背中で確かめる恋
走ってくる足音ですぐに解る。
遠くからでも、人に紛れていても。
君はどんとぶつかるようにしがみ付いてくる。
腰に回される腕は握ったら折れてしまいそうだ。
それを外すことなく、首だけ回して君を見る。
「元気だな。三津季」
そう言ってせがまれるまま、三津季をおんぶして再び歩き出す。
三津季は嬉しいのか、俺の首に腕を回してしっかりとしがみ付く。
「伊津兄、ねぇ、重くない?」
伊津兄と呼ばれた俺、伊津季はクスッと笑う。
この年の離れた女の子は恥じらいを覚えたのだろうか?
それとも自分の成長を知らせたいのだろうか?
「重くなってはきたけど、まだまだ軽いよ」
よっと掛け声をかけて、三津季を背負い直す。
赤ん坊の頃から背負っているが、重く感じたことはない。
三津季はしっかりと成長しているが、その分伊津季も成長しているからだ。
「早く、伊津兄みたいにおっきくなりたいなぁ〜」
伊津季の耳の後ろをくすぐるような声音に首をすくめる。
産毛のように柔らかい髪がうなじに当たってやっぱりくすぐったかった。
「なんで大きくなりたいんだ?」
くすぐったさも嬉しくて、楽しそうに問いかける。
一歩踏み出すたびに、三津季の頭がかくんと揺れる。
「早くおっきくなって、伊津兄のお嫁さんになる!」
元気よく言って、ぎゅっと腕に力をこめる。
小さな女の子がかわいらしく告白する。
すぐに忘れてしまうとしても、伊津季は嬉しかった。
「そうだね。三津季が大きくなったら俺のお嫁さんになってね」
密着する背中は温かく、決まった速度の鼓動が聞こえる。
とくん、とくん、とくん・・・。
命の鼓動。
今までも、これからも、守りたいと思う。
「なぁ?三津季?」
さっきより少しだけ重くなったような気がする。
吐息が規則正しい。
―――寝たのか。
空は夕焼けに染まって真っ赤だった。
さぁ、早く帰ろう。
三津季が風邪をひく前に温かくしてやらないと。
伊津季は背中で眠る温かな女の子を起こさないように歩く。
この日の約束は俺の心の中にしまっておこうと思う。
きっとこの女の子は覚えていないから。
―――もし、覚えていたら・・・。
それは嬉しい誤算。
でもそうなったらいいと俺は思う。
ただもう少しだけ、この背に背負っていたい。
求められる限り、この背に。
しがみ付いてくる、君がこんなにも愛しいから。
こんな光景を見たらいやされるなぁと思い、投稿しました。
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