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第1話 特訓開始!最弱魔法剣士の行く道

ついに本編投下ですよ!

投稿しない間に色々ありましたが、私は元気です!

進捗? ダメです。

キツかったら事前報告して2日に1回になるかもしれません。


2017/08/30 誤字の指摘があったので修正しました。

シャイタル様、ありがとうございます。

 迫り来る手刀。

 超速で飛ぶその一閃は、真紅の肌色も相まって大気との摩擦で赤熱しているかのようだ。

 その必中必殺の一撃を、寸での所で短剣を当てて受け流す。

 拳が鉄塊以上の重さでオレを押しつぶそうとする。


 膝を折り体勢を敢えて崩す事で緊急回避する。

 無理のある挙動に腰が悲鳴を上げそうになっているが、この際四の五の言っていられない。

 それに彼方(あちら)も低身長の相手に全力の一撃を放ったためか、多少のふらつきがみられる。


 お互いにコンマもない時間の内に姿勢を直し、臨戦態勢に戻る。

 今度は此方(こちら)からいかせてもらおう。


 《射炎撃・弐シュートフレイム・ダブル》の術式を展開し、同時に手にした2本の短剣を投擲する。

 四の太刀による同時攻撃だ。

 その攻撃に加えて五の太刀として、自分の身一つでの攻撃に映る。

 《射炎撃(シュートフレイム)》は薄い鉄板程度なら貫く威力がある。

 オレのなけなしの魔力を何とかひねり出して構築した、今のオレにとって最大火力の攻撃だ。


 当然、彼方(あちら)は同威力の《電衝撃・弐エレクトロショック・ツイン》によって炎を迎撃する。

 短剣は確実に急所を狙っているものの、彼の反応速度であれば腕で払い落せる。

 後は突進するオレを対処すればこの戦いはオレの詰み(チェックメイト)で終局。

 そうなるはずだった。


「ムッ……」


 短剣を払いのけた際、彼は腕の痺れに身を捩らせた。

 投擲の際、短剣には魔法で電撃を帯びさせていたのだ。

 それは致命的なダメージを生むほど強い物ではない。

 だが、意識外からの一撃は確実な隙を生じる。


 全ての布石を撒き終え、裸一貫になったオレは跳躍する。


 人間の弱点には二種類ある。

 一つは生命活動に綿密に結びついているので、そこへの一撃が致命傷になりうる器官。

 心臓、肺、脳などがそこに該当する。

 もう一つは、戦闘維持が不可能になる後遺症を負う器官。

 眼球を打たれれば視界は消失し、手足を失えば機動力や攻撃手段を失う。

 オレが今狙っているのは、後者の弱点だ。


 どのような進化を経て、生命はその弱点を露出するようになったのかはオレは知らない。

 だがその器官は男の象徴として股間に存在し、他の内臓と違って骨や筋肉の庇護下にないため、そこに一撃を加えれば戦闘不能になる激痛が走る。

 そう、オレが狙う弱点とは――睾丸(キンタマ)

 玉袋という薄皮1枚だけの薄い防御を、オレは破る!


 全力の飛び蹴りを、オレはギーグの股間に放つ!


「貰ったァァアア! うぉおおおおお……お?」


 空を疾駆するオレの動きは、空中にて突然静止する。

 そして逆さに宙吊り。

 完全勝利かと思った状況から足を掴まれたのだ。

 反撃の狼煙をもって逆王手をかけたかと思えば、随分マヌケな詰み(チェックメイト)


 やはりこの男、ギーグの底は計り知れない。


「カカカ、23秒とは随分保ったほうじゃのう」


 確かにギーグとの模擬試合でこれだけ経戦できたのは初めてだ。

 自己ベスト更新と考えれば上々の結果だ。

 だけど、全く足りない。

 オレの目標を達成する、そのための力としては。


 不意に足から手を離され、重力のままに落下したオレは地面に衝突する。

 大地との接吻、口には苦々しい土と砂利の味が広がる。


「あークソ、やっぱり魔力循環も筋力もダメダメだ!

