1話
「暑いな……もう帰りたい」
外は太陽がこれでもかというぐらいの主張をして、蝉も負けじと鳴いている。
その暑さに思わず呟いたのは、松田龍之介だ。高校3年生で、今は夏休みだ。大学受験があるので、塾の夏期講習に行かなければいけない。ほかの家族はいない。朝早くから旅行に行ってしまった。自分も行きたかったが夏期講習でいかなかった。ついてない。
今の気温は37度まで上がって湿度もそこそこ高い。この夏最高の暑さらしい。玄関を開けるとモワッとした熱気が押し寄せる。
さっきまでいた天国に戻りたい気持ちはあるが、受験生なので仕方がない。
龍之介は自転車に乗って、塾へ向かうため漕ぎ始める。塾は10分ぐらいの距離だ。たかが10分だが、されど10分だ。汗をかくのには十分な時間である。
龍之介はいつも通っている道を進んでいくつもりだったのだが、たまにある寄り道をしたくなる現象が起こってしまった。こんな暑いのになにを考えているんだという話だが、暑さで頭がやられてるのかもしれない。
いちおう、時間は余裕持って出てあるので、遅刻する事はない。いつもは右に曲がるところを真っ直ぐに行く。見慣れない光景だった。
龍之介の地元は田舎とも都会とも言えない場所で、家の近くにはコンビニやイ○ンやら高いマンションがあるのだが、少し逸れるとすぐ田んぼやら畑やらが出てくる珍しい場所だった。
イ○ンの20メートル離れれば大きめの畑があるぐらいには変わった場所だった。
今龍之介がまっすぐ行ったらすぐに畑が出てきた。今日は晴れているので畑の緑と空の青がよく映える。
(こういうところに彼女とかと来たらいいんだろうなぁ)
なんて思ってしまう。それぐらいには綺麗だった。
高校2年生の時に彼女がいたが、色々あって別れてしまった。少しその子に未練があるのか付き合っていた時の事を思い出していた。
そんな事を考えながら自転車をこいでいると、交差点に差し掛かった。
残念ながら信号に引っかかってしまったので止まる。
しかも目の前で変わってしまったようだ。
ついてない。
「ねぇねぇ」
まっていると横から声をかけられた。声の元を探すと子供が1人で立っていた。
「ん?どうした?迷子?」
「ううん、あのね、このねんへんにね、おもちゃやさんがあってね、そのね、場所がね、分からないの」
聞き取りにくいが、とりあえずおもちゃ屋を探しているようだ。おもちゃ屋はたしかにこの通りにある。いま龍之介が待っている信号を渡って左に曲がるとすぐにある。
「おもちゃ屋なら、あそこにあるよ」
龍之介はおもちゃ屋がある方向に指をさした。子供も分かったのだろう。「あそこか」と頷いている。
「ありがとう、おにいちゃん!」
子供は手を振って走った。龍之介も手を振り返した。そして龍之介は信号を待つ。
そして、冷静になる。子供が走った方は交差点のなかだ。龍之介は交差点を見る。子供は車にも気付かず交差点のなかを走っていく。
「おい!あぶねえぞ!」
周りの大人は龍之介の出した声で子供に気づいたが、誰も動けない。そして子供も龍之介の言った意味が分かったのだろう。そこで止まって蹲ってしまった。
そしてそこに向かう大型の車が一台。その車は子供に気づいていない。周りの大人は誰一人動けていない。あまりに急すぎてついていけないようだ。
もう車は子供に気づいても止まっても轢く、避けようとしても轢く位置まで来てしまった。
龍之介は自転車を捨てて、子供を助けに入るため交差点をダッシュで向かう。自分でも驚いた。見知らぬ子供を命がけで助けようとしているからだ。
そして、龍之介は子供を走った勢いを乗せて押した。
龍之介は子供を押すのに勢いを全部使ったので、子供と入れ替わるようになってしまった。
(ああ、ここで終わるのか…今日はついてないな…)
そのまま龍之介は車にひかれた。
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「…ここは?」
龍之介は目を覚ました。周りはシャボン玉の中にいるような光景が広がっていた。
「やあ、目が覚めたかい?」
声をする方を見ると20歳ぐらいの青年だった。
だが青年より自分がどうなったか、子供はどうなったか等、気になることが色々ありすぎる。
「まあ、とりあえず目が覚めました。ここはどこですか?」
「ここは、君たちの人間で言うところの天国ってところかな」
「ということは僕は死んだんですか?」
「その通り。死んだ割にはえらい冷静だね」
