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頭の中の音(本田恭子のケース)

 本田恭子は頭の中で鳴る音に悩まされている……


 ある日、親友が校舎から飛び降りて死ぬ。その翌日、親友は生き返っていた。謎に包まれる出来事に翻弄され、頭の中の音が大きくなっていく。

 カリカリ……カリカリ……



 私のこと本田恭子は、すごく頭痛に悩まされている。これは本当に頭痛なのかな? 女子高に入学してから頭の中に何か削っているような音が聞こえるの……


 今は窓から朝日が差し込んでる。学校に行かないといけない……憂鬱だ。つまらないことだけど、最近フォークで喉を刺した夢をみた。でも、夢だった……いまの状況だったら夢じゃなかったほうが良かったかもしれない。最近は頭の音のせいで直近で起きた出来事の記憶が曖昧だし…………


「恭子、起きなさい! 学校、遅刻するわよ!」


 お母さんが呼んでる。学校があるから朝ごはんを食べないといけない。学校に行きたくないから体が重いけど、学校を休むとお母さんが怒るから、私は起きて準備をするの。



 カリカリ……カリカリ……



「ねえ、お母さん。私、なんか変なの。頭の中でなんか音がなってる感じなの」


 私はお母さんに朝食を食べながら相談をする。今も聞こえる頭の中の音が気持ち悪い。


「頭の中に音? そう……()()()()()()()。今は急いでご飯食べなさい」


 お母さんは心配してくれない……あれ? なんか変。治るじゃなくて消える? ああ……頭の中の音が五月蝿くて考えがまとまらない……


 とにかく、私はお母さんに言われたとおり、急いで朝食を食べて、通っている女子高に向かう。



 カリカリ……カリカリ……



「おはよう。綾ちゃん」


 私が挨拶をしたのは二ノ宮綾ちゃん。この学校で仲良しの友達。私達は入学したときは普通に仲良しだった。でも……あの時から、そう……あの時から……


「きょ……恭ちゃん。お……おはよう。昨日大丈夫だったの?」


 私の考えがまとまらないうちに質問をされた。昨日? 何かあったっけ? うまく思い出せない。どうせ、いつもの事なんだと思う。全部アイツ達のせいだ……


「いつもの事だから大丈夫。綾ちゃん、心配してくれてありがとうね」


 綾ちゃんも私と同じで大変なのに……今日も憂鬱だ。こんな気分なのに、頭の中の音が五月蝿い。


『また、あの子達……コソコソと……気持ち悪い……』


 来た……私の憂鬱の原因。わざと聞こえるように言ってくる。工藤美穂を筆頭にしたグループ。私達は何もしてないのに、何故か彼女達の標的となってしまってる。入学式から目を付けられた。


「大丈夫なら良いんだけど……お互い頑張ろうね、恭ちゃん」


 綾ちゃんに言われて思考が戻る。そう……何事も起きないようにする事を、今日も頑張らないと……



 カリカリ……カリカリ……


 昼休み、先生に呼ばれて、用事を押し付けられた。今、私は倉庫から先生に頼まれた物を運んでる。なんで私がこんなことをしないと行けないの? 暑い……早く校舎に戻って涼みたい。暑いから頭の中の音が余計に五月蝿く感じる。


 ドスン! グチャ!


 荷物を運び終わって校舎に戻ろうと入り口に差し掛かった時、私の背後で何か大きなものが落ちてきた音がした。私は恐る恐る振り返る。……何? これって人? 手が変な方向に曲がってる……足が上を向いてる……


「き……きゃぁぁーーー!」


 私は大声をあげて、その場にへたり込んだ。校舎の中に入った場所だから、無駄に声が響く。そして、人のような塊が落ちてきた地面は血溜まりと化して、その塊に生えている足が地面に倒れる。やっぱり人だよ。更に足が倒れた反動で首がこっちに向き、その塊と目が合う。その顔は私が見知ったものだった。


「あ……綾ちゃん? い、嫌ぁぁーーー!」


 綾ちゃん何で? なんで上から? そう考えて上を見上げると屋上に人がいた。私はその傲慢な立ち姿をみて理解した……工藤美穂だ。彼女は豚を見てるような目で私を見てる。目を合わせてしまったの。ああ……頭の中の音が五月蝿く響く。


