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第二話「白い布」

木々の間を風が走り、葉の騒めきが聞こえる。


「少し、寒いかな。」


背の高い木々の間から差し込んでくる太陽の木漏れ日は暖かいが、森の中を冷たい風が吹いている。


何より全裸である。


今はまだ日中なので肌寒いと感じる程度であるが、夜までに保温のすべを準備しておかなければ、転生初日に凍死という可能性も十分ありうるだろう。


なるべく早めに寝床を見繕い、日没までに火を起こして暖を取らなければならない。







季節の頃は春であろうか。


木々や草の葉先を見れば、瑞々しい新緑と新芽が目立つ。


しかし、それ以上に目を引くのは、この森に自生している木々の大きさである。


試しに両の腕を横に広げて木々の幹と大きさを比べてみるが、多くの木々の幹の幅は、僕の広げた両の腕より遥かに大きい。


両手を広げた長さを1m程度と仮定すると、直径にして2m前後の木々が多く自生しているのだろうか。


見受けられる木々の中でもひときわ大きな巨木を見上げれば、木の頂点にあたるこずえは葉に遮られて見えず、柔らかな日差しのみが葉の間から差し込んで来ている。


一体、どれ程の時を生きればこれ程大きく成長するのだろうか。


数百年、あるいは、数千年にも及ぶ悠久の時をこの森の中で過ごしてきたのだろう。






この森を育む悠久の時に思いを馳せながら木々を見上げていると、一枚の大きな白い布がゆらゆらと舞い落ちてくるのが見えた。


白い布が、張り巡らされた木々の枝の間をするすると縫うように舞い落ち、導かれるように僕の両肩に掛かる。


絹のように滑らかな肌触り。


温かくて、心地いい。


ここは、人間の生息しない森である。


人工物の存在はあり得ない。


“少し寒い”と言っていたのを神様が聞いていて、神様が贈り物をしてくれたのだろうか。






僕は、白い布を左肩から羽織って斜めに掛け流し、手近に生えていた蔦をベルトとして腰の所に巻き付けた。


この右肩を剥き出しにした独特の着こなしは、紀元前6世紀に栄えた古代ギリシャ文明の衣装“キトン”である。


体を包む白い布はふわりと暖かく、先ほどまで肌寒いと感じていた森を吹き抜ける風も、この服の温もりがあれば心地よい。


布の服の完成である。






今世において、布の服を着られるなど考えても居なかった。


着心地がよくて、動きやすい布の服。


この世界では、腰回りを葉で隠す“腰蓑こしみの”程度の服しか着られないと思っていたので、その感動は大きい。


くるりと一回転して自身の服を見る。


ああ、染み一つない真っ白な服が美しい。


前世では服を着ることが当たり前になっていて何も感じなかったが、服に身を包むことで保たれる熱が、ほんの少しの安心感を与えてくれている。


「服っていいものですね。今更ながら学ぶことができました。」






バタンッ


僕は、両手を大きく広げて、大地に身体を投げ出した。


ひたいが、胸が、両手が、両膝が、大地に生い茂る草の大地に密着する。


(神様、重ねて感謝申し上げます。)


僕は、仏教において最高の礼拝方法とされる五体投地をもって、神様への感謝を捧げた。

五体投地:仏教において最高とされる礼拝方法。地面に両手、両膝、額を着けて礼拝を行う。

※ベルセルクのモズグス様の礼拝方法


ここまでが導入と初期装備支給パート。

次話からが本編です~。

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