第六十三ゲーム・音の始まり
その後、メアの回復術によって治療を終えた湊達は一度シンデレラ達と別れた。本当ならば、当事者でもあるシンデレラにもう少し話を聞いてみても良かったのだが、ほとんど話してしまったし、それに彼に至ってはほとんど気を失っていたのであまり進展はなさそうだと云う事で決着?がついた。シンデレラは治療が終わった湊達にお礼としてなにかしたいと申し出ていたが、朝から活動、しかも昨日は偽物とは言え牢屋に入れられてしまっていたため、ある提案がされた。湊達はナイト領地の恩人であるため、そして騒動に巻き込んでしまい、助けられたお礼として、シンデレラが部屋を貸してくれたのだ。使用人全員がいないため、ゆっくりと出来るだろうと云う配慮だった。湊達はありがたく休むことにし、結果、爆睡した。相当疲れていたようで湊と清光に至ってはベッドに飛び込んだ途端に寝てしまった。それを見て、ピィアレナがまるで母親のように小言を垂れていた。
まぁ、そんなこんなの昼(見た目は夜間)が過ぎ、再び朝(見た目は夜間)となった。湊達はシンデレラとメアに連れられて朝食をご馳走になった。そのあとのティータイムまでがシンデレラ流のお礼らしい。様々な話などをしておもてなしをしてくれた。
「本当にありがとう」
「お礼言い過ぎだよシンデレラ?」
「ふふ、そうよーあたし達、偽物に利用されそうになったある意味同じ被害者でもあるんだから」
応接室の豪華なソファーに座って紅茶を飲みながらシンデレラが言う。するとツキカゲがクスクスと笑って言い、ピィアレナも笑う。ピィアレナの隣には龍華が座っており、好きな味らしく頬を嬉しそうに綻ばせて紅茶をチマチマと飲んでいた。そんな彼を見てピィアレナも嬉しそうに笑っていた。二人が座るソファーの隣のソファーには湊とツキカゲが座っている。湊の膝の上にはまだ眠いのか「んにゃぁ~」と大きな欠伸をかます清光が丸まっている。湊は目の前のテーブルから自分用のカップを取ると最後の一口を飲み干した。新しく淹れようとテーブルのポットに手を伸ばす。とそれに気づいたメアがシンデレラの隣から静かに歩み寄るとテーブルに置かれたカップに紅茶を注いだ。守護霊はメア家に溶け込むように姿を変える。メアはメイドとして、シンデレラの傍らにいたのだろうと云うことが慣れた動作一つで理解出来た。まぁ使用人が誰もいないのでメアが率先して動かなければ行けないが。湊達は彼女の正体を知っているので無理はしなくてもよさそうなものだが…擬態が取れないようにだろうか。メアが近くにやって来て湊はちょうど良いかな、と思い、あれを聞くことにした。
「ねぇメア」
「?はい、なんでしょう?」
何故か小声になってしまい、メアも思わず小声で湊に返す。湊は清光に一瞬視線を向け、隣のツキカゲにも向けた。あの言葉の意味は、どういうことなんだろう?……少し不安に思いながらツキカゲ達の様子を伺うと彼らはシンデレラとなにか楽しそうに話していた。龍華は紅茶を飲んでいるが、楽しそうな会話を邪魔したくない。あとで言えばいっか!楽観的に考え、湊はメアに問う。
「あのさ、鈴の音って言ってたけどあれってなに?」
「小声のままで聞くんですね良いですけど……鈴の音?」
湊の疑問にメアは戸惑ったように視線をさ迷わせ、その視線を清光に固定させた。湊もその先を追って清光に視線が固定される。
「(やっぱり、清光の事だったんだ)なんで、清光なの?」
「……何故って、この子だからですよ」
「??」
そうニッコリと笑ってメアは清光の喉元を撫でた。眠っていたようで清光は眠気眼でゴロゴロと喉を鳴らした。メアは清光の気持ち良さそうな声と表情を見て優しく笑うとその首にあるアクセサリーに軽く触れた。メアの言葉に疑問符をたくさん浮かべていた湊はその意味を懸命に考えるが、全然わからず、諦めた。多分、メアにしか聞こえない鈴の音が清光から聞こえたと云うことだろう。彼女にしか聞こえない音をどう説明しろと云うのだ。と云うか、なんで清光からなのだろう?動物だから?「降参です」と言うように湊が両手を挙げる。
「どういうこと?」
「さあ?どうでしょう?」
首を傾げる湊にメアはクスクスと愉快そうに笑った。分からず仕舞いだ。湊は両手を下げ、軽く紅茶を飲んだ。もう終わったのだと感じ、メアが立ち上がった。その時、シンデレラと話していたツキカゲと目が少し合ったような気がした。メアはシンデレラの方へ戻ろうとして「あ」と声を上げると湊の元へ引き返して来た。