 カリカリ……カリカリ……



 その後、警察が来て色々調べているみたい。私も警察から事情聴取をされるようで、教室に残らされている。でも、彼女がいるから本当は帰りたいの……


「二ノ宮さんとは親友だったのでしょう? 本田さん大丈夫?」


 工藤美穂が、いかにも心配していますという顔で私のそばに来た。彼女は私が現場を目撃したことを知ってる。私は彼女が何を言ってくるかが怖い……もう震えるしかない。彼女はそっと私の耳元に顔を近づけてきた。


「貴女、警察に変なこと言わないでよ。私だって迷惑してるのよ。変なこと言ったら……どうなるか、わかってるわね」


 工藤美穂が、耳元で呟いたと同時に私の頭の中に『ガリッ』という一際大きな音が響く。頭が痛い……音が五月蝿い……



 カリカリ……カリカリ……


 あの大きな音の後の記憶が曖昧になってる。私はポツンと教室に残っていた。警察の事情聴取を受けて……それから…………思い出せない……


 校庭に出ると黄色い規制線は張られていた。けど、パトカーは帰ったみたい。頭の中の思考を削る音が五月蝿くて、目が霞んできた。これは涙なのかなぁ……景色がぼやけてるよ……


 帰りながら綾ちゃんの事を思い出す。大粒の涙が出た。綾ちゃん、明日から私はどうすればいいの? これから怯えて一人で過ごさないといけないの? そんな事を考えていても頭の中の音が鳴り続ける。



 カリカリ……カリカリ……



「おかえり。遅かったわね。何してたの?」


 家に帰るとお母さんが普通に質問をしてきた。何してたのって、学校から電話があったあったでしょ? 綾ちゃんが死んだんだよ。なんで、そんな平気な顔のままなの?


「なんかひどい顔ね。さっさとご飯食べて寝なさい」


 私はお母さんに言い返そうとしたけど、さっきから頭の中の音が五月蝿くて、うまく言葉が出ない。だから、考えるのをやめて言葉を絞り出した。


「そうするね」


 それからは、よく覚えてないけど、私は布団の中にいる。お母さんと何か話した気がするけど、そこには綾ちゃんの話題はなかった。そして、今も私の頭の中の音が止むことはない。五月蝿い……五月蝿い……



 カリカリ……カリカリ……


 朝起きて学校に行く。朝もお母さんは綾ちゃんの話をしなかったの。私に気を使っているのかもしれないけど、あまりにも不自然だ……


 学校に着くと何故か規制線が無くなっていた。もう撤去されのかな? 学校の配慮かもしれないけど、そんな簡単に規制線って撤去されるのかな? その事を考えれば考えるほど、頭の中の音が五月蝿くなる気がする。


 教室に着いて自分の席に座った。工藤美穂はまだ来てないみたい。なんだろう……教室全体に違和感があるの。そう……綾ちゃんの席の机に花が置いてるわけでもない。そういうものなの? 人が一人死んでるのに…………私は思いつめてしまって下むいたまま、考えてしまっていた。


「おはよ!」


 そう言って、綾ちゃんの席に誰かが座った。そこは綾ちゃんの席だよ。なんで座れるの? と思って、その誰かを睨んだら、その人物は綾ちゃんだった。私は目を見開くしかなかった。死んだはずの綾ちゃんが生き返ってる……深く考えようとするけど、やっぱり、頭の中の音が邪魔する。


「恭ちゃん、どうしたの? 私の顔に何か付いてる? いきなり睨んできたと思ったら、目をパチクリさせて? 頭痛がまだ治ってないの?」


 綾ちゃん! 私に色々な質問しないで! 頭痛は本当は頭痛じゃないの……頭の中の音が五月蝿いの……そして、どうして貴女はそんなに笑顔でいられるの?