 全っ然実用的なレベルじゃねぇ!」

「お疲れ様。はい、水筒」

「おう、ありがとな」


 水を顔や口に振り撒けて泥を洗い流した後、乾きに渇いた喉を潤す。

 ついでなので朝食代わりに干し肉を一齧(ひとかじ)りする。

 普段は塩味がキツくて食べられた物じゃないが、疲れきった体にはちょうど良く塩分が染み渡る。


「だー、こんな調子じゃ聖剣奪還なんてできたもんじゃねぇよ。

 近衛兵一人ぐらいなら倒せるだろうけど、魔力的には1戦限りのびっくり箱でしかないからな」


「僕からするとそれだけでも凄いと思うんだけど……。

 聖剣のある部屋まで逃げ続けるっているのは?

 そうすれば魔力消費も抑えられるし」


「逃げるだけじゃダメなんだよ。

 聖国お抱えの騎士団は強い。

 実用じゃなくて実戦で足り得る技量じゃないとすぐに拘束されるのがオチだ」


「じゃあ、ユウたちの考える実戦レベルの技量って?」


 干し肉の最後の一かけらを飲み込み、数秒思案する。

 うーん、今までの戦場での経験からすると……。


「魔術師のいない防衛拠点を一人で落とせる程度はこなせる、かな」


「一個師団を無傷で殲滅ぐらいはせんとな! カカカッ!」


「この二人の言う実戦レベルはおかしい……。

 僕、この戦いに付いていけるのかな?」


 アレクの顔には引きつったような笑いが貼りついている。

 オレも随分勇者としての常識に毒されてしまったようだ。

 1年前のオレだったら、彼と同様の反応をしただろう。


 それだけオレは、勇者としての力を振るい続けてきたという事だ。


「英雄に足る力、か」


 今は失ってしまった、勇者の力。

 新たに得たはずだけど、上手く機能しない吸血鬼の力。


 前者はともかく、後者を得るのに手っ取り早い方法はもう分かっている。

 ただ、オレの中で踏ん切りがつかないだけ。


 まだオレは、あの時と変わらず怯えている。

 この二人に助けられたってのに、情けない(ざま)だ。




――――――――――




 3人で旅を始めた頃の出来事だ。

 これからの行動指針を定めるため、各自の戦力を確認し合ったのだ。


「よし、まずギーグだな。

 オレは相対したから分かるけど、アレク向けに分かりやすく」


「自分で言うのは何じゃが、オーガの一族に伝わる徒手空拳の実力者じゃ。

 あまりにも腕が立つ故、将軍などと祭り上げられた事もあったのう」


「そ、そんなにですか……」


「将軍ってのは初めて知ったが、実力は本物だ。

 ワシの拳は岩をも砕く! なんて程度の事は実践できそうだぜ」


 あまりの異様さに思考がオーバーフローしたのか、アレクの頭上に多数の疑問符が浮かんでいる。

 魔法も使ってないのに? とか、本当に生き物の体? と大分失礼な事を言っている。

 内容にはオレも全面的に同意するけどな。


「あと、コイツは魔法の技量に関しても一流だ。

 雷系なら無詠唱かつ高威力で使える」


「カカカッ、儂の見た限り全ての魔法を無詠唱で使っていたお主が言うか!

 まあ小童の言う通りじゃ。

 それに加え、風魔法も同程度の威力で使えるぞ」


「そりゃ随分とハイスペックなこった。

 あと、小童じゃなくてユーキって呼べ」


 超人的な格闘技術に高出力の魔法使い。

 オレみたいな養殖物と違い、天賦の才だけでその領域にまで達した彼は、正に豪傑と呼ぶにふさわしい存在だろう。

 だけど小童呼びはムカつくのでしっかりと正しておく。


「えーと、そうなると僕もユーキって呼んだ方がいいのかな?」


「あー、アレクはそのままでいいや。

 ユウって呼ばれる方が慣れてるからな」


 あだ名としても自然な呼び方だから何も問題はない。

 むしろ今からユーキと呼ばれる方が面映ゆい。


「それで、アレクは戦闘に活かせそうな技能ってあるか?」


「いや、全くないよ。

 兎とか小動物を捕らえる罠を作るぐらいだったらできるけど……」


「そっか、じゃあアレクには最低限の自衛ができるよう、オレたちで稽古をつけようか」


「えっ」


 アレクは豆鉄砲を食らったような顔をしている。

 まあアレクもギーグのハチャメチャな無双ぶりは目撃しているだろうし、そんな彼の鍛錬を受けろと言われて『生きては帰れない! 地獄のブートキャンプ』みたいな内容を想像したのだろう。


