第九話「遠い水源」
とことこ とことこ
水場を求めて森を進む。
やはり異世界なのだろう。
杉や樫といった見覚えのある植物もいくつか見受けられるが、見覚えのない植物の方が多い。
特に、青竹のように太くて長いツクシのような植物や、1枚の葉の大きさが僕の身長ほどもあるシダ植物などは、前世には存在していないはずである。
上部が平らになっている腰の高さ程の石を見つけて腰を下ろし、一時の休憩を設ける。
腰かけた石の上には分厚い苔が生えており、まるで高級な絨毯の上に座っているかのようである。
倒木のあったポイントから更に一時間ほど森の中を歩いたが、まだ水場の発見には至っていない。
まだ肉体的な疲れこそ少ないが、それよりも水源が見つからないことによる焦りが拭えない。
これまでの森の探索の中で、何か重要な情報を見落としているのだろうか。
このまま水源を発見できなければ、いずれ待ち受けるのは脱水症状である。
落ち着いて状況を整理しよう。
この森の豊かな植生から考えて、この森の中には、大量の水が蓄えられていると見て間違いない。
おそらく、この森の中には、毛細血管のように張り巡らされた幾本もの川が存在しているはずなのだ。
正直な所、この森での水源の確保は容易だと思っていた。
しかし、水源は未だに見つかっていない。
川を見つけられなかった原因として考えられるのは、この心の緩みによる無作為な森の探索と、自身の自然に対する観察力の低さのせいだろう。
この森の中を探索した時間を考えて、川の存在に気付かずにニアミスをしていた可能性は高い。
先ほど食べた幼虫の腹に詰まった黒色の内容物のような、しっかりと観察さえしていれば食べる前に気付けたような些細なヒントを見逃して、川の存在に気付くことができなかったのだろう。
文明社会から隔絶された大自然におけるサバイバル。
自然に対する真摯な姿勢を忘れてしまえば、たちまちに自然からの強烈なカウンター攻撃を喰らう。
今の状況は、そういうことなのだろう。
「思っていたより難しいな。自然の中で暮らすっていうのは。」
【持ち物】
白い布