第十一話「木登りシミュレーション」
森の木々を見上げて、その樹高を確認する。
しかし、樹冠を隠し合うようにして絡み合う枝葉が視界を遮るため、木々の最上部を確認することは難しい。
木々の最上部が確認できない以上、おおよその高さを推測することしかできないが、最大にして目算で20mといった所だろうか。
20mと言えば、7階建てのビルに匹敵する高さである。
ひとまず、この辺りで最も大きな木の前に立ってみる。
この大樹の直径は確実に2mを超えており、その堂々たる佇まいは、数千年を生きて祭られる神木を彷彿とさせた。
これが前世であれば、この大樹に特別天然記念物の指定がかかるのは確実であろう。
この辺りで最も大きな木の頂上に登ってこの森を見渡すことこそ、この森を流れる川を確認するための最善手なのである。
果たして、僕にこの大樹を登ることは可能なのだろうか。
いや、水源を確認するためには、この大樹を登らなければならないのだ。
樹上を見上げながら大樹の幹を周回し、木登りのシミュレーションを行う。
しかし、いくら大樹の幹を周回しながらシミュレーションをしても、登るためのルートを発見することができない。
一番低い枝でさえ、地上3mを優に超えているのだ。
また、この大樹の幹から伸びる枝と枝との上下の間隔は、僕が万歳をした高さよりも確実に長い。
このような大樹を相手にしては、枝に手足をひっかけて登ることなど不可能と言えよう。
大樹の根本に立って木登りのシミュレーションを続けるが、直径2mを超える大樹を登ることは困難を極める。
枝を使わずに登るシミュレーションは、木登りでありながら断崖絶壁を登るロッククライミングの様相を呈するのだ。
ロッククライミングの技術があるならば、木の幹に存在する微かな出っ張りや木の洞、僅かに開いた樹皮の割れ目などを利用して、この断崖絶壁のような大樹を登ることも可能なのかもしれない。
しかし、僕にそのような専門的な技術は無い。
残念ながら、僕がこの大樹をロッククライミングさながらに木登りをすることなど不可能なのだ。
大きく息を吐き出し、大樹を見上げる。
シミュレーションを経て、結論は導き出された。
「僕は、この大樹を登ることができる。」
木々の隙間から射す木漏れ日を見つめながら、僕は、この大樹に登ることを決意した。
【持ち物】
白い布