「カカカ、アレクよ。儂の鍛錬は厳しいぞ」


「いや、お前が座学でオレが実戦担当な。

 ぶっちゃけ魔法理論については門外漢でな。

 基礎的な事は教えられるけど、上級呪文に関しては全く教えられないぞ」


「あれだけ戦術級の魔法を乱発しておきながらそんな事を言うのか?」


「自分でもよく分かんないけど、魔法式のイメージが自然と浮かぶんだよ。

 だから綿密に理論を組むってのはオレには無理だ」


 オレは不思議な事に魔法理論に一片の理解も持たないままに魔法発動に成功してしまった。

 きっかけは、他の人が魔法を使用している様子を見ただけだ。

 通常は魔法陣や星痕(スティグマ)、詠唱に記された魔法式を元に魔法は発動する。


 だがオレは全ての魔法を、それらの魔法式無しで発動できる。

 ギーグのように無詠唱魔法を使える者もいるが、それは一部の例外だ。

 むしろ、2つの系統魔法で無詠唱発動できる彼は異端中の異端だ。


「という訳でギーグは座学側だ。

 そもそもお前にアレクへの鍛錬を任せたら3秒で全身複雑骨折になりかねないだろ」


「むむぅ。儂にもそれぐらいの分別はあるぞ」


「あのー、一応聞くけど僕の意見は……」

「「こっちで決める問題だ」」


「あっ、はい」


 悪いけど危険な冒険についてくるなら、これぐらいの覚悟は決めてもらう必要がある。

 オレが危なっかしいからついてきたと言っても、戦闘能力で一番不安なのはアレクだ。

 彼にもかかる火の粉を払う力ぐらいは持ってもらわなければならない。


「さて、最後はオレだな。

 オレに関しては、弱体化し過ぎているな」


「具体的には、どのぐらい?」


「まず、剣の技量についてだ。

 剣の振り回し方とか、技術的な面は今まで通り。

 だけど筋力の方が問題だな。

 長剣は正直かなり振りづらい」


 《身体強化(エア・マッスル)》で筋力を底上げしてようやく長剣を振れる、それが今のオレの筋力だ。

 今までの得意武器が使えなくなったというのはそれだけで痛手だ。

 加えて、今のオレは身長と体重が両方低下している。

 身長が低ければそれだけ戦闘のリーチも短くなり、体重がなければ一撃は軽くなる。


「そう聞くと、本当にポンコツだね……」

「だろ? 正直直感的に敵の攻撃を(さば)かないと即座に負ける。

 ま、そこらのゴロツキ相手ならノシてやるけどな」


 気楽なオレの発言を信用できないのか、アレクは頭を押さえている。

 そんなにオレが勝利する雄姿を予想できないのかよ。

 まあ、こんな弱っちい女の子の体なら仕方ないのかな?


「次は魔法について。

 オレの魔力はどういう訳だかスカスカだ。

 1日にマトモな攻撃魔法を3~4発撃てればいい方だな」


「なんと、そこまで弱体化していたのか。

 儂と戦った時はあれだけ大火力の魔法を放っていたというのに」


「そうなんだよなー……、しかも原因が全く分からないからお手上げ状態だ」


 考えられるのは吸血鬼化ぐらいなんだけど、変身直後は膨大な魔力を引きだせたはずなんだよなぁ。

 聖剣の力も問題なく使えてたし、何が原因なんだろうか。


「ユーキよ。そこにうつ伏せになれ」


「え? 何だって急にそんな事を」


「お主の容態を調べる。

 ちと魔力の流れがどうなっているのかを確認したい」


 指示通りうつ伏せになると、上着を捲られて背中が露出する。

 そして肩甲骨辺りを一撫でする。

 んっ、マッサージみたいなものか?

 撫でる動作を終えた後、ギーグは親指でオレの背中を一突きする。

 その瞬間、オレの全身に電流が流れたのかと錯覚するほど膨大な魔力が流れた。


「あいだだだだだだ!」


「我慢せい、たかだか5分の辛抱じゃ」


「ぞっ、そんなごといってもっ」


「うわぁ……」


 引かないでくれアレク!

 これ、マジで痛いんだぞ!

 人間としての尊厳を失う表情をするぐらい許してくれ!


「ふぅ、終わったぞ」


「うぁあー……あっ、おぅ……」


「すごい……カエルみたいに痙攣してる……!」


 おそらく、今のオレは惨憺たる姿になっているだろう。

 目の焦点が合わない上、目と口と鼻から液体が垂れ流しになっている。

 全身はアレクの言う通りの(ざま)だ。

 呼吸も肺に大気が上手く入らない感覚がする。


「うぼゎぁあ……! 死ぬかと思った……!」


「あ、復活した」


「ようやくか。さて、本題に戻るぞ」


 誰のせいだと思っているんだ、誰のせいだと!

