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仮面の騎士

作者: 里兎

今回は少し長い御話しですが最後迄付き合って頂けると幸いです。

広がる大地。

そこには緑はなく荒れ果てて剥き出しの大地があるだけ。

そこに1人銀色の美しい装飾のされた騎士が1人。

彼は何気く足元に目をやる。

そこは鮮明な赤。

夕日に照らされていて光が無数に反射していた。

そして後ろを振り向く。

彼の通ってきた後には点々と赤く染まった水溜まりがあった。


戦いの後はいつもこうだった。

数えるのも嫌になるくらい命を剣で貫いてきた。

それでも彼は守りたいモノの為に心を殺して戦場に立ち続けた。

剣を磨いてきた。

戦いが終わる度に他の人は言う。


『よくぞ守ってくれた。』


と。

彼はその度に張り付けたような笑顔を作る。


「お前らの為じゃない。。」


そう心で呟きながら。


――戦場から帰ると銀色の鎧を脱ぎ捨て、慣れた道のりで彼はある所を目指す。

そこは大きな壁が何かを隠すようにそびえ立つ。

そして松明が揺れる門の前には見張りが2人。

彼等は、それ程慣れているのか騎士に軽く会釈をして彼を門の奥に通した。

奥まで歩くとそこには大きな温室が何かを守るように建っていた。

扉に手をかけ、そこを開けると。

世界が変わる。

幻想的な。

その言葉が適切に感じるほどに。

天井迄延びる蔦。

多い繁る木々や緑。

そして一面に広がる花達。

その花は月の光でぼんやりと白く淡く光って見える。


「おかえりなさい」


今にも消えそうな透き通った声で誰かが言う。

雪の様に白く儚い肌。

真っ白なドレス。

彼女は彼に日だまりの様な笑顔で笑いかける。


「ただいま」


彼はそのまま奥に座っていた彼女の隣に座る。

守りたいモノ。

それはここにいる彼女。

王家の血筋を持ちながら、生まれつき目が見えないせいで恥とされ温室に幽閉されている。

出会いは小さい時。

親に戦士として売られ。

戦いたくなくて剣術の稽古から逃げてきた彼は温室に迷いこんだ。

そして彼女と出会った。

逃げて彼女に会う度に話す度に守りたいと思っていった。

だから剣技も磨いた。

努力も沢山した。

捨て駒戦士から英雄の騎士へと登り上がった。

全ては彼女を守る為。

そういい聞かせながら。

戦いの場へと身を投じてきた。


白く細い手が彼の頬へと触れる。

彼女のぬくもりは彼の頬だけでなく心迄触れているかの様に温かくした。


「ムリしてない?」


優しい言葉。

彼は彼女の手に自分の手を重ねて目を瞑った。

彼女と同じ世界を見た。

暗いのに暗くない。

それは彼女が隣にいるせいなのか。


「ムリしてない。大丈夫。」


彼女の存在だけが彼の表情を柔らかくする。

そして手を握ったまま彼女の膝に頭を乗せた。

笑う声。

日だまりの様な笑顔。

命を掛けて彼女の全てを守る。

何度も思った事だけど再度心に誓った。



――――そんなある日の事。


騎士は王に呼ばれた。

綺麗な細工が惜しみ無くされている広間には赤に金色の糸が丁寧に編み込まれている絨毯が敷かれていた。

それらに負けず劣らず豪華な飾りのついた王座の前。

彼はいた。


「御前もそろそろ身を固めても宜しいだろう。」


ニヤリと笑う王に彼は下を向く。

王は彼の、騎士の名誉を欲しがった。


「私の娘と結婚しないか?」


王は続けて話しをする。

王の言っている娘は宝物の様に大事にそして贅沢に育てられた方の娘。

幽閉されている彼女じゃない。


「美しい娘と結婚出来るし、騎士としてもっと上の階位にゆける。お前にとっては良い事づくめだろう?」


五月蝿い。

王の話しには吐き気しかない。

心が黒く塗り潰されるようだ。

彼はいつもの様に笑顔を張り付ける。


「私には決めた人がおります。申し訳無いですがお受けすることは出来かねます。」


彼の話しを聞いた王の顔はみるみる強張っていく。


「まさか……貴様…まだあの王家の恥さらしと会ってるのではあるまいな…」


「………………。」


「あいつは駄目だ!貴様みたいな騎士と結婚すれば直ぐに国民に王家の恥が広がってしまう!」


彼は拳を強く握りしめる。

爪が食い込み血が滲む。

恥さらし。

それはお前の事だろうという言葉を必死で飲み込んだ。


「目の見えない分際でに私の栄誉の邪魔をするのか………こんなことなら……!!何をしておる!!貴様はもう下がって良い!行け!」


王の言葉に従い広間を後にする。

心に暗闇の靄を抱えながら。

何が正しいのか。

誰が敵なのか。

