第三十八ゲーム・黒猫?の憂鬱
「んじゃあ清光。君はこれからお風呂です!」
「にゃ?……にゃあああああああ!!」
湊に抱き上げられた清光が彼女の言葉に「イヤイヤ!」と暴れるが、湊はしっかりと清光を抱いているし、目の前には湊と同じ事を考えているピィアレナが待機している。前門も後門も逃げ道なし。清光は無理だと思い、ツキカゲと龍華に懇願の視線を向けた。けれども。
「我慢しな」
「しょうがないよ」
「………なぁあああん……」
湊達側でした。味方が一人もいない。清光は諦めたようで脱力した。暴れることをやめた清光に湊は満足そうに笑った。やっぱり嫌がるって事は猫なのか?いや、違うか。お風呂好きの猫もいるし…?
あの後、湊達は無感情の声により別の異世界に転移させられた。なにが解決の糸口だったのかはやっぱりよく分からない。あの声は新たな仲間となった龍華とピィアレナにも聞こえていたらしく、移動が完了し、目覚めた途端の第一声が「なにあれ!?」「あれが主人が言ってた神様?」であった。聞かれてもこっちが困る。あとあれは恐らくみぃちゃんじゃない。しかし、その後、驚くべきが起こったのだ。転移させられた部屋の天井からあの無感情の声が響き渡ったのだ。何処かにスピーカーでも埋め込んでいるんじゃないかと湊は疑ったが、そもそもスピーカーなんて埋め込んでもいなかった。響き渡っているように聞こえてはいたが、自分達にしか聞こえないようになっていた。
『此処は、解決されていま△*○×の*○×休憩に△◇☆さい。以上です』
途中、何を言っているのか聞き取れなかったがどうやら此処で休憩しろと言っているようだ。あの神様がわざわざ用意したとは思えない。けれど、転移させられたのは事実で。勝手に、と云うか転移させるのは自分達で自由に出来るわけでもない。考えていたって仕方がない。湊の記憶にもない、いやただただやっていないだけかもしれないゲームにそっくりな設定を持つ異世界なのだろう。そっくりのゲームを知らないためにもし「やれ」と言われても難しすぎる。そっくりなので難しいちゃあ何処も難しいが。まぁ、休憩をもらったのならば、時間いっぱいまで有意義に使わせてもらおう。そう判断した湊達である。ちなみに傷も以前のように治っていた。龍華とピィアレナが驚いていた。
はてさて最初の休憩は?と云うことで一番最初に上がったのが清光のお風呂であった。
「清光は黒い毛並みでしょ?血で汚れてもわからないじゃん。だからこれを期に洗おっか!」
と云うのが湊の言い分である。で冒頭に至る。どんよりと湊の腕の中で項垂れる清光の首元からピィアレナがうちの子の証であるアクセサリーを取り外すと近くのテーブルの上に丁寧に置いた。転移させられた場所はいつものように(?)何処かの宿屋だった。動物連れ込みOKの宿屋らしい。
「ピィアレナ」
「なに湊ちゃん」
「清光、大きくなった方で洗った方が良いよね?」
「なぁん!?」
清光が再び抵抗を始めるが女子陣の中では既に決定事項らしく、ピィアレナが「そうだね」と頷き、清光の頭を撫でた。パッシパッシと抗議の意を示す清光の尻尾。しかし、その抗議は聞き入れられなかった。
「この建物の外に庭があったからホースとか借りよ」
「うんそうだね!大きめのブラシも借りなくちゃ!」
「…にゃー…」
もうだめだ本気で諦めよう。力なく清光の尻尾が垂れて行く。そんな清光を見てツキカゲは少し可哀想に思えた。そのため、湊のもとに近寄り、こう進言した。
「清光になにかご褒美あげたら?そうすれば、清光も不貞腐れるんじゃなくてちゃんと頑張るよ。ね?」
ツキカゲの提案に湊はどう?と清光を覗き込むと清光は前足を口元に当てて、まるで笑っているようなポーズになる。だが清光の場合、これは考え込んでいるポーズだ。何故このようなポーズになるのか不明だが。清光は考え終わったらしく、片足を挙手するように上げた。
「良いの?」
「なああ!」
嬉しそうに清光が鳴いた。じゃあ、ご褒美は何が良いかな…今度は湊が清光のために考え込む。とピィアレナが清光が望んでいることに気づいたようで微笑ましく笑い、愛おしそうに一人と一匹を見つめた。だって二色の瞳が湊ちゃんを一生懸命見つめてるんだもの。分かっちゃうに決まってるわ。湊がそんなピィアレナを見て怪訝そうに首を傾げている。
「ピィアレナ?なにか思い付いたの?」
「ふふ。湊ちゃんとずっと一緒にいるのはどう?一日一緒」
ツキカゲが問うと彼女は清光に訊いた。一日一緒、と云ってもいつも一緒にいるのだからそんなに変わらないのでは?そう湊が云うように清光を見ると尻尾が湊の手首に絡み付いて来た。ピィアレナの案に賛成、と云うことらしい。
「あ、一緒って湊ちゃんが清光をかまわなくちゃ意味ないからね!」
「…甘やかすって事…?」
「なぁん♪」
ピィアレナの言葉にあんまり納得が云っていない湊が首を傾げたまま云うと、清光が「そう」と云うように鳴いた。そしてゴロゴロと喉を鳴らした。決まりだ。湊はわかったと頷いた。ピィアレナはにっこりと笑いながら湊の片手を掴んだ。
「じゃ、行きましょ!陽があるうちに!」
「うん!ツキカゲと龍華も来る?水浴び出来るよ?」
ニヨォと悪戯っ子の笑みを浮かべながら湊が言う。ツキカゲがどうするかと龍華を振り返ると、ベッドの縁に座っていた彼が立ち上がった。行く、と云うことらしい。ツキカゲが「だって」と伝えると女子二人は一気に扉へと駆け寄り、凄まじい勢いで階段を駆け降りて行った。恐らく二階であろうこの部屋にまで響き渡る足音。ドタドタ、だがバタバタ、だがはわからない。そして宿屋のオーナーにであろう「庭の水とホース借ります!」「大きめのブラシ貸してください!」という元気な声が響く。オーナーの奥さんであろう女性の「元気でよろしい!」という陽気な笑い声に男子二人が吹き出した。ツキカゲと龍華はクスリと笑い、ゆっくりと後を追った。龍華が出ていったのを確認し、ツキカゲが扉を閉める。鍵なんてついていないから、貴重品は持ったままである。とその前に清光のアクセサリーを奪うように取りに戻った。さて今度こそ。ガチャ、と無機質な扉を閉める音が響いていた。
ちょっくら番外編に入ります!




