2話
龍之介は目を覚ます。周りは見たことのない光景だ。どうやら転生に成功したようである。とりあえず起き上がってみる。
「すごい違和感があるなぁ」
それもそのはずで、身長が縮んでいるのだから。もともと173cmあったのに今は1mもないんじゃなかろうかと言うほど縮んでいる。
「そんでここはどこ?」
周りを見渡すと、机と椅子と布団にキッチンは見える。部屋を探索することにした。
「何にもないなぁ。それに文明もそんなに発達してないんじゃないかこれ」
イメージは中世だ。いかにも異世界感漂う雰囲気である。部屋にはドアが前方と左に2つ見える。前方のドアの前には靴が置いてある。玄関だろうか。なので左のドアを開ける。
中はトイレだった。ボットン便所というやつだ。龍之介は存在は知っているが使ったことはない。平成生まれだと何も珍しくはないが…
それより重要なものがあった。トイレの部屋に鏡があるのだ。身長の関係上見えないので椅子を持ってくることにする。
「身長が低いとこんなに不便なのか…お母さんに感謝だな」
子供の時はよくお母さんに抱っこされて届かないものを取っていたなぁと思い出す。もう会えないと思うと少し寂しいが、転生する道を選んだのは自分だし後悔はない。
そして椅子を運ぶが、運ぶというより押すが正しい。持ち上げることは無理だった。
トイレまで椅子を持っていってその上に乗ると鏡に自分の顔が映る。
「これが俺の顔か、えらい目立つなこりゃ」
髪は銀髪で目が紫色だ。顔は幼い頃からでも分かる美形だ。女の子の格好をしたら間違われそうなほどに可愛い顔立ちをしている。
「とりあえず後は、俺のチート能力だけ分からないのか」
『すまんな、忘れてたわ。答えよう』
「うわぁぁあ!!なになになになになに!!!」
『そう驚くな、神だ。神。脳に直接話しかけている』
「こいつ、直接脳内に…」
『そりゃ、そうだろう』
残念ながら伝わらないようだ。悲しきかな。
『それで能力だが、色々考えたんだが、面倒だったから最強を与えた。その能力に目覚めるのは明日の朝だ。以上だ。じゃあな』
「ちょっとまってください!」
龍之介は急いで止めるが、もう返事はなかった。行ってしまったようである。
「最強ってなんだよ…もうすこし具体的に答えてほしかったな。というか明日かなんだな」
まあ、仕方がない。チート能力を貰えるのなら納得しよう。他にもきになることはある。自分の体について。何歳なのかもわからないし、目覚めたらいいけど家族らしき人はいない。アレはついていたから性別は男で間違いない。
「この体って誰の体なんだろう」
色々考えられることはある。よくあるのは、神みたいな人が肉体を作って魂を入れるだとか、元々は生活していた人の体に憑依するだとかが多い。
後者の場合は、周りに家族等がいる。今回はいないことを考えると前者の方がありそうではある。
もう少し言えば、この世界に目覚めた時寝転んでいたというのもある。場所も部屋の真ん中だった。そう考えると不自然に思えてくる。
考えても答えは神のみぞ知るというやつだ。実際神は知っているだろうが…
「とりあえず明日になってからだな。それよりも今日1日をどう過ごすかだが…」
明日になればチート能力が手に入るので今日一日をどうするかが大事になる。なぜなら、無一文だからだ。金がなければ水も飯も有り付けない。最悪1日程度なにもなしではいけるが、チート能力があるからとはいえすぐに金を稼げるかと言われれば疑問が残る。
なんて考えながら部屋を漁ると、1週間分の水と非常食のようなものだが食料が出てきた。いらぬ心配だったようだ。
(神さまがやってくれたのかな。恵まれてるなぁ。あの子助けてよかった)
助けたから死んだのであって、助けてなければ龍之介は生きている。良かったかどうかは微妙なラインである。
とりあえず1週間は大丈夫そうであった。
龍之介は食料を確認すると、外に出てみた。理由は特にないが見とかないといけないものではある。
「どこだここ…」
知らない場所だからということではない。
外が森だったのだ。ちょっと歩いて森を抜けて見ようとするが、森しかなかった。
「山小屋?」
森を抜けようと試みた時は降りたからだ。山小屋なのだろう。
山小屋ならやばいかもしれない。森を抜けないといけないし、周りには家がない。助けてくれる人もいないようだ。
「この体で森抜けて街まで行かんのか…?」
体はぱっと見だが、5、6歳程度だ。そんな子供が森を抜けて街まで行けるだろうか?魔法と剣の世界というぐらいだから魔物も出たっておかしくはないし、盗賊もいるだろう。
危険が多すぎる。無理ゲーすぎはしないだろうか。
「今日はおとなしくするか…」
龍之介はそのまま適当に時間を潰して、転生初日を終えた。
次の日目覚めると昨日はなかった手紙が机に置いてあった。
差出人は神さまだった。予想はしていたので驚きはしない。手紙の内容は、
『よう、ちょっと上から見てたけどまあ、なんとかなるんじゃねぇか?それよりお待ちかねの能力だが、お前に帝王龍の力とアイテムボックスを与えようと思う。アイテムボックスだが、無限に入る箱っていうイメージでかまわん。お前が思念すれば自由に出し入れできる。それで帝王龍の能力だが、昨日言った通り最強の能力だ。能力といえば意識しないと使えないイメージかもしれないがほぼ常時発動だ。内容は、自分の力がめっちゃくちゃ強くなる。どれくらいかは分からん、自分で確かめろ。魔法はイメージしたことを魔法として使える。例えばだが、火を出したければそうイメージすれば出る。出来ない例は人を即死させるとか相手に直接作用するものだ。後は龍化もできる。これも自分で確かめるといいが、あまり使わない方がいい。街の人がパニックになるからな。他にも色々あるがこの辺だろう。先程、常時発動と言ったが力は意識すれば使えるようにしてある。それ以外は普通の人と変わらない力しかでないから安心してくれ。じゃあな』
とのことだった。圧倒的な力である。チート能力をくれとは言ったがここまでのものをくれるとは思わなかった。使ってみないと分からない、ということで使ってみようと思う。
「まずはアイテムボックスだよな。とりあえずこれでいいか」
目をつけたのは椅子だった。
念じろと言われてもどうすればいいか分からない。
なので
(椅子をしまえ!)
