初めてのお商いということですね。食品関係をお望みだと伺っておりますので……」

 

 良好な関係性の締結。

 望み通りの、しかも質の良い品々を満載した馬車の到着に、俺は有頂天になっていた。


 そのせいで、忘れていたことがひとつあった。

 俺と同じようにセラもまた、商隊の到着を楽しみにしていたことを。

 他の誰でもなく、俺と一緒に(・ ・ ・ ・ ・)見て回りたいと願っていたのだということを……。


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