第六ゲーム・一日の終わり、一日の始まり
街の中にある宿屋の部屋を確保する事に成功した湊とツキカゲ。男女二人で一部屋を取ったので宿屋のオーナーからは「リア充か…爆発しろ!」と勘違いなお言葉をいただいた。違うけど嬉しかったので黙っておいた。ツキカゲはそんな湊を見て呆れたように笑っていたが。
彼らが取った部屋は横長の畳の部屋で、ベッドが四畳の部屋の両脇を挟むような位置で置かれている。湊が確認したところ、お風呂とトイレは一緒になったユニットバスだった。部屋の窓からは市場が見え、夕飯を買いに来た人々や仕事帰りの人々で賑わっている。ドーン、と左側のベッドに飛び込む湊。湊が飛び込んだ事でベッドが軽く悲鳴をあげながら沈み込んだ。宿屋で使ったお金を数えながらツキカゲが部屋に帰って来た。そしてベッドに寝転がっている彼女を見つけて、一瞬驚いたようだったが次第に呆れたように息を吐いた。全く、シワになる。そう思ったのは、いつもやっていたからだろうか。片腰に手を当てて怒るように言う。
「マスター!」
「うぅ~わかってるよーツキカゲ」
ツキカゲに怒られて湊はゆっくりと起き上がった。そしてベッドに「よいしょ」と声をあげながら座ると、悩み出した。何を悩んでいるのか、ツキカゲには容易にわかった。自分も不思議に思っていた事だから。
「異世界…世界を巡って、何をすれば良いのかな?」
「さあねぇ、僕には検討もつかないよ。僕は、マスターがログイン来たと同時にあそこにいたから」
「そうなの?」
「うん。目を開けたら真っ黒で驚いちゃった」
ふーん、と湊が言う。ツキカゲにもわからないか。最初からあそこにいた彼になら分かると思ったのだが、自分と同じように連れて来られたのならば、収穫はなにもない。湊はふと、疑問に思った事を自分の隣に何気なく座ろうとしているツキカゲに向かって問った。
「ツキカゲ、此処って本物じゃないにしてもストーリーは一緒なのかな?」
その問いの真意にツキカゲは一瞬、動きを止めた。だが、次第にその意味を理解し始めたらしく、ウンウンと悩みながら彼女の隣に腰をおろした。
「マスターは此処は本物、僕がいるゲームじゃないって感じてるでしょ?なら、違うんじゃない?」
「そうかなぁ。まぁ一緒だったらいろいろヤバいしねぇ」
湊はそう首を傾げて答えながら、「ヤバい」と云うストーリーを思い出していた。此処は、本物のゲームの世界ではない。それは何処か断言出来る。ツキカゲがいる時点でゲームと何処かリンクした、もしくはそっくりな世界設定を持った異世界と云うことだろう。だとすると、此処ではどうなるのだろう?〈乱殲ノ闘魂〉ではこの街で今のところストーリー史上最大の乱闘を繰り広げることになっていた。そっくりな異世界だとして、それは何処から何処までなのか。疑問点はそこである。もし、そっくりであるならば、何処が違うのか。対処方法が変わってくる。神様はそこさえも教えてくれなかった。巡ると言われても何をすれば良いのか。と云うよりも湊が聞く前に強制的に移動させられたと云う方が正しいのだが。全部答えてからの方が良かったのに。あ、そう考えていたらなんだがムカムカしてきた。このアバターならば、脅された仕返しに一発殴れるんじゃ?
ふと窓に顔を向けると外は既に真っ暗になっていた。何処でも同じである星々と月が暗い空にまるで宝石のように輝いている。
「ツキカゲの時間だね」
「ふふっ、今なら僕に敵う輩は誰もいないからね!」
ハハッと顔を見合せて楽しく笑い合う。ツキカゲと一緒なら大丈夫。そう本気で感じていた。だって、ゲーム内であろうとも相棒だったのだから。ツキカゲが窓のカーテンを閉めるために立ち上がった。
「………よろしくねツキカゲ。愛している」
「!?」
カーテンを閉めていると湊に突然そう言われ、ツキカゲはずっこけた。彼女を振り返ると既にベッドにはおらず、バスルームで「ああああ!!」とスルリと口を滑らした事を後悔し、叫んでいた。なんとも素早い。だがその声には何処か、嬉しさと云うか愛しさが滲んでいた。ツキカゲは頬を赤く染めながら軽く笑った。湊はそのままお風呂に入ることにしたらしく、バスタブに水を張る音が響き始めた。ツキカゲは軽く頭をかきながらベッドに座ろうとする。と、
「ツキカゲ!この服ってどうやって脱ぐの?」
「うえ?!え…」
バスルームからそう湊の声がした。ゲームのアバターとして着せた服なのだから着方を知らなくて当然だ。そして、彼女の他に着物の仕方が一応分かるのもツキカゲのみで。ツキカゲは羞恥で顔を真っ赤に染めながら、バスルームに向かい出し、足を止めた。外から伝えれば良いんじゃ?あっ、でもマスター出来るかな…?不安そうに思考を巡らせるツキカゲの足はいつの間にかバスルーム前にあった。中では湊が試行錯誤しながら脱ごうとしている。
「~~!!外から言うね!」
「あ、はーい!」
クスクスとバスルームから湊の笑い声が響いて来た。これから、苦労も楽しみも尽きなさそうだ。そう思いながら湊はツキカゲの指示に従って着物、と云うか浴衣ワンピースを脱ぎ始めた。
とりあえず、宿は重要ですよね。拠点拠点。