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第9話 発露する想い

 書き貯め切れとのチキンレースになってきました。

 正直厳しい所もありますが、頑張ります!

 所用を終え、オーキス村長の家に向かう。

 日はもう傾きかけている。

 村長に招かれ、オレは茶菓子の置いてあるテーブルに着席した。


「ハンモックという物を、アレクの家で見たな?」


 その言葉にオレは首肯する。


「ハンモックで寝るというのはアーガス村にはない寝具だ。アレは元々、アレクの父が出身の地方で使われていたのだ」


 アレクの親。一人暮らしの様子から察していたので本人には聞かなかった情報が流れてきた。

 ここで親についての話をするという事は、アレクが疎まれている理由は、血筋だ。


「……回りくどいので、単刀直入に言ってください」

「ああ、すまない。アレクの父は、エルフという魔族なのだ」


 やっぱりか。

 エルフは長く尖った耳と、200年ほど生きる長寿が特徴の種族だ。

 森での狩猟生活を好み、ほぼ外との交流を持たずに一生を終えるという。


「アレクがフードを被ったままだったのは、そういう事ですか」

「ああ、彼の耳はエルフと同じく長いものになっている」


 それを言われて、合点がいく事がいくつかあった。

 例えば、アレクは薬草に関して様々な知識を持っていた。

 それはおそらくエルフ秘伝の知識だったのだろう。


「……彼を、疎んだりしないのだな。君は」

「ええ。オレ……いえ、私と彼は友人ですから」

「楽な方でいいぞ」


 オレの返事に気が抜けたのか、柔和な笑みを返す村長。

 だが表情はすぐに険しいものに戻る。

 ここからが本題なのだろう。


「君に頼みたいのは、アレクの今後についてだ」

「とは言いましても、オレはこの村の住人じゃありませんよ。できる事なんてほとんどありませんけど……」


 アレクの生活が楽になるなら、できる事をしてやりたい。

 けれど、逃亡生活を送るオレは決してアレクのために残してやれる事は少ない。

 強いて言えば、理由をこじつけて金銭をいくらか置いていくぐらいだ。


「君の旅に、アレクを同行させてやってほしい」

「……は?」


 村長からの予想外な言葉に、オレは呆気に取られる他なかった。

 この人は、どういうつもりでその言葉を発した?