 とはいえそこを糾弾しても仕方ないので、大人しく診断結果を聞く。


「お主の体は、人とも魔族とも断言できぬ物になっておる」


「え? どういう意味だ」


「魔族としての肉体、人としての肉体が歪に融合しておる。

 聖剣(ストレシヴァーレ)による憑依、吸血鬼への変異をお主は同時に経験したであろう?

 おそらくはそれが原因。

 聖剣による精神や肉体への侵喰と吸血鬼への変化が同時に合わさった結果じゃ」


 人と魔族の、融合体?

 確かに、後天的にそんな肉体になった人物はいないだろう。

 だが、それだけで魔法が使えなくなる物なのか?


「魔族と人とでは魔力伝導率、星痕(スティグマ)の配置など、魔法に関わる要素が何もかも違う。

 魔法を使用する際にはその肉体に最適の魔力を練る必要がある。

 ところが今のお主は2つの特性を持つ肉体を持っておる。

 双方の肉体が魔力の伝達を阻害し、一見すると使用できる魔力が少ないように見える訳じゃな」


「待て待て。

 人と魔族の肉体が中途半端に融合した結果、魔法が使えなくなっているって理屈は分かった。

 だけど納得はできない。

 オレはギーグと戦っていた時に魔法を全力で行使できたじゃないか。

 あの時にできて今はできないってどうなってるんだ」


「儂との決闘時、吸血鬼への変化はピークを迎えていた。

 同時に、ストレシヴァーレによる侵喰もじゃ。

 戦闘後はそれらが双方停止。

 半端な融合状態で肉体が完成した、というところじゃろ」


「何で融合中なら魔法が通常通り使えるんだ。

 肉体が合いの子状態ならどっちにしろ阻害が起こるんじゃないのか?」


「魔法を使用するため無意識に強制侵喰を起こしていたのかもしれんの。

 普通なら肉体が()ぜる所じゃが、吸血鬼の再生能力があるのならば十分可能じゃろう」


 強制侵食――随分とぞっとしない事実が浮上した。

 再生能力で欠点を強制的にねじ伏せられるとはいえ、常軌を逸した魔力行使だ。

 無自覚にそんなリスキーな事をしていたとは……。


 それを認識したからには、半端な融合体という状況を解消するしかない。

 だが、それをするには――。


「どうすれば、元に戻るんだ。

 いや、どうすれば魔法が使えるようになるんだ」


「そんな事、お主はもう理解しておるじゃろ」


 ああ、分かってるよ。

 だけど、それを納得したくないだけだ。


「完全な吸血鬼への変化を促すために血を吸う。

 もしくは人に戻る手段を模索する。

 これしか道はない」


 半端な色が混ざり合っているというなら、一色に染まってしまえばいい。

 人か、魔族か。

 実にシンプルな回答だった。


「人に戻る手段として取り得る有力な物は、今のところ聖剣による英雄化の侵食ぐらいじゃ。

 儂としては手っ取り早く吸血するのを薦めるぞ」


「そんなことっ! ……いや、少しだけ、時間をくれ」


 英雄の侵食――確かに人の肉体を取り戻すには妥当な手段だ。

 だけど、それを終えた時にオレの人格が生きている保証はない。

 ギーグとしては、事実を端的に伝えているだけなのだ。


 オレが吸血に忌避感さえ抱いていなければ全ては解決する、そんな単純な事だ。

 それでも、オレは吸血鬼になる事を即決できなかった。

 全部諦めていた時は、あんなにすんなり受け入れられたのに。


「ユウ……」


 心配そうな表情を浮かべるアレクも、何と声をかけたらいいか分からないのか視線をこちらに向けるだけだった。


「大丈夫。すぐにでも決めるから。

 だから、今は一人で考えさせてくれ」


 多分、綺麗に笑えていたと思う。

 そこの川辺に行くから、と告げてオレは二人の前から立ち去った。


 あれから3ヶ月。

 もう数日で聖都へと辿り着ける。

 それだというのに、あの日の選択をオレは未だに決断できていなかった。


初っ端から解説回です。

むしろほぼほぼ今までマトモな説明回を入れていなかったのが異常なんですけどね。

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