第一話「深い森に1人」
「さようならだ、仔牛えみ太郎くん。
今度こそ、君の魂が救われることを願っているよ。」
声の主は、光に包まれて空へと消えていった。
ここは、とある異世界のとある大陸。
地球と同様に人間の生息する異世界ではあるが、人間が生息しているのは海を隔てた遥か遠くの大陸で、この大陸に生息する人間は存在しない。
しかし、今、この大陸に1人の人間の少年が転生を果たした。
黒い髪の全裸の5歳児。
その少年こそがこの僕、仔牛えみ太郎である。
あたりを見渡してみると、視界の映す限り立派な木々がどこまでも生い茂っており、人工物の影は一つとして無く、しんと静まり返っている。
どうやら、ここは、深い深い森の中のようだ。
「うん、いい森だな。木がとても大きくて、空気も澄んでいる。」
近くの木に抱き着き、木の幹に頬を寄せる。
ひんやりとした木の質感が心地いい。
「神様。ありがとうございます。」
静まり返った森の中で、僕は、神への感謝をひとり口にした。
人によっては、このような未開の地に1人で転生を果たすことは、とても耐え難いことなのかもしれない。
この土地に、電機やガス、水道といった文明の利器は存在せず、友人や家族、恋人といった心を支えてくれる人間も存在しない。
しかし、僕は、この地に転生できたことを心から感謝している。
さあ、他の誰のものでもない自分の人生を始めよう。
【持ち物】
なし