「?メア?」
「ちょっと忘れ物をしてしまいまして」
「ふふっ」と小さく笑うメア。不思議そうに首を傾げる湊の手を取るとその手に何かを落とした。少し重い感触と冷たい感触が湊の手に広がった。メアは楽しそうに笑いながら去って行った。再び清光が膝の上で眠りにつくのを感じながら、メアから渡されたものを覗き込む。
「マスター、それって小瓶?」
「小瓶…って言うよりはキーホルダーっぽいけど」
ツキカゲも興味津々で湊の手元を除き込んで来た。彼女の手には水色の小瓶が転がっていた。小瓶の中には二人と一匹の瞳と同じ色の碧色のサラサラとした液体が入っている。液体にはまるで夜空のようにこれまた小さな月と星が浮かんでいる。海のようで、夜のよう。湊はキーホルダーと言ったが、凝視して何か違うと思った。金具は付いていないし、恐ろしいほどにひんやりとして冷たいのだ。じゃあなんだこれは。怪訝そうに首を傾げながら小瓶…よりも小さな小瓶を摘まんで目の前に掲げる。
「メアー!」
「ボクからの餞別です。その子のためにも一応のお薬です♪」
湊に問いかけるとちょうど彼女は龍華のカップに紅茶を注いでいるところだった。メアは「ふふ」と笑って湊とツキカゲに向かってウインクをした。二人が顔を見合せ、そうして穏やかな寝息を立てる清光を見た。気持ち良さそうに眠る清光を見て、小さく吹き出した。彼女なりの気遣いに二人は感謝を表すようにメアに笑いかけた。ほぼ同時だったのでメアは「リア充ですか?」と小言を漏らしていた。
「そうだ。見せたいものがあったんだよ。持ってくるね」
「無理はするもんじゃないよ?シンデレラ?」
話し込んでいたシンデレラがパンッと両手を叩き、腰を上げた。左目は抉り取られると云う大怪我と悪魔に眠らされていたと云う事がある以上、此処まで普通通りに過ごしている事が心配と不安の種になってしまう。龍華とピィアレナが心配そうに彼を見上げるとシンデレラはクスリと笑った。
「大丈夫。左目に関しては静養中に慣れたし、敵が魔法を使うこともあるくらいだから不安は不要だよ」
「と、申されましてもボクは不安なので無理やり着いて行きますね」
「「良いぞ/わメア」」
「……あれま」
クスクスと笑ってメアがシンデレラの傍らに寄り添うように立つと心配していた二人が許可した。彼女ならば安心だろう、守護霊だし。何処かそんな意味合いも取れて、「えー」と少し不機嫌そうなシンデレラの顔が少し笑えた。そうこうして、シンデレラがメアと共にちょっと出ていった。その後も湊達は紅茶を飲んでいた。
「でさー!ピィアレナ、聞いてる?」
「聞いてるわよ湊ちゃん」
「ツキカゲ、それちょうだい」
「これ?はい、龍華」
「……なぁん」
楽しそうな声が響いていたが、それを終わらせるのは、いつも一瞬なのだ。
『解決しました。移動します』
湊が紅茶を飲もうと腕を伸ばしたその瞬間、あの無機質な声が響いた。転移、と云うことは誰でも分かっていた。けれど、帰って来たシンデレラとメアにどう説明するのかなー?そんな多少の興味を持ちながら、彼らの姿は一瞬にして消え失せた。
その数秒後、タイミングが悪いと云えば良いのか、良いと云えば良いのか。シンデレラとメアが帰って来た。湊達が忽然と姿を消している事に最初は不思議そうにしていたが、次第に理解したのか小さく笑った。そして、そのタイミングであの時の騎士が二人の後方に滑り込んできた。
「ナイトメア様!襲撃です!」
「…暇なのでしょうかね?」
騎士の報告を受け、メアがそう漏らす。確かに昨日の今日だ。早すぎる。シンデレラはメアが持っていた物に手を伸ばし、それを奪うように掴み取ると騎士に指示を飛ばす。
「領民の避難を優先させてください。避難が完了したら、敵を根絶やしに。あとはわかりますね?私もあとから向かいます」
「はっ!しかし、ナイトメア様は大怪我を負われた身。無理だけはなさいませぬよう」
シンデレラに頭を深々と下げて、騎士は全力疾走で駆けて行った。その後ろ姿を眺め、シンデレラとメアは同時に先程までいたはずの、恩人達がいた応接室を振り返る。
「ご覧ください♪」
「これが私達の戦いだよ」
さあ、もう一戦。戦いに赴く彼らの背後ではまだ湯気が昇るカップが置かれていた。
もう今日でこの周(章)、終わらせます!準備良いですか!?連続で行きますよご注意下さい!




