〈 群青色 〉
「わたしは一度君になりたいと思った事がある。」
君はソラに似ているんだ、と彼女は言った。
ソラに似ている?僕は彼女に問う。〝空に似ている〟と言う顔はとても真剣だった為かほんの少しだけ僕の顔が強張ったのだろう、彼女はあはははと僕を安心させるように微笑みこう僕に言い放った。
「わたしはね、群青の世界に染まることしかできないの」
群青色ね、と彼女は呟く。
群青色、僕は繰り返した。
「宇宙と空の間、そこが群青の世界。わたしは宇宙に行くことも空へ行くことも許されない。ただ、2つの間にいるだけ。そこは冷たい風が流れ込んできてとても気持ち良いのだけど、たまにものすごく悲しくなる事があるんだ。なぜわたしだけこの場所なのだろうって」
彼女は続ける。しかしその瞳にはどこか遠くが映っていた。
「宇宙に行けばどんな世界の彼方にまでも行ける。どこか別の星にだって行く事ができる。
逆に空へと向かえばそよ風となり大地を駆け巡る事ができる。美しい世界を永遠に見られるし、人の暖かさに触れて優しくなれるような気がするのに……」
彼女は呟く。
なのにわたしはどちらにも行けない。一生群青の世界で他の人を見て羨ましく思いながら、自分に言い訳をして生きていくしかないのだ、と。
僕は彼女の肩にすっと両腕を回し、抱きしめた。
「いいなぁって、思うんだ。羨ましいなぁって、思うんだ。」
腕に力を入れると胸のあたりが暖かい雫で濡れていくのがわかる。
ぽんぽんと頭を軽く撫でた。きっと寂しくて、辛いのだろう。誰かに助けて欲しいのだろう、しかし群青色は宇宙と空どちらの色にも混ざることはない。
彼女はたった一人群青の世界に染まっている。だけど、本当はただの1人の人間、1人の少女なのだ。彼女なりに強く生きようとしているのだろうが、空回り。
大丈夫、僕はわかっているよ。人間だから欲だってあるし、嫉妬だってするんだ。
「ほら、笑って?」
と、僕は彼女の耳元で囁いた。まだすすり泣く声が聞こえるけれど、僕はもう一度そっと口を開き、こう告げた。
「僕は、そんな君が好きなんだ。」
誰かが弱音を吐いたら、そっと隣で慰める。だけど、多分その人のことを私は好きになってしまうと思うんだ。