第五十七ゲーム・ナイトメアにおかされたのは、
そうだとすれば、此処にいる動かない彼が本物で、身代わりを演じているのが偽物となる。なら偽物とは一体、誰だ?
誰もがそう思った次の瞬間、扉が大きな音を立てて開け放たれた。警戒し、慎重に扉を振り返りかけた湊達よりも早く、視界の隅で驚くシンデレラがなにかを言い放つよりも早く、甲高い声が響き渡った。
「彼は、偽物です!!」
「メア!?」
扉を開けて入ってきたのは肩を上下に動かし、息を荒げたメアだった。走ってきたのだろう、スカートは微かに乱れ、額からは汗が滴り落ちている。メアのその言葉に湊達の混乱は大きくなる。メアが言っている彼とは、どちらの事だ?その疑問に答えるようにメアは今まさに立ち上がり、彼らに真実を垣間見させていたシンデレラを睨み付けた。途端にシンデレラから距離を取るように湊達が一斉に身を引いた。ツキカゲが湊の手首を掴み、無理矢理後退させると自分の背後に隠させ、同じように龍華がピィアレナと共に後退し、背後に隠す。まだ昨日の異様な恐怖を感じるのか、肩が微かに震えている。清光も先程よりも大きく唸り声をあげながら、シンデレラに照準を合わせている。メアはソファーに身を委ねるもう一人に気づくとホッと胸を撫で下ろした。ほぼ確定だ。彼が本物で間違いないだろう。メアはこの館の住人であるのだし。いや、先程まで分からなかったのだろうからまだ少し不安だが。
シンデレラは先程よりも警戒率を上昇させた彼らを煩わしそうに一瞥し、扉を開けてゆっくりと入ってくるメアに鋭い視線を向けた。その視線に一瞬、メアの足が止まったような気がした。けれどもメアはその足を止めずにシンデレラを睨み返す。
「どうして、わかったかなんて、野暮な問いでしょうか?」
「ふざけないでいただきたいものです。その口調、主様のものではありませんしね。ボクの真似でしょう?正直、不愉快です」
「……へぇ、気づいてたんだ?」
ニィと広角を上げて、まるで口裂け女のように嗤った。その笑みはお世辞にも美しいとは言えなかった。それはまるで、正体を見破られて悔しそうにしているのを必死に隠しているようにしか見えなかったのだ。
「………そっか、それでシンデレラに違和感を持ったんだ」
「?んなぁ?」
ポツリと、心で思った事を無意識のうちに呟いた湊の言葉に肩の上にいる清光が疑問の声をあげた。自分が呟いた事に湊は口を抑えて驚いたようだったがツキカゲの「どういうこと?」と云う視線とも目が合い、仕方なしに言った。
「いや、ね?シンデレラの口調とメアの口調に違和感があって。別の違和感かもしれないけど…真似してたんだね、メアの」
「じゃあ、今、シンデレラの代わりって名乗った偽物は一体何者なの?」
「問題はそこだよねー」
湊の主張のピィアレナが納得した様子で問う。だが結局、それも違うような気が、湊はしていた。何処か違う。偽物と言われたシンデレラとメアが鋭い瞳で相手を睨み付ける。メアが湊達の中央に、シンデレラの目の前に来た。途端、身を委ねている方の彼が微かに動き、何かを呟いたように見えた。それにツキカゲは昨日から考えていた事が合っている事に気づいた。ニヤリと思わず笑ってしまった。ツキカゲの笑みにピィアレナが不思議そうに首を傾げていたが、龍華には意味がわかったらしく、彼と同じように小さく笑った。二人の笑みに気づき、シンデレラが怪訝そうに首を傾げた。
「何が可笑しいの?」
「ん?いいや?真相が分かってね」
「はぁ?」
ツキカゲが顎に手を当てながら少し自慢げに云う。シンデレラの顔が一瞬にして嫌悪にまみれた。ツキカゲに対しての嫌悪か、はたまた真相に対しての嫌悪か。いや、きっとどちらもだろう。ツキカゲはクスリと笑いながら云う。
