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【小説版発売中】追放されたやさぐれシェフと腹ペコ娘のしあわせご飯【コミックもどうぞ】  作者: 呑竜
「第2部第6章:ふたりの少女は」

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「ごめんね」

 ~~~セラ視点~~~




 馬車が停車すると同時に、物資集積所の扉は閉ざされた。

 セラたちが馬車から降りると同時に、黒服を着た男たちがふたりを取り囲んだ。

 頬に刀傷のある、黒服たちの首領――スカーフェイスがティアを見て言った。


「んーで、こいつがそれ(・ ・)か? まったくそうは見えねえなあ」

「いえいえ、間違いございません」


 疑わしそうに首を捻るスカーフェイスに、アランが揉み手をしながら説明する。


「そうは見えないようにしているだけでございます。わたしどもは赤子の頃からこれと接しておりますのでわかります」

「そうですそうです、間違いありません。金貨三千枚、いえ四千枚は下らない価値を持つ娘です」


 アランの言葉を保証するかのように、メリダが続ける。


「ですのでわたしたちの借金はこれで帳消し……いえ、もっと色をつけてくださっても構いませんよねえ?」

「メリダ、あまり欲をかくな……っ」

「なに言ってるのあなたっ。これは一生に一度のピンチだけど、チャンスでもあるのよ? 役立たずの忌み子を売ったお金で大金持ちになるのよ」

「だが、さすがにこれ以上は……っ」

「借金の原因は、もともとはあんたのギャンブル癖のせいでしょっ? 毎回大枚張りやがってっ。下手くそのくせにっ」

「おまえだって男娼に通い詰めているくせにっ。月に一体いくら使ってるんだっ?」

「あんたじゃ満足できないからしょうがなく通ってるのよっ。というかうるさいのよっ、あの子を産んだのはこのわたしっ。お金だってわたしが全額もらう権利があるんだからっ」

「おまえ……ここまできて裏切るつもりかっ?」

「はいはいやめやめー」


 醜い言い争いを始めたアランとメリダを蹴り飛ばすと、スカーフェイスは改めてティアに向き直った。


「おまえもかわいそうな子だねえ。間抜けな両親に怖がられた結果捨てられて。あとあと金になるとわかったら攫われて、あげくは好事家に売り飛ばされる。正直やってらんないよねえ、同情するよ」


 まったく同情はしていない口調でスカーフェイスは続け。


「正直逃がしてあげたいつもりはあるんだけど、残念。こちとら仕事なんでねえ~」


 ティアに向かって手を伸ばしたスカーフェイスの手を、セラがパシリと叩いた。


「やめて! ダメだよ!」

「はあ~?」

「親が子供を売るなんて、絶対ダメなんだよ!」

「なんだあ? こいつ」


 スカーフェイスが周りに意見を求めると、すぐに答えが返って来た。

 ティアを捕らえる時に傍にいた、邪魔な子供。


「なるほど、面倒だから眠らせて、連れて来たと……ふむふむ。――じゃあもう、殺しちゃっていいよね?」


 スカーフェイスはティアに伸ばした手を、今度はセラに伸ばした。大きくごつごつとした指を広げ、セラの細い首にかけようと――


「ダメえぇぇぇぇぇーっ!」


 甲高い声が、物資集積所いっぱいに響いた。


「……ティア隊員っ⁉」


 押しのけられるような形になったセラは、たまらず後ろに転んだ。 

 転びながらもティアのことを心配し、即座に顔を上げ――見上げた先には、驚くべき光景が広がっていた。

 スカーフェイスもまたティアに弾き飛ばされていたのだ。大柄で骨が太く荒事(あらごと)にも慣れた男が、三分の一ほどの年齢の幼女に、苦も無く捻られていた。


 驚愕はさらに続いた。

 ティアの大暴れに巻き込まれた黒服たちが、物資集積所の天井に、床に、壁に、至るところに叩きつけられた。

 恐ろしいほどの力で叩きつけられた彼らはたまらず意識を失い、あるいは痛みのあまりのたうちまわっている。


「ティア…………隊員?」


 セラとてバカではない。半年ほど寝食を共にしてる間に、違和感を感じはした。


 どうしてこのコは両親に捨てられたのか。

 どうしてこのコはこんなに大食いなのか。

 どうしてこのコはなんでも噛み切れる丈夫な歯を持っているのか。

 どうしてこのコは他人に頭を触らせようとしないのか。

 どうしてこのコはセラの『癒しの奇跡』を、神々の慈悲たる光を吸収したのか。

 どうして、どうして、どうして――その答えが、今まさに目の前に広がっていた。


「ごめん……ごめんね、隊長……」 


 可愛らしかったティアの手は、いまや巨大に膨れ上がり、先端は鉤爪(かぎづめ)となっていた。

 可愛らしかったティアの足は、いまや巨大に膨れ上がり、修道服のスカート部を破り、鱗に覆われた太ももが露わになっていた。


「わたし……わたし、嘘をついてたっ」


 可愛らしかったティアの胴は、いまや巨大に膨れ上がり、引きちぎれた修道服が肩に引っかかっていた。

 可愛らしかったティアの顔は、いまやトカゲのように変貌し、鋭い歯の隙間から二股に分かれた舌が覗いていた。


「ティア……」

「わたし、ホントは、人間じゃ、なくて」


 可愛らしかったティアの背には、いまや巨大な二対の翼が生えていた。

 彼女の体の急速な変貌は、間違いない、ひとつの事実を告げている。

 そう――彼女は人ではない。マシューが口にしていたところの異形だ。

 本来あり得るはずのない、人間からの竜種への変化だ。


「ごめんね。もう、ザントには行けないの」


 涙を流しながら謝った彼女は、二対の羽根を羽ばたかせた。

 勢いのままに上昇すると、物資集積所の天井を突き破って飛び立った。


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― 新着の感想 ―
これは…日本人の心に住む中学二年生に刺さるやつ…!
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