第4話 アレクくんとの出会い
TSっ娘、全裸、川原。何も起きないはずもなく……。
「悪いな、人が来るとは思ってなかったんだ」
「こっちこそ、事故とはいえごめん」
全裸の出会いから数分後。
お互いに落ち着きを取り戻したオレたちは背中合わせで話している。
何故まだ全裸なのかというと、服がブカブカになってしまったからだ。
なので服を縫い合わせて、身の丈に合ったサイズにしているところだ。
「それにしても、旅をしている様子なのにサイズの合わない服しか持ってないってどういう事なの?」
「いやー、こちらにも複雑な事情がありましてねー」
どこまで初対面の彼に事情を打ち明けていいのか。
ニューヴェリアス聖国では魔族には人権が認められていない。
元々オレは人間だったけれど、今では吸血鬼という立派な魔族だ。
これを話せばオレ自身が国に身を売り渡されるに違いない。
それに、オレは元々勇者という特異な立ち位置にいた。
自身は権力抗争にこそ直接関与しないが、戦場では一騎当千の兵として、政治的には栄光の象徴的存在として扱われている。
国の重要人物が脱走してここにいるのも本来はよくないので、これも打ち明けられない。
それなので、自分が元勇者で現吸血鬼だという事実を隠しつつ、元々男だけど変身してしまったと話した。
半分くらい嘘で補強したので、後でボロがでるかもしれないけど行きずりの関係だ。
別れてからバレてもいいさ。
「遺跡で見つけた霊薬を好奇心で使ったら女の子になってた、ねぇ……」
「おう、笑えるだろ」
「割と深刻だと思うんだけどなぁ」
吸血鬼になってしまった事はともかく、女の子になってしまった事には大きな問題を感じていない。
どうせ勇者としては戻れないんだ。
これぐらい別人になっていた方が逃亡生活が捗るというものだ。
「よし、できた」
衣服の仕立てが済み、すぐにそれを着る。
特に違和感はないので、素人ながらよくできたと思う。
「これで面と向かって話し合えるな。そういえば、自己紹介もまだしてなかったな」
「ああ、そういえば。僕はアレク。アーガス村の住人だよ」
「オレは……ユウだ」
一瞬本名を名乗ってしまいそうになったが、咄嗟に偽名に切り替えた。
ユーキという名前はこの世界では珍しいものなので、それだけで身元がバレかねない。
目深にかぶった外套のせいで遠目からだと分からなかったが、近くで向かい合って見るとアレクは結構顔立ちのいい少年だった。
黒髪に焦げ茶の瞳とこの国では珍しくない容姿だが、顔のパーツは均整がとれた物だ。
表情こそ憂いを帯びているものの、それをミステリアスな雰囲気に見せる魅力を持っている。
「そういえば、何だってここに来たんだ? この森、資源になりそうな物はあんまりなかったと思うけど」
「実は昨日の夜、この森から大きな音が聞こえてね。村からでもはっきり分かるぐらいの閃光も見えたから何があったのか調べにきたんだ」
ほうほう、昨晩この森で異常が。
その異常事態は騒音と閃光を伴っていた、と。
きっと森でドンパチ戦闘をしていた馬鹿野郎がいたんだろうなぁ、ハッハッハ。
――原因、オレじゃね?
「あーあー安心してほしい。オレが昨日森を歩いていた様子だと、昨晩は何も無かった。いいか、何もなかったんだ」
「いや、そんな適当に調査を終わらせる訳には」
「何も無かった。いいな?」
「は、はい」
とりあえず気迫で何もなかったと押し切る。
オレがギーグと戦闘した痕跡を見られたら、オレがいたという状況証拠から正体がバレかねない。
その上、オレはギーグをそのまま逃がしてしまった。
アイツは強者との戦闘を好んでいたから村を襲う事はなさそうだが、ギーグを討伐しに村人が向かったらそのまま返り討ちにされかねない。
「とりあえず、お互いこの森に用はなくなった訳だし村に行こう。な?」
「うーん……、はぐらかされた気がする」
「そそそんな事はないって! 行くぞ!」
アレクが強引に調査に戻る前に移動しないと隠し事などがオジャンだ。
できれば村で物資を補給したいので、住人との間に亀裂を作りたくない。
そう思い、サイズが合わなくなった鎧などをまとめて持ち上げようとしたのだが。
「うん? 持ち上がらないぞ?」
当然といえば当然だった。オレの肉体は10歳程度の少女なのだ。
そんなやわな筋肉で鎧を持てるはずがなかった。
けれど、勇者であるオレには他の手段もある。
「なら《身体強化》で……っ!?」
魔力を筋に通し、基礎的な運動能力を補強する《身体強化》を使って持ち上げる事を試みる。
だが使用時に魔力を通した結果、もう一つの異常を見つけた。
この体、勇者だった頃よりも魔力が少ない。
「……うそーん」
《身体強化》を使えば当然のようにこの鎧は持てる。
だが、村まで1時間以上の移動距離があったら確実に保たない。
というか20分保てるかも怪しい。
「ねぇ、ユウ。急に止まってどうしたのさ」
オレの百面相に痺れを切らしたのか、オレに声をかけてきた。
こうなったら恥を忍んで頼み込むしかないか。
「……なぁアレクさんや」
「変な畏まり方してどうしたの」
「悪いけど、この鎧を運んで貰えないでしょうか」
結局のところ何も起きませんでした。(*´ー`*)