第十三話「木登り地上3m」
大樹から10m程離れた細い木の前に立ち、片手で木の幹に触れる。
縦に裂けた褐色の樹皮と細長い尖った葉という特徴から、この木は杉であろうか。
目の前の推定杉の木の幹の太さは、約20cm。
実に大樹の幹の1/10以下の太さである。
その樹高は、幹が細いのでそれ程高くも無く、およそ4mから5mといった所だろうか。
今の僕の体格だと、このくらいの木が登りやすいのだ。
僕が両手を広げた際の右手の指先から左手の指先までの長さは、およそ1m。
このことから、幹回りが1mまでの太さの幹ならば、幹にしっかりと抱き着つけるということが分かる。
このしっかりと抱き着けるということは、幹の後ろ側に手が届くということを意味し、これは、木登りにおいて非常に重要なポイントとなる。
僕が可能な木登りの方法は2つ。
1つは、木の枝や瘤に手足をかけて登るというオーソドックスな木登りの方法である。
もう1つは、木の幹の後ろ側をしっかりと手でホールドし、木の幹の前側に足の裏を押さえつけ、両足の屈伸運動を用いて幹を登るという木登りの方法である。
この後者の登り方は、ヤシなどの枝の無い木や、枝の少ない木を登る際の登り方として、よく使われている登り方である。
僕の目の前の推定杉の木は、杉の木と同様に地上の近くに枝を付けていないので、枝の有無に左右されない後者の登り方が適していると言えよう。
余談ではあるが、僕が両手を広げた長さを1mとして計算すると、直径31.8cmの幹までならば、後者の登り方を用いて木登りをすることが可能である。
これは、“直径×円周率(3.14)”が円周の長さであることから、円周の長さを幹回りに当てはめ、幹回り1mを円周率(3.14)で割ることで算出した数値である。
ちなみに、この31.8cmという数値は、木の枝を使って地面に式を書くことで導き出した数値である。
決して暗算では無い。
なお、直径31.8cmの幹では、屈伸運動で木の幹を登る際に自身の体が樹皮と擦れて擦り傷だらけとなってしまうので、この登り方を用いる場合は、直径31.8cmよりも細い幹を登ることが望ましいと考えられる。
余談おわり。
眼前の推定杉の木に抱き着き、木の幹の後ろ側をしっかりと両手でホールドする。
木登りを開始するのだ。
一度ジャンプをして両足の足の裏を木の幹の前側に押さえつけ、屈伸運動を使って細い幹を登る。
幹の前側からは両足の足の裏が、幹の後ろ側からは両手の平が幹を前後に押さえつけているので、前後のどちらかの力を抜かない限り、幹からずり落ちることは無い。
両足の膝が伸びたので、幹を後ろ側からホールドしている両手の位置を片手ずつ上にあげ、もう一度ジャンプをして両足の足の裏を木の前側に押さえつけ、再び屈伸運動を使って幹を登っていく。
幹を3m程登った所で枝の上に座り、一旦手足を休める。
「少し木に登っただけなのに、随分と視界が開けるんだな。」
見渡す限りが森という自然の有り様は地上と変わらないのだが、地上3mの枝の上から見る森は、地上1mから見る森よりもかなり遠くまで見通せていた。
建物の2階に上がった程度の高さだというのに、不思議なものである。
そういえば、地上では、シダなどの背の高い植物が茂みとなって草ぼうぼうとしているのだった。
木に登るまでは気付かなかったが、地上は思ったよりも見通しが悪かったのかもしれない。
もしかすると、地上の茂みに視界を遮られて、川を見つけることが出来なかったのだろうか。
少し木に登るだけでも、これだけ大きく視界が開けるのだ。
自然の有り様を見定めていくことは、この地を生きていく上で意味が深い。
「これからは、もっと積極的に木に登っていこう。」
【持ち物】
白い布
蔦の命綱
【スキル】
木登りLv.1