そうすると、椅子が目の前から消えた。出す時も同様に椅子を出せ!と念じれば出た。他も色々試してみる。木の枝とか試してみた。
色々試してみた結果分かったことは、だいたいのイメージに沿って出してくれる。しまう時は近くにあったらしまえるらしい。不便なのは何が入っているか分からない事だろうか。
全部出せと念じれば全部出せるだろうが…
ということで出し入れができたので、水と食料をしまっておく。今は少ないがこれからものことを考えるとメモを取る必要がある。
「あとは、自分の力がやばいんだっけ、えっとこれでいいか」
龍之介が目つけたのは、そこら中にある木の一本だ。とりあえず殴ってみようと言う考えだ。
「これ、もし使えなかったら腕終わるかもなんだよな…魔法から先にしよう。回復魔法だな。うん、これさえ使えれば木殴っても治せるし」
ということで、魔法から使うことにする。魔法はイメージだと聞いているので、とりあえずやってみよう。使うのは水の魔法でいいと思う。属性とかあるんだろうがそんなのまだ知らんし水ならあるだろう。という考えだ。
「イメージか、せっかくだし攻撃力がありそうなものがいいな」
ここで思い出したのは、ウォーターカッターだ。水で物を切るとかいう昔の人が見たら腰を抜かすような技術だ。鉄とかに穴開けたら切断したりが出来たはずなので、威力的にも環境にもいいと思う。
「よし、イメージか。こんな感じでまずは水がチョロチョロ出るイメージで」
龍之介は自分の前に手のひらを広げて出す。そして手のひらから水がチョロチョロ出るイメージをすると手に何か集まった感覚がして、その後手のひらから水がチョロチョロと出た。
「おお、出来た!!!なんというか体から水が出るっていうのは変な感じだな。それは置いといて、こっからどうするか…水の量増やしてみるか」
もっとドバドバ出るようにイメージする。するとまた手に何か集まった感覚がする。さっきよりその何かの量が多い。そしてその感覚のあと、水が大量に出るようになった。
「意外とイメージ通りにいくもんだな。さっきから集まるのは魔力とか魔法を使う上での燃料だろう。それでウォーターカッターってこっから細くして水圧あげるんだっけか」
ウォーターカッターは水を限りなく細く射出する事でできる。それをイメージしていく。次は指先から出るイメージにする。なので人を指差すように人差し指を出す。すると、指先にかなりの魔力と思われる何かが集まった。そして、指先から水が射出された。
「…………」
龍之介の指から放たれた水はまず狙った木に当たったものの、急な力に体が予想してなく、指が曲がった。関節の動きで曲がったため折れるとかはない。問題はそこじゃないのだ。
指が曲がったことによる弊害がすごい。もちろん出続けるイメージをしていたため指が曲がったらウォーターカッターも同じように動く。
すると……………
『ズゥゥゥゥウウウアンンンンンン!!!』
大量の木が視界から崩れていく。数えきれないほどの木が切れてしまった
断面はスパッと切られたような綺麗な断面をしている。
「やってしまったのか…?」
自分の力が怖いとはこのこと。もし今のを人に向けたらどうなるか。今の龍之介の身長で考えると、上半身と下半身がおさらばすることになるだろう。
かなりグロテスクな光景になる。
そして、何を思ったのか大量に折れた木の一本に近づいていく龍之介。そしてそのまま木を力を込めて蹴り上げた。
すると……
『バァギャァ!』
蹴り上げた一部が弾けた。
「結構やばいよなこれ。これに、龍化もできるんだろ?怖いわ」
と言いつつ龍化も試す。いや、試しておかないと被害が半端なく出ることを考えるとやっといた方がいい。
「龍化ってそもそもわからないんだよな。これも魔法?」
魔法のイメージでどうにかなるのだろうか。それも出来そうではあるが、あの神様の言い方だと魔法ではなく別の能力にも取れる。
『悪い悪い、龍化は言ってなかったな。それは呪文を唱えないといけないやつだ』
「うわぁぁ!!!」
『そんな驚くな。龍化の呪文だが…………』
神様は龍化の呪文を龍之介に伝える。
「厨二みたいな呪文ですね…」
『まあ、しゃねぇだろ。伝えたからな、俺はもう行くわ。多分もうこうやって話しかけることはないかもしれん。俺の星でちょっと問題が出来たからな』
「分かりました、ありがとうございましたー!」
『おう、じゃあな』
あっさりした別れだった。そんなに深い関係でもないのでこんなものかもしれないが…
「龍化の呪文か、本当に厨二みたいなんだよなぁ」
伝えられた呪文はかなりの厨二要素が高い。周りに誰もいないことを確認して、唱える。
「龍の目は真実を見抜き 龍の牙は障害を噛み砕く 龍の鉤爪は闇を切り裂く 龍の体はあらゆる物から守る盾 我が体内に眠る古の龍よ 我に力を貸せ 顕現せよ!帝王龍!!!」