龍之介は死んだ。なのに龍之介の頭はとても冷静だった。助からないと分かっていたからだろうか。なせかは分からない。
「子供は!子供はどうなったんですか!」
「君の助けた子供は命は助かったよ。君が押した力で頭を打ったみたいだけどね」
「そうですか…よかった」
ほっと一息ついた。自分が死んで子供も死ぬとか最悪すぎる結果は無かったようだ。龍之介は理解している。子供を押したはいいが、反対車線だったことを。
車がいなかったのか、何かは分からないが助かったらしい。
「いやー、ほんと助かったよ。君のおかげで何億人と人が救われるんだからね」
「なんの話ですか?」
「実は未来のことなんだけど、奇病が流行る。感染力が高く、感染したら1週間程度で死ぬ奇病がね」
「助けた子供が治すための何かを作ると?」
「そういうこと。ワクチンを作るのは助けた子供の子供だけどね。ウイルスを発見するのは助けた子供さ」
「そういう事か…というかあなたはなんでそんなことが分かるんですか?」
重要な部分だ。今まで聞いていなかったが、なぜこの青年が分かるのか。そもそもこの青年は何者なのか。
「そういえば自己紹介してなかったね。僕は、君たちで言うところの神が一番近いと思う」
「神だからなんでも分かると?」
「そう言う事だね、正確にいえば、地球のことはね」
「その言い方だと地球以外にも生命がいる星があって、あなたと同じ存在があるみたいですよ?」
「あるからね実際」
「え…」
とても重要な事を聞いた。どうやら地球以外にも生命がいる星があるらしい。しかもあの言い方だと1個や2個ではなくかなりの数がありそうだ。
「そんな驚かなくても宇宙はとてつもなく広いんだよ?べつに驚く事じゃないだろう?」
「まあ、言われてみればそうですね。まあ、その神さまが僕に何か用があるんですか?」
「そうそう、その話をしないとね。君がこの地球を救ってくれたお礼に何かしようと思ってね」
「何かってなにができるんですか?」
「基本は転生だけどね。好きな星に転生とかって感じかなぁ」
「そうですか、どんな星があるかによりますよねそれ」
「例えば、魔法と剣の世界、とかどうかな?男の子だと興味あるんじゃない?」
龍之介はビビっときた。異世界転生に興味がないものなどいるだろうか。
「ぜひ!ぜひその世界に!」
「あははは、乗り気だね。じゃあそこに転生しようか。あともう一つギフトをあげようかなと思ってるんだけど何がいい?」
「説明お願いしていいですか?」
「例えば、チート能力を持って転生したりとか、ご飯食べたいなぁと思った時にご飯がどっからともなく出てきたりとかね」
「せっかくなんでチート能力でいいですか」
異世界といえばチート能力を持って転生だろう。
「チート能力は決まらないけどいい?向こうの世界の神さまが決めるから」
「そうなんですね。それでも大丈夫です」
「そうかそうか、じゃあ君の魂をその世界に送るね。いってらっしゃ〜い」
不思議な感覚に龍之介は包み込まれ、その場から姿を消した。
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「お前か、アレクが寄越した魂は」
「アレク?」
「地球の神だよ」
「あー、そうですそうです」
龍之介が目を開けると50歳ぐらいのおっさんがいた。見た目はヤクザだ。
「俺からも地球を救ってくれて感謝する。それで転生だったな。チート能力をつけるのも構わん。それに好きに生きてくれて構わない。例えばだが、その星にいる生物を皆殺ししても構わない」
「しないですけどいいんですか?」
「もともと俺の星じゃない。色々あってその星には神がいないんだよ。俺がついでにやってるって感じだ」
「そういえば神って何をしてるんですか?」
「ん?聞いてないのか?例えばだが、何か奇病とか流行る運命が見えた場合、それを治すワクチンを作れる才能を生まれる子供の誰かに与えたりだな。不運なことにその与えた子供が死ぬこともある。それをさせないようにするのも神の役目だ。アレクは忙しくて目を離していた隙にその子がやばくなって、お前が助けたから感謝してるんだろう」
「そう言う事でしたか。神様も大変なんですねぇ」
「そういうことだ、だから早くお前を転生させるぞ。転生の条件でもあるか?」
「チート能力と言語理解があればいいです。性別は男がいいかな」
「そうかそうか、分かった。じゃあな」
そういって神は龍之介を送り出した。
れっさです!よろしくお願いします!