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第11話 もう戻れない、あの時

今回と次回は回想シーンになります。

そして今回、初めて純粋な女の子キャラが登場します。

ガールズラブタグが今まで詐欺だと思っていた人、よかったな!

本作はちゃんと女の子が登場する作品だぞ!

「おい、ユーキ! 雑に炙っただけの肉を料理として出すのはやめろ!」


 これは、いつの記憶だろう。


「ディートリヒの言うとおり。少しは工夫して献立を考えて」


 そうだ、これはあの時の。


「うっせー! 食えるなら特に問題ないだろ。特にシェリア、メシマズのお前にだけは言われたくないやい!」


 まだ、皆と一緒にいた頃のーー。


「はいはい、ユーキがまたバカやらかすのは分かってたわよ。こっそりスープ作っておいたから、これで満足して」

「なにおう!? でもリリシア、よくやった!」


 ーーオレの大切な、思い出だ。




ーーーーーーーーーー




「しょれで、ほんどの作戦ふぁ確かーー」

「ユーキ、食べ終わってから喋って!」


 リリシアの注意を受け、そのまま飲み込もうとした結果窒息しかける。

 呆れた顔のディートリヒが説明を引き継いでくれた。


「今回の目標はジェーブリクト(がい)。戦力の要となっている魔道具製造工場の破壊だ」

「そのために私たちが奇襲。(けい)()の薄い西方部から進入、そこから直接工場を襲撃。後は本隊が東側から押し寄せて、どーん」


 投げやり気味にシェリアが締める。

 今回のオレたちは単純な陽動部隊。


「でもよ、オレたちが単純に先陣を切るんじゃダメなのか? いつもはそうやってきただろ」

「本作戦ではジェーブリクトの破壊ではなく制圧を重視しているからな。おそらく、連合国軍の独自技術を聖国は欲しているのだろう」


 魔族が主となる国家で最大の国土を誇るのが、ワースマル帝国だ。

 国民がほぼ魔族で締められる国の事を魔族領と呼ぶのだが、ワースマル帝国はその面積の7割を占める。

 その他の代表的な国は、リージヴァルト公国、マルナリア共和国だ。


 元々魔族の国家同士は種族の違いから一枚岩では無かったが、人との戦争が激化した為に連合国軍を結成。

 共有された魔道具の技術によって人の攻勢を押し返す事に成功したという訳だ。


「なるほど、その拠点を潰した上で奪えれば一石二鳥って訳だな」

「出撃時にも説明された事よ? アンタって相変わらず抜けてるわよね」

「ぐっ……」


 からかう様な笑みと共に告げられたリリシアの正論に口を噤んだ。


「作戦内容はちゃんと覚えてるわよね? ユーキ」

「ああ、実行は5時間後の明朝3時だろ? 分かってる」


 今思えば、この頃のオレは魔族を殺す事に抵抗感を持っていなかった。

 確かに魔族はほとんどが人型で、知能指数も人と対して違わない。


 だが、外見的特徴が著しく異なる種族が多い。

 エルフやドワーフなど、ほぼ人と同じ外見の者もいるが、ほとんどがコボルトやオークのように、獣に近い特徴を持っている。


 何より、人とは違う価値観を持つ。

 その中には食人、異常性欲など、人と相容れない嗜好を持つ者も多い。

 彼らを隣人と思う事なかれーーニェーヴ聖教典においてもその様に語られている。


 おそらく、オレが魔族を人とは別の存在と捉えてきたのは、これらの先入観と、戦場における彼らしか見てこなかったからだ。

 何の躊躇いも無く、人を殺す為に武具や魔導を振るう。

 その蛮行は同族に向けるべき物ではなかった。

 今思えば、暴力を(もっ)て相手を制圧しているのはお互い様だというのに。


「よっし、そうと決まれば仮眠だ! 2時間半で交代な!」

「ディートリヒと」

「それじゃあ私はユーキとね。結局いつも通りの組み合わせじゃない」

「今回は特に重要な任務だからな。普段通りの緊張感がちょうどいいさ」


 先発の見張り番はオレとリリシアがする事になった。

 二人がテントに入る姿を見届けた後、オレはリリシアの隣に腰を下ろす。


「はぁー。炙っただけの肉に何の不満があるんだか」

「ユーキの場合は臭みを取ったりしてないでしょ。せめて酒とか使いなさいよ」

