第六十ゲーム・悪魔の行方
そこにいたのは、獣と人間の姿を取った悪魔だった。翼を広げた途端、悪魔の人間の右手には大きな斧が握られた。左手は獣であり鋭くも爪が伸び、刃物と化している。ボーイッシュ・ロリータを着、右側は人間、左側は獣と言う半人獣のようになっている。片側だけを覆っていた仮面は顔全体を覆い始め、人間か獣かの判別が難しい。多分、全体を覆っているところから獣なのだろう。何故左右になってしまったのかは知らないが、先程よりも攻撃力が増した可能性は高い。その事実に湊は軽く歯を食い縛った。さっき四人で交互に攻撃して行ったにも関わらず、悪魔の動きを封じれなかった。と、云うのも一応、作戦らしい作戦はあったのだがそれを実行に移せずにいた。そうこうしてぐずぐずしていたらコレである。さっさと身動きを封じないと清光が!慌て、額に汗が滲む湊の肩をポンとピィアレナが叩いた。そして、言う。
「大丈夫よ湊ちゃん。落ち着いて?慌てちゃあ、ダメよ」
「でも…」
「大丈夫!」
ね?とピィアレナが湊の顔を覗き込む。湊は不安そうにツキカゲと龍華も伺う。と二人も大丈夫だと笑った。嗚呼、きっと。その頼もしい笑みに湊も力がわいてくる。そして、一斉に再び飛び出した。最初に悪魔に攻撃を仕掛けたのはツキカゲだった。低い体勢のまま迫り、大斧を手元から弾き飛ばそうと下から上へと刀を突き上げた。それを間一髪で大斧を回転させ、柄の方で上手い具合に防がれてしまった。バサリと翼が羽ばたき、ツキカゲに風の攻撃を送る。風を片腕で防ぎ、大斧目掛けて今度は片足を振り上げた。片手で防ごうと動き始める悪魔。しかし、笑うのはツキカゲであった。凄まじい殺気がツキカゲから放たれ、一瞬、悪魔の動きが止まる。その隙をついて手首に足を叩きつける。それと同時に振り回された左手に龍華の脇差が突き刺さる。伸びた爪と爪の間に脇差が刺さったらしく、まさかの緊急事態によって脇差が動かない。ツキカゲの攻撃に軽く呻きながら悪魔は両腕を大きく振り、二人を弾き飛ばしながら空中へ上昇する。
「!龍華!」
「オレは大丈夫!」
脇差が引っ掛かった状態であったために離れられなかった龍華を見上げ、ツキカゲが不安定な声をあげる。宙ぶらりん状態の彼を見つけ、悪魔が空いた大斧を振り回した。その一撃をクルンと逆上がりをする要領で間一髪かわすと回転したためか、脇差が外れた。遠心力を利用し、大きく空中へ飛び出す龍華。脇差を逆手持ちにして高い天井まで跳躍すると天井に足をつけ、蹴った。悪魔に向かって落下しながら脇差と爪を交差させる。カキンと音がしたと思ったのも束の間、助走をつけながら走り出した湊が悪魔の胸元に向かって踵落としを食らわせると回し蹴りを放ち、悪魔の態勢を崩す。空中で態勢を崩した悪魔に眼下からピィアレナがレイピアを突き刺しながら跳躍する。悪魔の足を掴み、力任せに振り下ろす。が、ピィアレナの力が勝っているわけではない。ピィアレナの重さに耐えきれず、悪魔はバランスを崩して落下する。翼にピィアレナが空中で回転をつけながらレイピアを突き刺す。トン、と落下する悪魔の肩に湊が踵をついて空中で着地する。そして、その仮面を剥ぎ取るかのように回し蹴りを放った。しかし、悪魔もやられっぱなしではなかったようで空中で大斧を振り回し、湊を撤退させる。ちょうどその時、床についた。湊は大斧をかわしたが軽く足首を傷つけてしまったらしく、顔を歪ませながら運良くソファーの上に落下した。その視線の先、悪魔は床に衝突する直前に足を捻って衝撃を和らげ、片足のみで着地する。そうして「来ないの?」と挑発してくる。取り込んだのが清光なためか、笑い声以外の声は出さない。けれども歪む顔が勝利を確信していた。でも、でもね、私達/僕達が勝つんだよ。
