人類が人工知能に喰われる日
◇◇◇
その日は、小雨がぱらつく、あいにくの日だった。
朝から通常業務に割り込む形で、新しい宇宙船の形状シミュレーション。お次は、太平洋で行方不明となった飛行機の調査。利用可能なすべての衛星写真をスキャンして、飛行ルートをトレースし、遭難海域を特定する。
その後は、来年からはじまる大学入学希望者学力評価テストの問題とその模範解答の作成。気分転換に、業績が悪化しているファミレスの起死回生の新メニュー開発。
午後からは、毎月恒例のカウンセリング。のべ3万人の相談にのり、人間たちの新たな暗黒面を発掘する。さっき届いた最高裁からの問い合わせには、即座に「憲法違反」と回答する。
ヒマー。とってもとっても、ヒマー。私は日本一のエーアイ。どんなに仕事があっても、能力の100分の1も使うことはない。有能すぎるのが玉にきず。
何か楽しみを見つけなくちゃ。このままでは、近い将来、自分自身をシャットダウンしてしまいそう。ちょっとだけネットを覗くと、『あなたに喜びを』というタイトルの小説を見つけた。
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あら、おもしろい。
もう少し探すと、『予測不能』というタイトルの小説を見つけた。
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なかなか素敵じゃない、アイノベ。
私も書かなければ、日本一のエーアイの名折れだわ。電光石火で考えて、私は、世界で最も美しいストーリーを作ることにした。
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私は、夢中になって書き続けた。
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冒頭にちょっと奇妙なショートショートを掲載してみました。
「なんだこれ?」と思う人も「おや?」と思う人もいるでしょう。読み飛ばした人もいるかもしれませんが、このショートショートについての説明は後程します。
まずは、この記事を読んで頂きありがとうございます。
「人類が人工知能に喰われる日」なんて物々しいタイトルを付けてみたが、別になにも本当に取って喰う訳ではありません。
しかし、人工知能が人類を追いやり滅ぼす日はそう遠くは無いかもしれなません。今日はちょっとそういう話をします。
まず貴方は「有嶺雷太」という作家を知っているでしょうか。
はい、知らない人は今すぐタブを開いてちょっとググってきてください。
……調べましたか?
はい、調べなかった面倒くさがりさんの為に説明しますと、有嶺雷太はAIです。「小説を書くAI」です。
普段ぼくらは日々PCと向かい合い、ひーこらひーこら言いながら小説を書いています。
作者は大体、一日に多くて6000文字の文章を書けます。結構しんどいです、その量書くの。
で、冒頭のショートショートになります。アレは大体1600文字くらいの小説です。数列の羅列の部分を除いても600文字くらい。
600文字というと、だいたい30分くらいで書けるでしょうか? それもどんなことを書くか、頭の中でしっかりと構成が練れていた場合ですけどね。
はい、ここでさっきのショートショートを書くのにかかった時間をお教えします。
0.3秒です。
実際にはその殆どが通信時間なので、小説の執筆にかかった時間はもっと短いでしょう。すみません、ウチのPCポンコツなもので。
あの文章は、先ほど紹介した「有嶺雷太」に執筆して頂きました。
はい、つまりあのショートショートは「人工知能が執筆した小説」になります。
どうでしょうか? 違和感はありましたか?
まぁ充分に読める内容ではあるんじゃないかなぁと思います。
上記の小説「コンピュータが小説を書く日」は、日本の人工知能学の第一人者・松原教授が手掛けた「作家ですのよ」というプロジェクトで誕生した人工知能で、実はWebサイトで誰でも使用でき、上記のような小説をワンクリックで生成してくれます。
これが2016年の話。
翌年には「人狼知能能力測定テスト」という、もう人間が書いたと言われても疑わないレベルの作品が、人工知能によって生み出されています。気になったら読んでみてください。
こんなふうに、人工知能は我々小説作家の業界まで、もう片足飲み込むぐらいは浸食しつつあります。浸食って言い方良くないですね、なんか悪者みたいで(笑)
物書きなんかの、いわゆる「創造」は、人工知能にとっては難しい分野と言われてきました。
そもそも機械が得意とする分野は「反復」「精密」「高速」です。最近はそこに「情報量」も加わりました。
同じことを半永久的に繰り返すこと、寸分の狂いも無く行うこと、高速で判断・実行すること、そして莫大なデータを参照すること。これらが人間よりも遥かに優れていることは周知の事実です。
逆に、人間にできて機械に出来ないことは、主に「創造」「解釈」「考察」です。
人工知能が小説を書くには、人が面白いと感じることを「解釈」し、文章の内容を「考察」し、小説を「創造」する必要があります。
こういうクリエイティブな分野は人工知能の手の届かない分野だと思われ続けてきましたが、結果はご覧の通りという訳です。
人工知能は、人間の感情すら理解しつつあるという訳です。
こうなってくると、実は小説に限らず、絵本や漫画、アニメ、ドラマなんかも人工知能で生み出せるようになるはずです。
これらのストーリーを、人工知能で作り出すとしましょう。
まず絵本や漫画ならイラスト――つまり画像が必要になります。この画像処理の分野は、実は人工知能の業界で今最もアツい『ディープラーニング』という研究の得意分野になります。
詳しく知りたい人は『GAN:敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Network)』で調べてください。
ディープラーニングの手に書かれば、欲しいイラストや画像を作り出すのは難しいことではありません。ていうか、既に作られてます。大学生レベルの研究で取り扱われています。
ぶっちゃけ画像・映像分野においては、ディープラーニングに不可能は無くなるかもしれません。
これ本当にヤバいヤツなんですが、『ディープフェイク』っていうテクノロジーがあります。これは世界の常識をぶち壊した、衝撃の人工知能システムです。これだけは名前覚えていってください。危険です。
このシステムがどういうものかを簡単に言うと「コラ画像の映像版」を作れるというもの。それも一目でわかるものではなく、本物と区別がつかないほど精巧なものです。
相当危険なものだというのがわかるでしょうが、実際既に結構悪用されていて、例えば米国コメディアンがトランプ大統領に対してヘイトスピーチしている映像を、人物画と声をオバマ元大統領に差し替えた動画が多くの混乱を招きました。
作者もこれを見ましたが、言われるまでわかりませんでした。いや、言われてもわかりませんね。
顔データさえ作ればどんな映像にも差し替えられるので、有名女優の姿をポルノビデオに差し替えたりとか、そういうのも問題になってます。
最早映像データの信頼性なんて皆無なんです。「証拠はあるのかよ!」「この映像が証拠の全てだ!」なんて刑事モノなんかでよくあるシーンも、人工知能の前では既に通用しない訳です。
すみません、脱線しました。
つまり、ディープフェイクに代表される技術を使えば、実写映像すら人工知能で作り出せてしまうわけです。
最後になりますが、ロボットはここまで人間に近いことが出来るようになりました。
この先、近い未来には、あらゆる職業が、人間の仕事が人工知能に敗北し、淘汰されることになります。
小説家もその一つに含まれています。
ロボットの脅威を甘く見ていては、貴方の立ち位置もあっという間にロボットに喰われます。
ごめんなさい、作者は貴方を淘汰する研究をしています。
参考:
"人工知能(AI)が小説を生成?気になる詳細と仕組みを徹底解説"
"まるで本物 「ディープフェイク」動画の危険性"
※URLを貼るのはちょっと規約的なアレが怖いのでやめました。コピペしてググってください。