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方向音痴

方向音痴

作者: ムトウ
掲載日:2026/03/17

 宇宙探査局、探査部 第2探査課。

 課長の執務室から、怒声が廊下に響きわたる。


「この、おおばかもんがーーーーー!」

 部屋の空気がビリビリ震えて、ホロスクリーンの表示を揺らした。

「迷った? 巡回ミッションで迷う?! いったい、何をどうやったら迷うんだ!?」

 課長の正面で怒りの直撃を受けながら、イワンはひたすら頭を下げ続けている。

「申し訳ありません……」

「定期巡回で?! オートパイロットでも辿れる航路で!! 何やったんだ、ほんとに!」


 スクリーンに投影された航路記録は、きれいな弧線を描くはずのルートが、妙な方向へ大きく逸れている。さらに、酔っぱらいの千鳥足みたいにぐねぐね彷徨った挙句、なぜか、最後はぴたりと帰還航路に戻る。ありえない道筋。


「だいたいが、これ、探査船だぞ?! 航宙図(チャート)AIは最新モデル! 航路補助も全自動! 衝突回避から重力場予測、磁気嵐ナビゲーション、全部載せだ! 迷うほうが難しいだろうが!!」

「はい……」

「ほんと、なんで?! なんで迷う?!」

 問い詰められているイワン本人も、困った顔をしている。

「……自分でも、よく……」

「わからんのか!!」

 課長は呆れと怒りミックスで吐き出す。

「昨日今日パイロットになったわけじゃあるまいし、なんで、どうしてこんな、」

「申し訳ありません……」

「申し訳ありませんじゃない!」

 課長は椅子にどさりと座り、両手で顔をこすった。しばらく沈黙。

 いたたまれなくて、なんとか課長の納得のいく説明を、と思うものの、イワンの口から出る言葉は、結局、

「……申し訳ありません」

 それしかなかった。


 課長は天井を見上げる。

「はあ……」

 呆れも極まって理解不能の困惑に至った、長い長い溜息。

 しばらく黙ってから、手を振った。

「……もういい。ドック行け。整備班が待ってる。報告書三枚、航跡ログは全部提出だ」

「はい……」

 イワンはもう一度深く頭を下げ、課長室を出た。

 廊下に出た瞬間、肩がすっかり落ちている。とぼとぼと歩きながら、誰に聞くでもなくつぶやいた。

「……なんで迷うんだろうなあ」

 本人にも、わからない。



 宇宙港の駐機格納庫、整備エリアの端のほうに、第2探査課の小型機用整備ドックがある。

 金属と機械油の匂い、低い機械音の満ちる空間に、小型探査艇〈リュシカ〉が停泊している。


 船腹にマグネットブーツで張り付いて、パネルを開けている整備士の姿があった。

 自分の船を点検してくれているエンジニア、スージーだ。

 イワンがしょぼくれた足取りで入ってくると、内部を点検していたスージーが振り向いた。腕まくりした作業着の袖から、油で汚れた手袋がのぞいている。

「お、帰ってきたか。課長のとこ行ってたんだろ?」

「……うん」

「まあ、そうなるよなあ」

 スージーは苦笑して、まあまあ、と宥める仕草をした。

「あんま、気にすんなよ」

 パネルをぱたんと閉じ、マグネットブーツのロックを外して軽やかに床へ降り立つ。

