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【紙書籍発売中】追放されたやさぐれシェフと腹ペコ娘のしあわせご飯  作者: 呑竜
「第2章:そば粉のタルト・タタン」
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「瞳の中の光」

 ~~~フレデリカ視点~~~




 勢いで飛び出したはいいけれど、すぐにわたしは行き詰まった。


 何せ夜の森なんて初めての経験だ。

 月のおかげで意外と辺りはよく見えるけど、道らしい道が無くて歩くのが大変。

 そして何より……。

 

「さ……寒い……っ」


 修道服は場所柄厚手のものだけど、それ一枚で耐えるのはさすがに厳しい。

 屋根や壁のある場所なんて無いし、食べ物だって持って来てないし……。


「……嫌だけど帰ろう」


 しばらくの葛藤の後、わたしは帰ることにした。

 このまま凍死するなんてまっぴらごめんだ。


 しかし……ああ、なんということだろう。

 この時わたしは、完全に道を見失っていたのだ。 




「いやもうホントに、誰か助けに来なさいよ……」


 最初はそんな風にぼやていたのだけど、寒さや空腹が身に染みてくると……。


「お願い。誰か来て……」


 という懇願に変わった。

 狼のものらしい遠吠えや、やたらと大きい鳥の羽ばたきの音に身を縮こめるようになると……。


「ごめんなさい。戻ったらきっといいコにしますから。神様……」


 わたしは何度も泣き、心の底から神に祈った。


 それでも助けは来てくれず、やがて明け方になった。

 喉の渇きがひどかったので、わたしは水場を探した。

 ところどころにある沼みたいなものの水は泥臭くて飲めたものではなかったので、なんとか川を探した。


 ようやく見つけた川は小さかったけれど、清冽な水を湛えていた。 

 喉を潤したら次は食事……といいたいところだけれど、川を泳いでいる小魚は素早くて捕まえることが出来なかった。

 見たことの無い木の実を発見したが、口に入れると痺れるような感覚があったので、すぐに捨てた。

 固まった樹液のようなものも舐めてみたが、これもひっどい味がした。


 そうこうするうちに再び日が暮れ、2日目の夜となった。

 

 怖くて、寂しくて、わたしは木のウロにうずくまりながらずっと泣いていた。

 もう死ぬんだと思った。

 みんなにあざ笑われたまま、このままここでひっそり。


「おうちに帰りたいよぉ……。お父様に会いたいよぅ……」


 王都の屋敷に戻りたい。優しいお父様に会いたい。

 最後に残された願いを、ただ呪文のように唱えていると……。


「……見つけたっ。見つけたっ! 見つけたよーっ!」


 最初は幻かと思った。

 だって、耳をつんざくような大きな声を出しているのはエマでなく、修道院長でなく、カーラさんでなく、マリオンやルイーズでもなく、ましてやあの失礼なジローなんかでもなく──まさかのセラだったのだ。




「なんであなたがここに……?」


 なんだか悔しくて距離を置こうとしたが、足に力が入らなくて立てなかった。


「ああーっ、怪我してるうーっ!」


 何事かを叫んだかと思うと、セラはわたしの足下にしゃがみ込んだ。

 血だらけになっていたわたしの脛に手をかざすと、スウーッと息を吸い込んだ。


「ちょっと、いったい何を……」


 何をするの。

 そう言おうとしたが、言えなかった。 

 次の瞬間に起こった光景に、わたしは息を呑んだ。

 なぜならば──大きく見開かれたセラの瞳の中に、明らかに自然のものではない淡い光がまたたいていたからだ。


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