「動かないシンデレラが本物で、身代わりを演じていると云う君が偽物であることは確定。偽物の正体は、悪魔か天使のどちらかかな?シンデレラを傀儡にしようと思ったけど適応しなかったから動けなかったのを利用したってところかな?」
「…なんで」
偽物、と断定されたシンデレラー偽物と表記しようか、今度こそーは喉から低い声を搾り出しながらツキカゲを睨み付ける。がツキカゲは逆に睨み返す。
「なんでわかったか?あのね、それはメアだよ」
「?ボクですか?」
突然、自分に振られ、呆気に取られた声を上げるメア。相当驚いたようで自分を指差している。ツキカゲは頷きながら話を続ける。
「君は言ったよね?『全ての使用人に暇を与えました』って。なのになんでメアだけは残っているの?僕達が来た時にはシンデレラ以外の、本物と偽物以外の誰もいなかった。けれど君は、僕達が牢屋に入れられたのをどういうわけか知り、謝罪と解放に来た。可笑しいよね?メアの言い分だと誰もいないはずなのに。筋が合わないんだよね。それに牢屋は僕から見てもとても巧妙に隠されていた。巧妙に隠された牢屋を知っている、と云うことは館に詳しい者と云うこと。そこから考えられるのは…マスターなら分かるんじゃない?」
「え?!私?!突然私なの!?」
「だって、彼女の正体を確実に知ってるのはマスターだけでしょ?」
「そうだけd…あ」
突然、メアのように舞台上にあげられた湊は驚きすぎたらしく、肩の上に乗っていた清光が転げ落ちそうになるのを間一髪で爪を引っ掻けて防ぐ。ツキカゲの推理を咀嚼しながら理解している途中だった湊は彼の言い分にあることを思い出した。此処で同じとは限らないが、もしかして…?可能性は、十分だけど!
湊は戸惑い気味に、躊躇気味にこちらを見ているツキカゲと視線を合わせるようにして云う。
「メア家を代々守護する、守護霊?」
「……っ」
「まさか、ちゃんと調べたのに!」
「あれ?知らなかったんだね?」
「!!」
メアが湊の答えに無言で視線を逸らす。それだけで肯定しているようなものだ。偽物の絶句した様子からするに敵である彼らにさえ存在を知られていなかったのだろう。だから、牢屋も、湊達もわかった。だって、守護霊だから。それを知っているのは本物のシンデレラだけ。おちょくるように龍華が云うと偽物はカッと頬を怒りか恥ずかしさかで真っ赤に染めた。それを横目にツキカゲは湊の答えに満足げに頷きながら続ける。
「また清光が唸ったのはシンデレラにではなく、『敵と云う偽物』に対して。最初、偽物に出会った時、清光は小さく唸り声をあげていた。それを合わせて考えると浮かび上がるのはさっきの仮説。この子が」
「にゃうん?」
話を途中で遮り、ツキカゲが湊の肩から清光を抱き上げると「この子ですよー」と言わんばかりに偽物に見せつける。それに偽物の表情が苦虫を噛み締めたように歪んだが、一方メアは清光を見て目を見開き驚愕しつつも何処か嬉しそうである。何故自分だと言わんばかりに清光が前足を微かに動かせば、少しだけこの異様な空気が和んだ気がした。あくまで気である。
「唸り声を上げるなんて危険か警戒しかない。清光はね、マスターを守ってると言っても良いほどなんだよ。彼女の意思を読み間違えるなんてあり得ないんだ。つまり、この子が向かって行ったのはこちらに危害を加える敵…牢屋に入れられた時くらいに考えてたんだけど……嗚呼、ほとんど合ってたんだねその表情だと」
悔しそうに顔を歪める偽物。その表情でツキカゲが導き出した推理がどれほど合っているのか理解出来た。
説明わかんなくなったらスルーですよいつも通り!説明って、難しいですね……
次回は木曜日です!