彼女の為とはいえこの国を守っても良いものなのか。

その靄はやがて雲となり雨となっていった。

そしてそのまま騎士は戦いへと身を投じる。

戦場にも又雨が降っていた。

彼女の為に。

彼は必死でそう思いながら。

人を斬った。

守りたい人がいるから。

人を貫いた。

彼の前に剣を凪ぎ払われ、震えた敵兵が腰を抜かして座っていた。

終わりだ。

そう心で呟きながら彼は剣を振り下ろそうとした。


「……御前は何故戦う!?何故殺す!?オレ達はただ平穏に暮らしたいだけなのに!!」


兜も飛んで兵の顔が露になっている今。

頬に伝う涙がはっきりと見える。


「どうして攻めてくるんだ…どうして…大切な仲間達を……」


嗚咽ともならないその声は彼の心を強く揺さぶった。

今更だ。

何度も言われてきたことだ。

なのに。。


『恥さらし』


本当は。


『目の見えない分際で』


彼女を守る相手はこの人達の手からじゃないのか。

心の雨が強くなる。

と同時にそれに共鳴してるのか戦場の雨足も強くなっていった。

撤退の合図が戦場に鳴り響く。

結局殺せなかった兵を残して彼はそのまま戦場に背を向けた。


彼女に会いたい。


今はそれだけが彼の足を早くする。

鎧も脱がず。

通い慣れた道を音をたてながら通りすぎる。

人目をしのぐような大きな壁が見えてくる。

奥に松明のぼんやりとした光が見えてくる。

刹那。

門の前で彼は足を止めた。

妖しく揺れる松明の下。

むせかえる程の匂い。

門番の1人がその前で血の池を作っている。

足が震える。

心臓が千切れそうに痛い。

まさかという思いに走って温室の扉に向かった。

扉を勢いよく開ける。


そこに広がる光景は――――。

白い無数の花が赤く染まる。

木々は無惨にも倒れ。

地面は踏み荒らされていた。

まるで今迄見た戦場の様だった。

そして扉の開けた少し奥で1人の門番が無惨にも転がっていた。


「………な…ん…で……」


歪みそうな視界を必死に堪えて死に物狂いで彼女を探した。

いつも座ってる場所。

ご飯を食べた場所。

眠っている場所。

好きだと言っていた場所。

限られた場所の中で彼女の面影を。

そして見付ける。

温室の隅に。

戦場でよく見た光景を。

それは小さなモノ。

月の光で反射して輝くソレ。

赤い水溜まり。

その真ん中には彼女がいつもしていた髪飾りが虚しく浮いている。

体から。

全ての力が抜ける。

目の前が真っ暗になる。

信じたくなかった。

目を背けたかった。


「……う…うそ…だ」


視界がぐにゃりと歪む。

目から溢れ出る涙が止まらない。


「嘘だと……いって…くれ…」


震える手で髪飾りを掬う。

冷たい。

温かさ等初めから無かったようだ。


「………!あっ……あーーー!!!」


声にならない声。

叫ぶしかなかった。

頬に当てた髪飾りからは血の滴が静かに滴り落ちる。

日だまりの笑顔。

そこにはもうない。

笑い声。

聞ける術が無くなった。

守りたいモノ。

守りたい人。

守れなかった。

その思いが彼の心に溢れかえっていた。

戦うべき敵は外じゃなく中にいたのだ。

彼はそう確信した。


『平穏に暮らしたい』


震える兵士の声がする。


『ムリしてない?』


そして彼女の声が続けて彼に聞くように頭に響いた。


「オレだって…君と…平穏に…でもムリしてでも…君を…守りたかった……」


心の雨が晴れる事は無い。

それならと。

騎士は1つの決断をした。

彼女を探しにいくと。

小さな望みを掛けて。

自分の命を掛けて。


見つけたら又あの日だまりの様な笑顔で笑ってくれるだろうか?


彼女の温かな体温に触れる事は出来るだろうか?


止まることの無い涙を隠すようにはずしていた兜を被り直す。

そして彼女の髪飾りをまた会えるという約束として大事にしまった。

死にかけた瞳の奥に揺れる小さな赤。


『おかえりなさい』


その声にまた会えることを信じて。

彼は腰に刺してあった剣をぬく。

向かうは今迄守ってきた城。


反逆者。


それも良い。

守りたいモノを守れるその先ならば。


騎士は振り返ること無く温室を後にした。

光のある未来を信じて――――。



―――――fin

最後迄読んでくれてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 騎士の叫び声に迫力が乏しいように思います。 ただ伸ばすのではなく、小文字の「ぁ」などを使ってみてはいかがでしょう。
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