幻想チクタク
過去の作品です
至らない点は多々ありますが、どうかご容赦下さい
カチリ、コチリ、秒針が進む。振り子が揺れる。
古い図書館によく似た時計店の一室で、私と向かい合わせに祖父が座っている。部屋一面にはありとあらゆる時計が置かれていた。水時計、砂時計、アナログ時計、振り子時計、電波時計、ランプ時計、原子時計、親子時計、ハト時計、目覚まし時計。そこかしこで時間を刻む音が鳴り響く。
「ねぇ、おじいさん」
「…………」
相変わらず起きているのか寝ているのか区別が付かない。
大きな古時計だけが百年の歴史を知っている。
おじいさんが生まれた時に、曽祖父からプレゼントされた時計らしい。私は昔から一定のリズムで揺れる振り子と、ボーン、ボーンと響く音が好きだった。
「寝ていてもいいけどさ。勝手に話すから」
寝息は聞こえず、時計の音だけが聞こえる。
「私ね、まぁ、色々とあったけれど、六月には式を挙げる予定だから、おじいさんにも出席して欲しいなと思うの」
もうすぐ時刻は二十四時を回る。
…………あ。
真夜中にベルが鳴った。
「……時計は汚いのに、音色は綺麗なんだね」
止まった時計。私が産まれた日に買ってもらった時計。素敵な彼氏ができた日を刻んだ時計。私とおじいさんが一緒に過ごした日を告げる時計。色んな時計。正直者な時計。狂った時計。大きなのっぽの古時計。
沢山の時計が、身勝手に私の頭の中で時間を刻む。
「ねぇ、おじいさん」
ボーン。と、古時計が返事をした。
「もし私に子供が産まれたら、柱時計を買おうと思うの。どんなのが良いかな? お店には時計が多すぎて分からないから、おじいさんに選んでほしいの」
とりあえず、おじいさんの大切な古時計と同じ型を買おう。
懐かしい匂い。木漏れ日の匂い。おじいさんの匂い。
「ありがとね、おじいさん」
ボーン。と、
遠くの空で合図を聞いた。
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