「と言われても、元の世界じゃオレは酒を飲めなかったからなー。そういう勝手は分からん」


 オレが地球の話を少し出すと、リリシアは興味あり気に身を乗り出してきた。

 近づく顔の距離に少しドキリとしながらも、オレはリリシアの言葉を聞いた。


「ユーキのいた世界って、ニホンっていうんだよねっ? またそこの話、聞かせてもらえる?」

「い、一応言っておくけど日本は国名だからな。まぁ、暇だしいいぞ」


 そうしてオレは日本、ひいては地球についての思い出を語りだす。

 大きな戦争がなかったり、種族が人間しか存在しない世界というのが彼女には面白いようだ。

 どこまでいっても平穏が続く、そんな夢物語の世界のようだという。


「ベニヤ板にペンキを零したソイツが泣きそうになってさ。

 でも皆ですぐに許して、それを当日までに何とか塗り直したよ。大変だけど、文化祭は成功したし楽しかった」

「ペンキを零したの、ユーキじゃないんだね」

「相変わらずオレを何だと思っているんだ……。むしろオレはフォローする側の方が多いぞ」


 その後も、地球での色々なエピソードを語る。

 リリシアはそのどれをも楽しく聞いてくれるので、ついこちらも饒舌になる。

 いくらかの思い出を語った後、リリシアは神妙な表情で質問をしてきた。


「……ねぇ、ユーキ。1つ聞いてもいいかな」

「ん、何だ?」

「戦争を終わらせたら、ユーキは元の世界に戻るんだよね」

「ああ、もちろんだ。こっちの世界も居心地は悪くないかもしれないけど、それでも地球に残してきた物の方が多いから」

「……そうだよね」


 そう告げると、バツの悪そうな表情をリリシアが浮かべた。

 彼女にそんな表情を続けてほしくない。

 そんな思いから、オレの正直な本音が口から発せられていた。


「なぁ、リリシア。オレ、お前にかなり感謝しているんだ」

「え?」

「この世界に来たばっかりの頃のオレは、死ぬのが怖くて上手く戦えなかった。

 そんなオレを、お前が助けてくれたんだ」


 恐怖で震えたオレの手を、リリシアは支えてくれた。

 折れそうなオレの心に、救いの手を差し伸べてくれた。


「だから、本当にありがとう。オレ、あっちに戻ってもリリシアたちの事を忘れないから」

「どういたしまして。私も、みんなも、何があってもユーキの事を仲間だと思っているから」


 お互いに信頼を確認し合ったら、夜の涼しさが妙に気恥ずかしく感じた。

 何か、何か気まずさを誤魔化すような話題はないか、と思っていると、リリシアの方が声をかけてきた。


「――あ、砂時計がもう、とっくに切れてる」

「ああ、じゃあ残念だけど、2人を起こさないと、な……」


 仮眠の交代を使用とテントへ振り向くと、そこからは2つの生首が生えていた。

 仮面のようにニヤケ面を貼りつかせた彼らは、見つかった途端に堂々とテントから出てくる。


「おふたがた、あなたたちはいつから、おはなしを?」

「大丈夫だ、何も聞いてないぞ。大事な仲間の話を盗み聞きするほど、俺は酔狂な人間じゃない」

「この事は忘れない。ユーキがあっちに帰っても」

「ぷっくくくく、やっぱりユーキを揶揄うのは楽しいわ! 事前に2人と取り決めしておいてよかったー!」


 どうやら、オレの本音を聞きたいがためにリリシアと作戦を立てていたとの事。

 こうして夜にいい雰囲気を作れば、こんな風に話してくれるだろうと算段を立てていたらしい。

 3人からチョロイわー、チョロイな、チョロっ、とチョロの三重奏が奏でられた後、オレの怒りは沸点に達する。


「お、お前ら~! 今すぐそこに直れー!!」


 オレの怒号は、他の3人の笑い声によってかき消されていった。


チェロの三重奏ならぬ、チョロの三重奏。


今回は読者の皆さんに大事なお知らせがあります。


本日分の投稿で書き貯めが切れた上に夏コミで遠征しに行くので、明日は更新できない可能性が濃厚です。

本作を楽しみにしている皆さんには申し訳ありませんが、今しばらく次回をお待ちください。


幸い学校が夏季休暇に入ったので、13日以降は毎日投稿する予定です。

詳細は活動報告の方にあるので、そちらを参考にしてください。

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