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第5話 再開の時

昨日は全体的に倦怠感に支配されていたので、執筆ができませんでした。

また、日曜日の更新は今後私情により難しくなると思われます。

楽しみにしている人たちには申し訳ないのですが、何卒よろしくお願い申し上げます。

 石造りの軒並みがどこまでも広がり、成人男性の数倍はあろう背丈の建物がどこまでも高く伸びる。

 それらは城壁と同じく深く清らかな白亜で彩られており、頂部である屋根だけが赤褐色に染められている。

 風化した跡と修復された跡が幾重にも重なり、目立たないマーブル模様が壁面に描かれているのは、まさにここフォートランデが幾年もの歴史を積み重ねてきた証拠だった。


「こんなに活気のある街並み、初めて見たよ……。

 首都ってこんなに凄いものなんだね」


「ここまで賑わってる場所は聖国だと他にないかもな。

 政治、宗教、商業の中心地を全てここが担っている訳だからな」


 四方を見渡せば、人がいない隙間などない。

 ここが商業街というのもあるが、アレクにとっては初めての人混みだ。

 はぐれない様に注意しなければいけないだろう。


「アレク、手ぇ繋ぐぞ。

 お前は人混み慣れしてないだろうし、はぐれたら大変だ」


「ユウこそ、その小さい体格のせいで流されないように注意してね」


「ちっさい言うな。結構へこむんだぞ」


 そう言い合って握ったアレクの手は想像以上に大きかった。

 アレクの手の大きさは吸血鬼になる前のオレとそう変わらないはずなのだが、握った時のギャップのせいか相対的にオレが小さくなった事を実感させられる。


「工作する場所の目星は大まかにつけてあるから、そこに行くまでは適当に買い食いでもしようぜ。

 オレ、腹減っちまってさ」


「のんびりしてていいの?

 こういうのってコソコソと素早く終わらせた方がいいと思うんだけど」


「いいのいいの。

 むしろ変な風に嗅ぎ回るような動きの方が怪しまれるってもんだ」


 銀髪の少女、という特徴からオレはマークされている。

 聖国では珍しくはない容姿とはいえ、そんな奴が怪しく動き回っていたらそれこそ正体が元勇者ユーキだと自白しているようなものだ。


 それに、久々に味わう都会の喧騒だ。

 少しぐらい楽しませてもらったって罰は当たらないだろう。

 ギーグにはちょっと悪い気もするが、何か美味しい物を持って帰って手打ちにしてもらおう。

 ……アイツの味覚を満足させる物があるかは別だが。


「すいませーん!

 ソーセージ4本ください」


「あいよ!」


 オレたちは市場の屋台を巡り、様々な食料品を買い漁った。

 今後の旅を考えて保存性の高い食料であるドライフルーツなどが中心だが、屋台だからこそ楽しめる新鮮な味わいもある。

 たった今焼かれたソーセージなんて溢れんばかりの肉汁が染み出ている。

 共に買ってきたチーズは匂いこそキツいが、久々に食べる乳製品という事もあって胃が期待感を込めて鳴ってしまった。


「自己流の食べ方だけど、このソーセージにチーズをつけて食べるのが上手いんだよ。

 アレクもやってみな」


「へー。

 うん! これはいいね!」


 初めての味覚に舌鼓を打つアレクを見て満足したので、オレもそのチーズ塗りソーセージを頬張る。

 チーズの濃厚な味わいが肉を咀嚼(そしゃく)する度に熱い汁と共に混じり合い、強烈に舌へと絡みついてくる。

 最近は干し肉以外では塩味の薄い食事が中心だったので、口全体を焦がすような刺激が堪らない。


 あっという間に1本目を平らげてしまい、2本目はチーズだけでなくケチャップもかけて(かぶ)り付く。

 トマトの爽やかな酸味がチーズとソーセージの塩辛さを中和してくれている。

 清涼感と濃厚な味が絡み合い、早く食べろと口へ話しかけているようだ。


 アレクも見よう見まねでオレと同様の食べ方をしている。

 やはりこちらも満足したのか、笑みを浮かべてながら食べている。

 オレとアレクがソーセージを完食するのはほぼ同時だった。


「ごちそうさまでした。

 こうやって賑わいの中で食べるのも、いいものだね」


「そうだろそうだろ。

 話し合ってもいないのに皆と溶け込めている感じがするんだよな」


 きっと、こんな日常を交わせれば人と魔族が争う事もなくなるのに。

 そんな考えがよぎる。

 それは現状では不可能なのだろうという事も理解しながら。

 半魔族のアレクがこうして楽しくしていられるのだから、世界がそういう風に優しくなればいいのに。


 いけないいけない。

 こんな後ろ向きに考えていたら、当面の行動に支障が出かねない。

 一瞬だけ憂鬱気味になった思考を切り替えると、アレクの右頬に注目がいった。


「おい、ほっぺにケチャップがついてるぞ」


「え、どの辺り?」


「右側だよ。この辺の」


 自分の顔で同じ部分を指さしながら、汚れの位置を伝える。

 アレクが自身のハンカチでそこを拭うと、ケチャップは綺麗に取れた。

 失敗したと思っているのか、熟れかけのトマトのように若干赤面している。


「しっかり者だと思っていたけど、お前も結構抜けてるんだな」


「う、うるさいよ! それにユウにだけはそう言われたくない!」


「何おう! まるでオレが普段から抜けてるみたいな言い分だな!」


「そういう意味で言ったんだよ!

 大体ユウはいつもいつもぉ!」


 若干ケンカ腰になりながらも、いつもより熱く会話が弾む。

 この街の喧騒に当てられただろうか。

 掛け合いのヒートアップは止まる事なく、外からの刺激が新たに加わるまで続いた。


 それはオレにとっては非常に懐かしく、今向き合うべき問題の一つだった。


「リリシア?」


 そう発言したのは、確実にオレではなかった。

 発信源はアレクの方向、もっと言えばその向こう側にいた。

 そこに立っていたのは、癖っ毛の金髪を肩で切りそろえた髪型の少女だった。


「……シェリア?」


 かつてのオレの仲間の一人で、一流どころか超一流の魔法の使い手。

 口数こそ少ないものの感情表現はとても素直で、抜群のスタイルの良さに反して子供のような印象を抱えた少女だ。


「リリシアぁ! リリシアぁ!」


 シェリアはそのまま感極まったような表情でオレに飛びついてきた。

 何やら彼女は酷い誤解をしているようだった。


「待てシェリア! オレはユむぐっ」


 それを解消すべくオレは交渉の言葉を紡ごうとするが、それはシェリアの抱擁によって遮られた。

 小さくなった体全体に、彼女の体重がそのままのしかかる。

 というよりっ、顔に胸がっ、息ができないっ。


「会いたかった! リリシア、リリシアぁ!」


「むごごごごご」


 抵抗虚しく、シェリアはオレを抱きしめる力を強くする。

 そのバストは実に豊満であった、などと熟考する余裕もなく呼気から酸素を奪われていく。

 窒息――残された思考を埋め尽くしていたのはその二文字だけだった。


ようやくガールズラブタグが仕事するような内容を執筆できた気がする。

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