「変な恭ちゃん…………あっ、おはよう!」


 綾ちゃんが声をかけた先は工藤さんのグループの女の子。綾ちゃん何してるの? 私達、目を付けられてるのよ。お願い、火に油を注がないで……ああ……頭の中の何か削っているような音が大きい! 本当に頭が痛いの……


 すごく不思議だった……綾ちゃんがその子に近づいた事で、教室の違和感の正体がわかったの。工藤美穂の席そのものがない。一体何が起きてるの? あー! 考えようとすると、頭の中の音が大きくなる! 五月蝿い……五月蝿い……五月蝿い……


 カリカリ……カリカリ……



 私は学校からの帰り道、今までの状況を整理してみたの。確かに昨日、綾ちゃんは死んだよ。でも、綾ちゃんは今日、生き返っている。そして、工藤さんはいなくなった。昨日の出来事はまるでなかったように消えたの。消えたって言葉に何か引っかかるの。なんだろう……思い出せない……


 そんな事を考えながら歩いていると、目の前を少しお年を召した綺麗な女性がいることに気付いた。お母さんぐらいの歳かな? お母さんぐらい? そうだ…………あの女性は工藤さんのお母さんだ。私は思わず話しかけた。


「あの!」


 その女性は怪訝な顔で私を見て返事をしてきた。


「はい。何か?」


 その女性は工藤さんの冷たい表情と瓜二つの表情で私を見てきたので、私の体が震えた。でも、私は聞かないといけない……


「く……工藤さんのお母様ですよね?」


 言ってしまった。ああ、頭の中の音が五月蝿い。その女性は考えた素振りを見せたあと、迷惑そうに私に言ってきた。


「確かに私は工藤ですけど、息子の知り合いなの? あの子は女子高生まで手を出してるのかしら? 貴女、申し訳ないけど諦めてくれる? あの子には既によく出来た彼女がいるのよ。だから、貴女が親と仲良くなろうと考えたかもしれないけど、私もその子を気に入ってるから無駄よ」


 そう冷たく言うと女性は立ち去って行く。そんな……確かに工藤美穂の母親()()()はず。いったい工藤美穂はどこにいったの?


 頭の中の音がまた大きくなった。もうやだ! 頭が割れそう……この音を止めて!



 カリカリ……カリカリ……カリカリ……カリカリ……


「恭子、起きなさい! 学校、遅刻するわよ!」


 いつものようにお母さんの声で目が覚める。でも、いつも以上に意識がまどろんでいる。頑張って朝の準備をして食卓の椅子に座る。


「ねえ、お母さん。私、なんか変なの。頭の中でなんか音が鳴っている感じなの」


 え? いま誰が喋ったの? 私は話してないよ? 頭の中の音がまた大きくなってる気がする。もう本当に嫌なの! 考えさせないで!


「頭の中に音? すぐに治るわよ」


 お母さん? 一昨日に私が聞いたときには、『()()()()()()』って言ったよね? なんで今日は『()()()()()』って言うの?


 思考をすればするほど、頭の中の音が大きくなっていく。五月蝿い……五月蝿い……五月蝿い……五月蝿い……五月蝿い……なにか、後ろに大きい音が迫ってくる気がする。何? 何なの! そして最後に、私は後ろを向いた。


『ガリッ! …………』


「どうしたの恭子? 突然、後ろを向いて?」

「ううん? なんでもないよ、お母さん。学校に行ってくるね!」


 

 カリッ……カリッ……


「ねぇ、恭ちゃん。変なこと言ってもいい?」

「なぁに? 綾ちゃん」

「最近、頭の中で何か音がなってる感じなの……私、病気かなぁ?」

「頭の中に音? ()()()()()()()。私も同じようになったことがあるから、大丈夫だよ。綾ちゃん」


カリッ……カリッ……


FIN.


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― 新着の感想 ―
[良い点] 語り口はホラーで怖いのですが、よくよく見れば誰も不幸になっていないのはすごいですね。ホラーだと後味悪いものも多いですから…。 [気になる点] お母さんは 何を書き換えられたのか? もしや恭…
[一言] なるほど、アペルピスィアがベクトルを弄るとこういうことが起きるのですね! ベクトルは細い水のような流れというのは面白い考え方ですね! 運命とかもベクトルの一種なんですかね? 学生時代の卒業ア…
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