「翌朝」
翌朝、セラの体調はあっさりと回復した。
寝間着のまま厨房に飛び込んで来るなり「お腹減った! お腹減った! わおーっ、わおーっ!」と狼みたいに騒ぐので、焼きたてのタルト・タタンに大奮発して生クリームまで添えてやったら跳び上がって喜んだ。
「ほら、そんなにがっつかなくていいぞ。誰も取ったりしないから」
「ぶん(うん)!」
セラが手づかみでかぶりつくようにタルト・タタンを食べていると……。
「セラが起きたってホント!?」
他のシスターに聞いたのだろう、フレデリカが凄い勢いで飛び込んで来た。
「ばー、ふれふぇひかだ(あー、フレデリカだ)!」
「ってあなたいきなり元気そうね!?」
よほど心配していたのだろう、フレデリカはへなへなと崩れ落ちた。
「なんか食べてるし……心配して損したわ……。はあ~……」
「その気持ちはよくわかる」
余っていたタルト・タタンを出してやると、こちらは普通にスプーンで食べ出した。
「あら美味しい……さすがはエマを倒しただけあるわねってセラ、あなたお行儀悪すぎるわよ? 少し考えなさいな」
「んー……」
セラの口の周りがひどいことになっているのをフレデリカが横から布巾で拭いてやるという、ちょっと前なら考えられないような光景が繰り広げられた。
これには俺はもちろん、遅れて現れたマリオンとルイーズもたいそう驚き……。
「フレデリカ様とセラが……?」
「こ、これはいったいどういうことなんでしょう……?」
口々につぶやくと、凍り付くように固まった。
「あら、あなたたちも来たの。そんなとこに立ってないで、ここに来て座りなさいな。分けてあげるから、スプーンも貰って来なさい」
フレデリカはなんでもないことのようにふたりを手招きすると、タルト・タタンを3つに分けて一緒に食べ始めた。
最初は警戒し、顔を見合わせていたふたりだが、タルト・タタンを口にした瞬間即堕ち。
きゃいきゃい賑やかな空気の中で、セラとも普通に喋るようになった。
昨夜、セラとフレデリカの間にどんな会話が交わされたのかはわからない。
だがこの目の前の光景自体が、ある種の証明になるのではないだろうか。
リーダーであるフレデリカがセラを仲間と認め、マリオンとルイーズもつられるようにして認めた。
3人組が味方になるのであれば、それは自然とセラの修道院での立場の向上にも繋がる。
いじめや冷笑するような雰囲気も、いずれは無くなっていくことだろう。
「……なるほど、なんだかんだで上手くまとまったってことか」
俺はひとり納得しながら、その平穏な光景を眺めていた。