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第6話 TSっ娘ユーキちゃんの手料理!

TSっ()の手料理を食べさせて貰いたいだけの人生だった。_(:3」∠)_

 アレクの家は他の家と比べるとこじんまりとした佇まいだった。

 聞いたところによると、アレクはここで一人暮らしをしているそうだ。


「狭くて落ち着けないだろうけど、ゆっくりしていってね」

「おじゃましまーす」


 中を覗くと、この家では部屋が居間しかない様子だった。

 炊事場やトイレは別室としてあるようだけど、基本的にはこの部屋だけで生活しているようだ。

 ニューヴェリアス聖国での平凡的な農家といった所だ。

 そのごく普通の家の中で、一際目を引く物があった。


「あれは?」

「ハンモックだよ。あの上に乗って寝るんだ。」


 それは地球でも見た覚えのあるもので、網を吊り下げたシンプルな寝具だ。

 村人は(わら)をマットレスにして雑魚寝するのが普通なので、少し驚いた。

 この辺りの地域ではハンモックで寝るが普通なのかもしれない。


「お、そうだ。これ、報酬として受け取ってくれ」


 そう言ってオレが(ふところ)から取り出したのは数枚の硬貨だ。

 それをアレクの手に握らせると、困惑気な声が返ってきた。


「え? 急に報酬って言われても困るよ。しかも何の報酬かは分からないけど結構多めだし」

「村までの案内、鎧の運搬費、あと宿泊費ってところ?」

「いや、こっちとしてはお金を取るつもりはなかったんだけど……」


 便利屋稼業が多く営まれている街とは違い、村社会では謝礼を支払う文化がないのだろうか。

 つい街で誰かに依頼した時と同様の感覚でお金を渡していた。


「とはいえ、オレとしても受け取ってもらえないとスッキリしないからな……」

「……分かったよ。だけど宿泊費だけね、他は事前に取り決めてなかったんだから」

「オッケー。それでいいや」


 お互いに手元に残った硬貨をしまう。

 無理に渡してもよかったのだが、謝礼金を見た時のアレクは本当に困った顔をしていた。

 そんな表情の彼に無理やり渡すというのも酷なものだ。


 部屋の隅に荷物を置いて一息つくと、アレクが(わら)を編んでいた。

 彼の隣にある物を見るに、草履(ぞうり)を作っているようだ。


「そういや、アレクって一人暮らしなんだよな。何か手伝った方がいいか?」

「いいよ。お客さんなんだし休んでいなよ」

「そう言っても、暇だしなぁ」

「じゃあ、ユウの冒険について話してよ。旅人の話なら面白そうな経験が聞けそうだし」


 その言葉に、オレには二の句を継げなかった。

 今のオレは逃亡者だ。そんなオレが、勇者としての冒険譚を話すのは得策ではない。

 それ以上に、オレが仲間たちと楽しく冒険してきた事を話してもいいのだろうか。

 彼らを裏切ったオレに、そんな資格はあるのか。


「……話したくない内容だったら、無理しないでいいよ」

「いーや、どこから話すか迷っただけだ。気にすんな」


 オレがこの世界で経験したのは、彼らとの冒険だけだ。

 それ以外に話せる内容もないから、仕方なく勇者という事だけを隠して後はありのままの事を話した。


 リリシアとは食事の度に肉の取り合いになっていた事。

 ディートリヒと一緒に悪漢を自警団に突き出した事。

 戦闘の時には大抵リリシアと成果で競争になった事。

 シェリアがいつもオレたちを叱ってばかりだった事。

 オレがリリシアの風呂を誤って覗いたら、3日も口を聞いてもらえなかった事。


 色々な事を、当たり障りのない範囲で話していく。

 気が付くと窓から射す陽射しが白から朱へと染まっていた。

 思ったよりも饒舌になっていた事に気づき、苦笑がこぼれた。


「まぁ、こんな取り留めのない話だったけど楽しかったか?」

「うん、僕はアーガス村以外には隣町ぐらいしか行った事がないから新鮮だったよ」

「そっか、ならよかった」


 今では決別する事になってしまった、遠い思い出。

 ほんの2週間ほど前なのに酷く懐かしく感じる。

 離反した以上は記憶の奥に押し込めるしかないと思っていただけに、アレクに話せて(つか)えが取れた気分になった。

 そんな夕暮れのまどろみの心地よさを味わっていると、アレクから思いがけない発言が飛んできた。