悪魔が大斧をブンッと振り回すとその風圧が部屋全体を地震が発生したかのように襲う。湊は慌ててソファーの後ろに隠れると同時に、近くにいたピィアレナの手を引っ張って同じようにソファーの後ろに隠させる。ブォン!と鈍い音と共にソファーを避けるようにして凄まじい風圧が通り過ぎて行く。が壁に反射し、湊とピィアレナの方へ向かって来た。逃げ場がないためその風を真っ向から受けてしまう。二人は顔を守るために顔の前で腕をクロスさせて耐える。通り過ぎて行った風を追いかけるように湊がソファーの後ろから身を乗り出して叫んだ。
「ツキカゲ!龍華!」
湊の鋭い声が響く先には同じように風攻撃を今まさに受けんとする二人がいた。悪魔は二人に的を絞ったらしく、大斧と爪を伴って二人に向かって跳躍していた。直立不動の二人と湊の声に悪魔は怪訝そうに顔を歪めたが知ったことかと大斧と爪を振りかざした。その時、龍華が笑った。
「それが、敗因だよ?」
「!?」
背筋を駆け巡る、凄まじく鋭い殺気。その殺気は悪魔の背後からやって来ていた。その殺気の出所を湊は知っている。隣で体勢を整えているピィアレナである。いや、今はそれどころではない。冷や汗が悪魔の額を伝う。汗が滑り落ちた、その時、二人に風が襲いかかった。が龍華が悪魔と風の前に躍り出ると脇差を振り、風を吹き飛ばした。その脇を通り過ぎ、ツキカゲが悪魔の爪を華麗にかわし、大斧の攻撃を刀で防ぐ。防がれた事に苛立った様子だった悪魔はその苛立ちをツキカゲに向けた。横目に迫る鋭い爪。しかしツキカゲは微動だにしない。不思議がっている場合ではない。トドメだと高を括ったのは。
「だから、言っただろう?」
「!?」
悪魔の爪とツキカゲとの隙間にいつの間にか龍華が滑り込み、脇差で攻撃をしていた。爪と指と手首が脇差によって貫かれ、悪魔が声に鳴らない悲鳴をあげる。だが、それでは倒せない。痛みに一瞬、ツキカゲが防いでいた大斧の力が緩んだ。その瞬間を逃すはずなど、今の二人にはなかった。バッと片手を龍華に向かって突き出す。龍華は悪魔から容赦なく脇差を抜き放つ。そうして彼を振り返った。その途端、龍華を四匹の龍が包み込み、一匹の龍となる。龍は脇差に吸い込まれ、脇差は勝手にツキカゲの手中に収まった。ツキカゲは脇差を力強く握り締めると、狼狽えたように後方へ痛みで足を縺れさせている悪魔の胸元へ思いっきり力強く突き刺した。勢い余って悪魔が後方に倒れて行くが知った事ではない。ピィアレナが倒れて行く悪魔に向かってソファーの後ろから飛び出した。そして床に頭を打ち付けた悪魔の右手に容赦なくレイピアを突き刺し、磔にした。痛みと抵抗で大斧と爪をまるで暴れるかのように振り回す。それらをかわしながら、叫ぶ。
「今!!」
誰が叫んだのか、それとも全員が叫んだのか。反響した声が部屋に響き渡った。悪魔が脇差を外そうと、脇差に手をかけた瞬間。脇差から四匹の龍が放たれ、悪魔の腕を縛り付け、体を縛り付け、足を縛り付けた。床に磔状態となった悪魔の口から悲鳴が漏れる。龍華の身に刻まれた呪いが悪魔の体に鋭い刃物となって食い込み、身動きと体力を奪って行く。スッと痛みに蠢く悪魔の傍らに龍華が姿を現した。それはまるで天女のように美しく、ピィアレナは思わず頬をピンク色に染めた。龍華は悪魔を見下ろし、ニィと嗤った。
「オレの復讐心が呪いとなったそれらは、どう?」
なんとも妖艶で妖しい笑みを龍華は浮かべていた。勝敗が決まった瞬間だった。
スランプだー……叫べば治るんですよ何故かぁ……




