第12話 終わりの記憶・前編
今回はもうちょっと書く予定だったのですが、結局のところ前半部分しか書けませんでした……。
投稿予定時間に間に合わないよりはマシと判断したので、前半のみのアップになります。
もう少し話数が溜まったら、後半部分である13話と統合する予定です。
やっぱり書きだめが切れると辛いよ……。
城砦都市ジェーブリクト――仰々しい名前の通り、魔族にとっての軍事拠点となる場所。
魔道具の研究開発、並びに量産をする軍事工業が存在する一大都市だ。
命を流血で清算する武具によって生活の糧を得る――そんな都市に住む魔族達は、きっと悪逆非道の存在に違いない。
あの日まで、オレはそう思っていた。
阿鼻叫喚の悲鳴と共に、街は制圧されていく。
戦場であれば、何処でも聞こえるものだ。
その様にいつも思っていたので、気には留めなかった。
オレが制圧を担当された工場の最終区画、そこに彼女はいた。
犬の頭と毛深い四肢を持つ魔族、犬頭族の少女だった。
「ひっ!?」
きっと、彼女にはオレが幽鬼のように見えたのだろう。
姿を視認するなり、恐怖に染まった双眸をこちらに向けてきた。
小柄なオレよりも小さな体格をしており、腰を抜かしている様子から、戦闘能力は一切ないだろう。
それでも魔族である以上、不意に攻撃される自体が起こりうるかもしれない。
そう考えたオレは、1本の火の矢を生成する。
これで眉間を一刺しすれば、それでお終い。
狙いを定めるべく、彼女の顔を視認した瞬間。
今まで感じた事もないほどの既視感が、オレを襲った。
「ひぃ……、ぁう……」
意味を為さない嗚咽と、上下の歯がカチカチと不規則なリズムでぶつかる音。
もはや涙なのか、鼻水なのか分からないほど透明液体で濡れそぼった顔。
様々な感情が混じり合い、左右非対称に震える表情筋。
それはまごう事なき、死に直面した時の、人の顔と同じものだった。
戦時中だから、オレはその顔を以前にも見た事がある。
だが、その表情を浮かべていたのは、魔族ではなく人の少女だった。
その街に救援に駆け付けた時は、もう何もかも手遅れで、虐殺された魔族から僅かな人々を救出する事しかできなかった。
そこで何度も見た、絶望の表情。
目鼻立ちも何もかも、人とは違うはずなのに。
今は彼らが、人と同一の存在としか認識できなかった。
「……っ!」
オレが呆けている間に決心を固めたのか、彼女は魔道具の先端をこちらに向けてきた。
どんな効果かは分からないが、この軍事都市にあった物だ。
十分な殺傷性能はあるのだろう。
それでも、彼女の口からは未だに泣きだしそうな嗚咽が漏れている。
どういった意図で攻撃を躊躇っているのか。
反撃への恐怖か、初めての殺傷への緊張か。
理由は分からないが、彼女は引き金に手をかける事を躊躇っていた。
「ぅぅううう……! 《風だn》ッ!?」
反射的に、火の矢を放つ。
彼女が魔道具に込められた魔法を放つよりも早く、確実にオレは命を奪っていく。
それは思考すら一切絡まない、ただの作業だった。
「……ぁ?」
戦場に似つかわしくない呆けたような声が漏れたのは、歴戦の戦士であるはずのオレの口からだった。
同時に、オレの三半規管の機能が麻痺し、正しく上下左右を認識できなくなる。
オレの脳が、魔族を殺したはずなのに、人を殺した罪悪感で埋め尽くされていく。
そこからオレが何をしていたのかは記憶していない。
ディートリヒたちが言うには、意味もなく街を彷徨っていたとの事だ。
全てが終わった後、オレたちは街を一望できる丘でキャンプしていた。
オレは街を見ないように、必死になって目を背け続けた。
だが、風に漂う煤の香り、微かに肌を火照らせる光源が、背後の光景を如実に物語っている。
ジェーブリクト街――そこの工業地帯ではなく、住宅街が絶え間なく炎上している。
オレは、殺しに関わった経験のない魔族たちを手にかけてしまったのだと気づかされた。
to be continued...