「話を聞いていて思ったんだけど、ユウはリリシアって子の事が好きなんだね」

「へっ? ななな何を言っているんだ、アレクくん!」


 待て、オレはリリシアの悪口ばかり言っていたはずだ。

 自分の中の好意に気づかないほど、流石に鈍感ではない。

 でもオレの中で非常に複雑な葛藤があったため、今の語りも含めて『オレがリリシアを好きだ』という事実は一度も話した事がなかったはずだ。

 というか恥ずかし過ぎて、そんな事は無い様にずっと振舞っていた……はずである。


「だってユウはさ、他の2人よりリリシアさんの事ばかり話していたよ」


 盛大に墓穴を掘っていた。

 悪口とはいえ、リリシアの話題ばかり話していたらそりゃバレる。


「それにリリシアさんの話をする時、ユウの口元が吊り上がってたよ」


 ポーカーフェイスもできていなかった。

 ヤバい。顔から火が出そうだ。


「そんな調子じゃ、ディートリヒさんやシェリアさんにも気づかれてたんじゃないかな」


 もうやめてくれ。

 あまりの恥ずかしさに顔を手で覆った。

 手に触れる皮膚の体温がいつもより熱い。


「あー、もうこの話はおしまいな! オレは飯作ってくるから」

「そんなのいいよ、それよりもリリシアさんとの馴れ初めとかを」

「お世話になりっぱなしはダメだからなー! 炊事当番ぐらい任せてくれよなー!」


 ほぼ支離滅裂な言葉を発しながらオレは炊事場に向かった。

 吸血鬼になってから、オレにとって初めての敗走であった。




――――――――――




「何というか、随分男前な料理だね」

「そりゃ、男なんだから当たり前だろ」

「そういう意味じゃなくてさ……。見た目が女の子になった事を言いたい訳じゃなくてさ……」


 そういったアレクの視線の先にあるのは一品の皿。

 というかテーブルの上にそれ以外の料理はない。

 皿の上に乗っているのは、根菜類、イモ、菜っ葉を適当な大きさに切って、盛りつけただけの簡単手料理。


「本当は炒めたかったんだけどな、油が手持ちに残ってなかったから茹でるしかなかった」

「油なんて高級品、普通は持ち歩けないよ……」

「ほら、好きなの振りかけて食べろ。そうすりゃ美味いぞ」

「塩やコショウ……。金銭感覚が根本から違う」


 確かに、こちらの世界の調味料はべらぼうに高い物ばかりだった。

 だが、オレの出身は日本だ。

 ジャンクフードに慣れたこの舌では、毎日味気ない食事だと飽きがきてしまう。


「ねえ、調味料って他にも持ってるの?」

「スパイスの類は流石に分からないから、後は砂糖ぐらいかな」

「……もっと本格的に料理すれば、より美味しくなるんじゃない」

「料理なんてオレには分かんないよ」


 思い返せばオレが炊事番の時はいつもアイツらは不満げな表情を浮かべていた気がする。

 茹でるか煮るか、携帯食料を出すかしか引き出しがなかったから当たり前か。


「そういえばフードは取らないの? 食事中まで付けてる事はないだろ」


 アレクは出会った時からずっとフードを被ったままだ。

 日差しが苦手な体質かもしれないと思って昼には触れなかったが、日も落ちてきた上に屋内でフードを被る意味はない。

 そう思って発言したのだが、彼の表情が厳しい物に変わってしまい、失言だったと気づいた。


「不快に感じたなら、ごめん」

「いや、無神経だったわ。それより飯食おうぜ」


 それからのオレたちの会話はぎこちない物だった。

 皿から料理が消える頃には言葉が戻ったものの、夜という事もあり会話は弾まなかった。


 昼にアレクと村人の騒動を加味すると、アレクは何かしら問題を抱えているのかもしれない。

 自分に何かできる事はないかと、ふと思った。

 けれど、何か行動を起こすつもりもなかった。


 少し前なら、迷いなく彼の助けになろうと考えていただろう。

 でも、今のオレはアレクの仲間には成り得ないから。


 オレは、人類の裏切り者で、魔族なんだから。


手料理要素が薄く、半ばタイトル詐欺になってしまいました。

結果的には勝手に惚気(のろけ)て自爆して赤面するユーキを書く事ができたので、筆者としては満足しています。

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