第六十九話「5時間チャージ1日キープ」
もぐもぐ もぐもぐ
幾度かの休憩を挟みながら、10個目の果実を咀嚼する。
人間の先祖とされる猿。
その食事時間は、日に5時間を超える。
木の芽や果実を食べる猿にとって、植物とはそれ程に低カロリー。
この自然界に10秒チャージ2時間キープは存在しない。
今日の食事は、5時間チャージ1日キープなのだ。
ゴクン
「はい、ご馳走様でした。」
真っ赤な果汁でベトベトになった両の手のひらを合わせ、食した果実に感謝を捧げる。
僕のお腹はパンパンである。
「ウェップ。超食べた。お腹いっぱい。」
服の上から大きくなったお腹を擦り、自身の胃袋に健闘を称えて空を見上げる。
太陽の位置から判断するに、今は昼過ぎ2時前後。
午前中から食事を開始したのだ。
休憩を含めて、実に5時間以上である。
うむ。
満足である。
さてさて、食事も終わったことだし、そろそろ木から降りるとしよう。
お腹を擦っていた手を木の枝へと移動させ・・・。
ベトッ
「あ・・・。」
自分のやってしまった失態に、思わず声が漏れる。
僕の手は、真っ赤な果汁でベトベトだったのだ。
服の上からお腹を撫でればどうなるのか・・・それは、火を見るよりも明らかである。
神様から貰った大事な白い布で作った服・・・そのお腹の部分に、真っ赤な手形がついてしまったのだ。
赤く染まった白い布を呆然と見つめる。
「やってしまった・・・。」
川床に戻って穴を掘り、地中から湧き出る伏流水で洗濯をすれば、果たしてこの染みは取れるのだろうか。
否、白い布に付着した果汁は、赤くて濃い。
強力な漂白剤でも無ければ、この染みを完全に落とすことなど、とても不可能だろう。
幼稚園に通っていた頃は、大好きだった色水づくりで服にいくつもの染みをこしらえたのだ。
中でも、こういう赤い染みが落ちにくいのは、よく知っている。
ん・・・。
服についてしまった真っ赤な手形と、スミレ色の房に生った射干玉色の果実を交互に見比べる。
このベトつき、この色合い・・・加えて、疎らながらも規則的に実る果実の配列・・・。
「ヨウシュヤマゴボウ・・・?」
“ヨウシュヤマゴボウ”
それは、僕が、かつて色水づくりに使用していたお気に入りの植物の名前である。