「村人たちは半魔族であるアレクを疎んでいる。ここに居続けるより、よそに言った方がいい」

「それ、どういう意図で言っているか自覚しているよな」


 オレの考えた通りなら、それは。

 あまりにも横暴で。

 あまりにも無責任で。

 あまりにも自己中心的な、思考だからだ。


「……ああ。君の想像通りの、考えだ」

「ふざけんな!」


 村長の言葉に思わずテーブルを叩く。

 アレクは確かに村で窮屈な暮らしをしている。

 だが、それは元々村人たちに蔑視されているからだ。


「つまりアンタは、アレクが邪魔だから村から追い出す言い訳がほしいんだろ!?」


 村長はバツが悪そうに視線を逸らすだけだった。


「アレクは確か、農作業以外にも様々な労働をしていた! それも魔族の憎いアンタたちが押しつけたものじゃないのか!」


 草履作り、森への巡視、薬草の下処理。

 どれか1つだけならともかく、ジャガイモの耕作と平行して行うには重すぎる量の労働を、アレクはこなしていた。


「さんざんこき使っておいて、アンタは最後にアレクを捨てるっていうのか!?」

「……結果的には、そうなるな」


 気づけばオレは、握り拳の村長の腹にぶつけていた。

 だというのに、村長の体はびくともしない。

 虚弱になった自分の体に腹が立った。


「アイツが、今までどんな生活をしてきたかっ……想像もできないのかよ……」


 蔑まれ、虐げられる日々。

 アレクにとって、それはどれだけ辛かっただろうか。

 外に出る勇気や機会もなく、ただそれを耐え忍ばねばならない。


 苦難を超えた先で、アレクはある意味解放される手段を得たと言える。

 だけど、それも村人の憎しみがあってこそできた事。

 どこまでいっても、彼はこの村にとっての異物だったのだ。


 彼にとって、こんなに酷い話があるだろうか。


「……なあオーキス村長。まだ言う事があるんだろ?」

「言う事、とは?」

「アンタの態度はどうにも煮え切らないんだよ」


 ハイネルを代表とする他の村人とは違い、村長にはどこか罪悪感が混ざっているような態度があった。

 そもそも村長が単純にアレクを嫌っているなら、早いうちにアレクを追い出せばいいだけだ。

 鶴の一声があれば、気兼ねなく村人たちもそれに追従できるのだから。


「正直に言ってほしいんだ。アンタがアレクにどんな感情を持っているのか」

「……分かった」


 絞るように、彼の口から言葉が漏れる。


「アレクは……いや、彼の母は、私の娘だ」


 随分と遠回しな表現。

 だが、多くの事が一言で腑に落ちた。

 アレクは、オーキス村長の孫なのだ。


「……誘拐されたはずの娘が、ニーナが村に戻ってきた時にアレクの父が一緒にいた。

 まだ赤ん坊だったが、アレクも一緒に」


 要領を得ない説明が、ぽつりぽつりと零れる。


「私は奴と、その息子が憎かった。奴が病死した時は本当に気が晴れた」


 虚空を見つめながら、恨み言が紡がれていく。


「だが奴に続いてニーナが床に伏し、アレク一人が残された時、私はアレクに何の感傷も持てなかった。

 彼をあれほど憎んでいたというのに」


 最後に口から告げられたのは、どこまでも透明で、空虚な心。


「頼む。私にはもう、アレクとどう向き合ったらいいのか分からないんだ。

 私には、私がどうしたいのかがもう見えない」


 これまでに経験した事のない怒りが、オレを襲った。

 一方的に人が蹂躙された時にすら、これほどの想いを抱く事はなかった。


 ただただ周囲にある物を滅茶苦茶にしてしまいたいほどの、強い感情だ。


「っざけんな! アンタはただ逃げ続けているだけじゃないか!」


 もうアレクを憎んでいないというなら、村の一員として受け入れればいいじゃないか。

 好きはない現状でも、嫌いでなければ向き合う努力はできるはずだ。


 修復不能な関係ならまだいい。

 理解し合えない間柄というのは、どうしようもなくあるから。


 それでも、手を伸ばせる相手なら、逃げちゃダメだろ。


「アレクの為にあれこれしてたって事は、アイツの事を憎からず思っていたんだろ!?」


 ああ。


「自分が分からない? アンタ自身の問題だろ、自分で考えて結論を出せよ!」


 本当にこの人の言葉には。


「アレクの問題を解決したいと思っているんだろ……!

 だったら何で、アイツを直接助けてやらないんだよ……ッ!」


 本当に、イライラさせられる……ッ!






 オレが怒鳴り散らした後、家には静寂が満ちた。


「すまない。それでも、頼む」


 オーキス村長の一言は、絞り出すようなもののままだった。


「……アレク本人に確認を取ります。一応ここは、彼の生まれ故郷ですから」

「ああ、それでいい。……本当に、ありがとう」


 感謝の言葉なんていらない。

 いや、オレに向けた言葉なんていらない。

 その言葉を、もっと別の人に、向けて欲しかった。


「あなたが祖父である事、あなたから旅の共を提案された事は、彼に話しません。

 それを聞けば、彼は混乱するでしょう」

「分かった」


 全てを話し終え、村長の家から退出すた。

 空にはもう、太陽ではなく星々が浮かんでいる。


 綺麗だと感傷に耽る日はいつもこうだ。

 心に何か重いしこりが残っていて、陰鬱だというのに。

 風景はどこまでも、残酷に、いつも通り美しいままで。


「何で、向き合おうともせずに逃げるんだよ……」


 どこへともなく発した言葉が、夜の闇に飲まれていった。


to be continued...

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