 イワンの顔を見て、少しだけ笑う。

「くよくよすんなって。無事に帰ってこれてよかったじゃないか」

 手袋を外し、〈リュシカ〉のフロントパネルをぽんぽん、と軽くたたいた。

「ハードな迷子だったわりに、かすり傷だ。メインエンジンもスラスターも生命維持ユニットも、まったく問題なし、ナイスフライト!」

 親指を立ててみせる。

 イワンは、ありがとう、と礼を言ったものの、眉をハの字にへにょりと下げて、情けない風情で愛用機を見上げる。

「でも、ミッションをこなせないんじゃなあ。巡回先の開発基地、僕が来ないもんだから、ロジが狂った、ってめちゃ怒ってて」

 定期巡回なめんな。こっちの生命線なんだと思ってんだ、ばかたれ。って。

「そりゃそうだよなあ……」

 なめてるわけじゃないんだけど。


 しょんぼりうなだれるイワンを見やって、スージーはやれやれ、と息をついた。

「落ち込むな、っつっても無理かもしれないけどさ。怪我の功名?不幸中の幸い? ってやつじゃん。ほら、今回のルート」

 スージーは作業台の端末を操作して、航跡ログを空中に投影した。例のぐねぐねした線を指し示す。

「このショートカット見つけたわけだろ。今まで誰も通ってなかったルートだぞ。重力波も安定してるし、磁気嵐も少ない。結果だけ見れば、かなりの発見だ」

「偶然だよ。これ、探査任務じゃなかったし」

「発見ってのはだいたい偶然だよ。課長も、立場的に褒めるわけにはいかないけど、内心は"でかした!"って思ってるって、きっと」

「……そうかな」

「そうだって。少なくとも整備班としては助かる。次から巡回時間、かなり短縮できそうだしな」

 イワンは少しだけ笑ったが、すぐにまた肩を落とした。

「でも、やっぱり迷ったのは事実だからさ……」

「生真面目だなあ、イワン」

「普通だよ」

「いや、普通よりちょっと真面目」

 スージーはイワンの背をバン!と叩いて、元気出せよ。と励ます。


「まあ、とりあえずさ、飲みに行こうぜ。いつものカモメ亭。反省は大事だけど、落ち込みを引きずってもいいことないんだからさ」

 イワンは少し迷ったが、やがて小さくうなずいた。

「……うん。そうだな」

「っしゃ。じゃ、先にやっててよ。こいつの後片付けしてから行くから、三十分くらいで終わる」

「わかった。席とっとくよ」

 イワンは軽く手をあげ、また後で、と整備エリアから去っていった。その背中は、さっきより少しだけ軽くなっている。


 スージーはしばらくイワンの後ろ姿を見送っていたが、彼が視界から消えると、ふう、と長い息を吐いた。さっきまでの明るい笑顔とは違う、複雑な表情で苦笑する。

「……難儀な男だねえ」

 彼の愛用機〈リュシカ〉を改めて見上げると、ハッチからコクピットに素早く潜り込んだ。内装パネルの奥に手を突っ込み、手のひらほどの黒い装置を取り出す。

 船の後部、外装パネルからも、同様の装置を外した。

 外したふたつの装置をケースに収め、電子ロックを施錠する。機密扱いの認証入りの、やけに厳重なケース。

 スージーは低い声でひとりごちた。

「ま、あんたは知らなくていいけどさ」



 そのとき、ドックの入り口から軽い足音が近づいてきた。

「やあ、スージー。イワンがまたやらかしたって」

