表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『生存の配分 ── 上田合戦:徳川・真田、闇の合意』第三章  作者: あっちゅ寝太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/1

「なぜ史上最大の激戦・関ヶ原の裏で、上田合戦の死傷者は極端に少なかったのか? 真田の存続と、徳川秀忠の『遅参』。そこには家康と本多正信が描いた、武の時代を終わらせるための冷徹な国家設計図があった。」

2. あらすじ 慶長五年、伏見。地震で崩落した城を前に、徳川家康と本多正信は「豊臣の解体」を誓い合う。彼らの戦略は、朝鮮出兵で他家の暴力を「放電」させ、徳川の精鋭を無傷で「温存」することだった。家康は石田三成を「不純物を集める掃除機」として利用し、関ヶ原へと誘い出す。一方、跡継ぎの秀忠には、真田昌幸との密約による「偽装戦」と「意図的な遅参」を命じる。戦後、泥まみれの諸将の前に現れたのは、一兵も欠けぬ白銀の具足を纏った秀忠の三万八千。家康は敢えて秀忠を烈火のごとく叱責し、「情」ではなく「法」で身内すら裁く新時代の到来を演出する。すべては、真田の家門存続と徳川二百六十年の安泰を等価交換した「生存の配分」であった。武士が牙を抜かれ、官僚へと変貌していく「退屈な平和」の産声を、冷徹な知性で描き出す歴史スリラー。

第三章:直江の迷い、三成の限界

1. 散りゆく黄金:慶長三年・春

慶長三年の春、醍醐寺の山々は、秀吉が命じて植えさせた七百本の「桜」で埋め尽くされていた。

それは、かつて織田信長という巨鷹が愛で、豊臣秀吉という猿が盗み取った、戦国という時代の最後にして最大の残火であった。

家康は、その桜吹雪の中で、震える秀吉の肩を支えていた。

「殿下、見事な花にござりますな」

「……ああ、家康。わしが死んでも、この花は咲き続けるか」

「もちろんにござります」

家康は神妙に頷きながら、散り急ぐ花弁に、豊臣の命運を重ねていた。桜が散り、青嵐が吹く頃には、この老人の心臓も止まる。

そして、季節が巡り「はぎ」の花が露に濡れる頃――慶長三年八月十八日。猿は土へと還った。その死は、極秘の内に処理されたが、伏見の風はすでに、新しい時代の腐臭を運び始めていた。

2. 鞄持ちの限界:慶長四年・秋

太閤が世を去り、季節が秋の深まりを見せる頃。

大坂城の廊下を、石田三成(治部)がせっせと書類を抱えて走り回っていた。彼はどこまでも「太閤の鞄持ち」であり、主人のいなくなった空席を、算盤の音で埋めようと必死であった。三成にとって、正義とは計算式の答えが合うことであり、誠実とは帳簿の数字を汚さぬことであった。

正信は、冷たい秋風に吹かれながら、三成の背中を物陰から眺めていた。

「ありゃあ、天下の器じゃない。治部殿は、正しいことを言えば人が動くと思っている。だが家康よ、人は正論では動かぬ。『損得』と『恐怖』で動くのだ。三成の算盤には、『感情』という名の最大公約数が抜けておる」

正信は、三成が武闘派の諸将を叱責するたびに、裏で「徳川様はあなたの武功を忘れはしませぬ」と、福島正則らに囁き続けた。三成が「正しい鞄持ち」であろうとすればするほど、豊臣の家臣団は内側から腐り、徳川の懐へと転がり込んでくる。それは、刀を使わぬ「静かなる侵食」であった。

3. 役者と算盤:慶長五年・春

翌、慶長五年の春。会津には、まだ冬の名残の雪がまだらに残っていた。

上杉景勝は、雪解け水のように冷たい沈黙を守る「役者」に徹し、実権を握る直江兼続は、算盤を弾きながら挑発的な「直江状」をしたためめていた。

「見たか。兼続の奴、筆を走らせる時間はあっても、軍を動かす決断はできなんだようだ」

伏見の屋敷で寝転びながら、正信が届いたばかりの文を放り出す。

「この『直江状』とやら、実に見事な名文よ。言葉の刃が立ち、読む者を飽きさせぬ。だが、兼続よ。お主がこの美しい文字を並べるために費やした数日間、我ら徳川はどれほどの兵站を動かしたと思うている」

正信は、文を指先で弾いた。

「兼続は詩人だ。言葉で相手を屈服させようとする。だが、戦は工学だ。算盤の数字が合わぬことに怯え、結局、紙の上の戦いに逃げたか。あやつは、主君に問わずに引き金を引く『博打』が打てぬ。所詮は、地方の算盤上手。文学で天下を獲ろうなど、設計図を持たぬ者の末路よ」

4. 湿りゆくスイッチ:慶長五年・梅雨

季節は巡り、重苦しい「梅雨」が伏見を包み込む。

家康は、雨音に混じって響く遠雷を聞きながら、静かに微笑んだ。

「弥八郎、三成という掃除機にスイッチを入れろ。会津へ向けて、盛大に軍を出すぞ。……あの湿っぽい男が、西の不純物を一箇所に吸い寄せる時間を稼いでやるのだ」

家康の視線の先には、雨に濡れた庭園があった。濡れることで色を増す石のように、策略もまた、湿り気を帯びるほどにその深みを増す。

「小山へ着く頃には、せみが鳴き始めるでしょうな。……江戸の秀忠にも伝えろ。『兼続のような迷いはいらぬ。お主はただ、設計図通りに遅れて来い』とな。文字で人を殺そうとする者と、沈黙で時代を創る者の差を、見せつけてやるのだ」

家康と正信の視線の先、天井のシミは、今や激動の「関ヶ原」へと繋がる巨大な盤面と化していた。

「AI(Gemini)と協力して練り上げた歴史大戦です。年表の整合性と人間ドラマの融合を目指しました。」 物書きには、便利な世の中になりました。居乍らにして取材ができる。旅する度に資料館には足を運びましたが、AIには助けられました。ぜひご一読ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