君恋
「好きです、付き合ってください」
目の前の女性は、僕がずっと惹かれていた人だった。
その告白はうれしくも、悲しいものだった。
「ごめん」
僕は短く、そう告げるだけで精いっぱいだった。
目の前の君の瞳は大きく見開かれ、涙があふれてくるのが見えた。
「だって、あなたが見ているのは、僕じゃないから」
そう、君の瞳に僕は映っていなかったのだ。出会ってから、ただ一度たりとも。
最初は気づかなかった。
いつも優しくて、楽しくて、明るくて、それでいて泣き虫な君を僕はたくさん知ることができた。
君はとても気が利いて、とても尽くしてくれた。
そんな君に惹かれるまでに、時間はかからなかった。
好きになって、友人としてすごくことが増えた。
そうじゃなければ、僕は君の中に眠る気持ちに気づくことは一生なかったと思う。
僕が好かれているんだと、勘違いしたまま君とともに歩んでいったかもしれない。
それでもいいかと思った僕がいなかったとは、言えない。
でも、でも、僕は見てしまったんだ。
満月を見上げ、体を震わせて涙している君を。
その満月に手を伸ばそうとして、躊躇い辞める君を。
その日から、君の瞳には僕が映っていないと少し感じ始めた。
君は僕を通して、誰かを見ている。
君には手が届かない、そんな誰かを。
「どうして……」
「●●●」
その名をつぶやくと、君はうつむいてしまった。
「君の友達が教えてくれた」
震える君の肩が見える。
本当は今すぐにでも、その肩を抱いて慰めてあげたい。
君を泣かせているのが、僕自身だというのに。
「君が見ているのは、その人。その人は……僕と誕生日が一緒」
ただ、それだけだった。
君が僕を見つけた理由。
君が好きで好きで、手が届かないと諦めてしまった、その男と、ただ同じ誕生日という、それだけの理由だった。
「バカ、だよね」
君の言葉に、僕は答えることができなかった。
「でも、私は、ちゃんとあなたのことも好きだった」
君は顔を上げず、それでも静かに言った。
「信じてもらえないかもしれない。そういう始まりだったとしても、私はあなたが好きだった」
その言葉は、僕の誓いすら揺るがしてしまいそうだった。
君が君の一番好きな人と一緒にいられるように、と願った僕が。
「ありがとう」
それだけで、僕の恋心は救われたのだ。
「ちがうよ」
涙をたくさん流した君が、僕の顔をまっすぐに見据えていた。
「ありがとうは私の、セリフ。あなたが優しいから、それに甘えていたの」
君は涙をぬぐいながら、瞳を赤く腫らしながら、それでも僕から一度も目を離さず。
まっすぐに見つめていた。
こんなまっすぐに見つめてくれる、こんな君を見つけられない、あいつは馬鹿だなと、心から思った。
「君を幸せに、君と幸せになれるのが僕だったらよかった」
「え?」
思わず漏れた本音に、君は首を傾げた。
そんな仕草だって可愛い。
君が男の人が苦手で、ほかの人にはぶっきらぼうなのに、何度優越感を覚えたことだろうか。
たぶん、僕だけが知っている君なのだ。
「なんでもないよ。僕は君とは付き合えない」
僕越しに、君が誰かを見ているなんて、僕はきっと耐えられないから。
何か書きたいんですけど、本当に空っぽというか表現したいものが一つしかなくて、それを表現する術を持たない、言葉が足りないので、ちょっとずつ気が向いたときに軽く書いていきます。