 第1探査課のパイロット、エリックだ。白い制服はしわひとつなく、整った襟元や目深に被った制帽も、いかにも優等生、といった雰囲気。


 スージーは肩をすくめて答える。

「やらかしたどころじゃないよ。今度は最短ルートの発見だ」

 航跡データを投影すると、複雑にうねる航路の中に、まるで糸を通したようにブラックホールの重力圏を避けて抜ける細いラインが見える。

「……冗談だろ」

 エリックは唖然として航宙図をにらみつける。

「あのブラックホール回避できるなんて奇跡だよ。なんで定期巡回でそんなとこ辿り着けるんだ?」

 念を押すように、真剣な目で何度もルートを確かめる。

「通常宙域から全く外れてるじゃないか。……いったい、どういうことなんだ」

 あれ? と、スージーはおもしろそうにエリックを見やった。

「ひょっとして、ジェラシー? 第1のパイロットさんが?」

「茶化すなよ」

 エリックは眉をしかめた。

「この宙域、どこだかわかってるか。重力波の不安定域だぞ。ネスト形成もある、磁気嵐も出る。まさか通れるなんて誰も思ってない。迂回して3ヶ月かかるルートだ」

 ホロ上に立体表示された宙域は、ブラックホールの巣と、磁気嵐の帯が何層にも重なっていた。

「なのに、こんな器用にくねくね抜けて最短ルート。これ、ざっくり見ても、……1週間、ってとこか? 3カ月が1週間にショートカット!? どうなってんだよ」

 ジェラシーも無理ないだろ。と、不機嫌につぶやいた。


 探査局の第1探査課は、未知の宙域探査を担う部署。所属するパイロットは厳しい選抜を経たエリート揃い、いわば花形部署だ。

 一方で、第2探査課は、開発宙域の巡回や雑多な任務“その他もろもろ”を請け負う、便利屋的な部署。

 その第2のパイロット、イワンが大発見を引き当てた。

 そして、実はこれが初めてのことではない。


 スージーはホロスクリーンを閉じて端末を片付ける。

「前回はなんだっけ。高純度のレア鉱脈を発見したんだっけ?」

「ああ、うん。単純な物資輸送だったはずなんだがな」

 制服の襟元を緩め、両手をポケットに突っ込んで、ふてくされたようにエリックは言う。

「見つけた鉱脈、ポジションが絶妙でさ、造船ドックを計画してる小惑星のすぐ近くなんだよ。“必要な資源が全部揃った!”って、施工部と資材課が小躍りしてた」

 本来の輸送ミッションのほうは間に合わなくって、結局、俺がフォローに行ったんだ。

「“おや、わざわざ第1さんがお届けとは珍しい”って、管制にからかわれたよ」


「その前は、ビーコン消失して行方不明になってた民間船を発見したんだ。乗組員も乗客も全員無事、奇跡の生還。」

 そのときの本来任務、なんだったと思う?

「テスト飛行だぜ?! 局の宙港から一般宙港に真っ直ぐ飛ぶだけ。それでどうやって、座標を光年で離れた場所にジャンプするのかわからないし、その上遭難船見つけるって、奇跡すぎるだろ」

「あー! あれな。参ったよ、あたしらも とばっちり食ってさ。燃料もギリで、やきもきさせられたし」

 スージーも思い出して、あったあった、と応じる。


「あのときもそうだ。広報部から子ども向けの見学航路の下見に駆り出されたと思ったら、大規模な宇宙ゴミ集積ポイントを見つけてくる、っていう。俺、ニュースホロ2度見したぜ」

