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第六話「初めての食事」

昆虫を食材として扱うことは、多くの日本人にとって馴染みのない行為である。


しかし、日本国内47都道府県に分布し、それぞれに独自の伝統と習慣を持つ日本人の中には、昆虫食を郷土の味とする者たちが存在する。


長野県民である。


長野県民は、イナゴや蜂の子、ざざ虫、バッタなどの昆虫を食材とし、独自の昆虫食文化を形成しているのだ。






おそらく、この食文化は長野県の地理と関係しているのだろう。


四方を海に囲まれた日本において、長野県のように四方を山に囲まれた内陸県は珍しい。


内陸県は、日本国内に8県のみ。


その中でも、日本アルプスを擁し、豊富な水源を背景とした広大な山林を有する長野県は、まさに昆虫が生育するのに最適な環境だったと言えよう。


そう、昆虫を食材として扱うことは、長野県民にとって当然の趨勢だったのだ。






だが、前世において僕に昆虫食の経験は無い。


日本国内で昆虫食の文化が見られるのは、長野県のようなごく限られた地域のみ。


加えて、僕が生きたのは近代日本と言う飽食の時代。


とりたてて昆虫を食べようとも思わなかったし、昆虫食が根付く地域に立ち寄る機会も無かったのだ。






仕方ない。


足りない経験は、前世から引き継いだ知識で補おう。


書籍、テレビ、インターネット・・・。


メディアの発達は、僕のような昆虫食の経験が無い人間にも、美味とされる昆虫が何かを伝えてくれていた。


3万年以上も前から変わらぬ生活を続けるパプアニューギニアの少数民族が美味しそうに食べていた物は何か。


そう、それは、木の中に潜む幼虫である。






目の前には、樹皮を剥いで表出させた木質部もくしつぶの上を、一匹の白い幼虫がぐねりぐねりとうごめいている。


光や外気に触れた為だろうか、先ほどよりも幼虫の動きが激しい。


また木の中に潜られる前に、手早く食べてしまおう。


幼虫を3本の指で寿司のように摘まみ、口に運ぶ。






異世界転生を経て、記念すべき初めての食事である。


果たして、この幼虫はどのような味がするのだろうか。


いくつかのメディアから得た情報によると、生の幼虫は、ナッツやバター、クリームのような味と上品なコクを併せ持っているそうだ。


なるほど。


これは信頼性の高い情報である。


一般的に昆虫のカロリーは、牛ロースに匹敵する程の高カロリーだ。


同様に高カロリーとされるナッツやバター、クリームに味が似ていたとしても、何ら不思議ではない。


それでは、実食だ。






幼虫を口の中に放り込む。


5センチほどもある幼虫は、5歳児が一口で食べるには少し大き過ぎたのかもしれない。


幼虫が口内をパンパンに満たしていて、非常に噛みにくいのだ。






ぷにゅっ ぷにゅっ


幼虫の外皮はゴムのような弾力で、軽く噛んだ程度では歯が押し返されてしまう。


次は、全力で噛もう。


そして、僕は、奥歯に力を込めて再び幼虫の外皮に歯を立てた。






ぴゅるっ ぴゅるるっ


弾力のある外皮が弾け、ドロっとした幼虫の体液が口の中へと流れ出した。


幼虫の体液が口内を満たして行き、濃縮させたカビの臭いと池の底に溜まった泥を混ぜ合わせたような強烈な臭気が鼻腔に充満して行く。


ああ・・・やってしまった・・・。


どうやら、僕はメディアの情報に踊らされていたようだ。

近年、ヨーロッパでは昆虫食の導入が進んでいます。


美食の国フランスでは昆虫を使ったお菓子が売られ、2018年からはEUでの食用昆虫の取引が自由化されています。

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