「あたしも覚えてる。例の、大型船の非常脱出シャトルが大量消失した事件だろ」

「笑えるよな。シャトル全機、無傷で滞留してたって。保険屋が大喜びだ」


 つらつら思い出して数え上げつつ、スージーは何度目かのため息を吐いた。

「どれも大手柄なのになあ」

 エリックも、うん、と応じる。

「でも、任務としては失敗だ」

 その声には、呆れとも苦渋ともつかない、複雑な心情が滲む。

「……それにしても、悔しいなあ」

 探査パイロットなら誰もが、いつかは大発見を、と夢見るものだ。

 思いがけないかたちで、なんどもそれを果たすイワン。

「まあ、イワンにはイワンの言い分があるのさ。普通にミッションをこなしたい、って」

「ああ、わかってる。わかってるけどさ」


 〈リュシカ〉を見上げ、エリックはポツリと呟く。

「イワンも第1で探査に行ければ、ベストなんだろうけどな」

「話はそう簡単じゃないんだよねえ」

 スージーは工具箱をロッカーにしまい、整備ドックのセキュリティを確認する。

 片手には、さっき外したふたつの装置が収まるケース。さほど大きくもない、けれど、小型探査船としては厳重過ぎる施錠をちらりと見て、エリックは察したようだった。

「……あーあ」

 ため息ともうめき声ともつかない音声を発して、降参、と言いたげに両手を広げた。 

 スージーは苦笑を返すだけで、何も言わない。

 言えない。



 同じころ。

 第2探査課、課長の執務室。

 先刻イワンを怒鳴りつけた人物は、机に肘をついて端末のメールリストを見つめていた。

「まったくどうなってんだ、これ」

 胸元をさすりながら、胃薬のパウチを開け、口に放り込む。徳用大箱の残量がかなり心許ない。

 ため息をついて、画面をスクロールする。リストの列はなかなか途切れない。

 技術部門からの悲鳴混じりの報告、他部署からの苦情と困惑の問い合わせ。どれもこれも、“重要”とか“至急”のフラグ付きだ。


 #新規最短航路 #レア鉱脈発見 #行方不明船救助 #脱出シャトル大量発見

 並んだタグは確かに成果ではあるものの、どれももれなく #MISSION FAILED タグが併記されている。


「1回なら偶然ですむ。2回でも幸運、なんとかこじつけられる」

 また胃が痛んできた。 

「3回、4回、と発見を繰り返す。ここまで続くと、偶然じゃ済まないだろ……」


 航路分析課は、イワンの航行記録に発狂寸前。

 “確率論に謝れ!”と叫んでいた、という噂だ。全データ突っ込んでも、再現性ゼロ。

 造船部のAI開発課もパニックだ。イワンの“迷子”がどうしても演算できないらしい。 最新の航宙図AIは、“理解不能です”というダイアログのまま、固まってしまった。


 探査局の上層部は「なら、最初から探査ミッションにすればいんじゃね?」と、簡単に命じた。

 課長も最初はそう思った。

 試験的に、第1探査課の新規探査に紛れ込ませてみたら、成果ゼロで帰ってきた。大発見どころか、掠りもしない。第1のチームが入念に準備していた有望な宙域探査を、ポッと出の第2パイロットにウロウロ邪魔され、ブチ切れた第1の課長にイヤミを食らってしまう。


 そもそもの、本来の任務が失敗しまくってるのもいいかげんにしてほしい。他部署からの苦情が山盛りだ。

 ここまで失敗が続くと、降格やパイロット資格停止もあり得る。

 だが、“大発見”の功績が無視できない。

 苦し紛れにダミー任務を与え、何かしらの“発見”を狙ってみたが---そんなときに限ってフツーに任務を果たしてきやがるのだった。

 ふざけてんのか、と思う。


 胃薬の箱をカサカサ振って、課長はげんなりと端末画面をタップした。

 ロックのかかった“機密”フォルダを呼び出す。課長権限のパスキーで開いて、表示されたデータに深々とため息をついた。

 個人情報をマスクした、乗務中とおぼしき人物の生体モニタリングデータ。言うまでもなくイワンのデータだ。


 スージーが回収したふたつの装置は、通常の航行記録とは違う。

 コクピットには、イワンの脳波・身体反応をリアルタイムで記録する生体モニター機器が設置されている。「迷う瞬間」に何が起きているか神経レベルで解析するためだ。

 また、外部装甲に取り付けられた航行記録装置は、通常の10倍以上のセンサーが極秘に追加されている。イワンの航行時の航跡・座標のみならず、宙域の重力・磁場・暗黒物質濃度まで、すべて高精度で記録している。

「安全を守るため、ではあるものの……」

 イワン本人に内密のデータ収集は黒に近いグレーだ。


 そして、それらの詳細なデータを計算に入れても、お手上げなのだった。

 記録は本物だ。改ざんも誤作動もない。それなのに、なぜその航路を通ったのかが、どうしても説明できない。

 畑違いの医療センター、メンタルヘルス科の職員が、定例会議の雑談でポロッとこぼした一言。

「方向音痴じゃないですかねえ」

 その投げやりな一言が、いまのところもっとも正解に近いらしい、というあたりが、なおのこと胃痛のタネだ。


「フツーに仕事してほしい」

 課長は切実にぼやく。

 そもそも、真面目過ぎるくらいに生真面目な男だ。

 浮ついた野心に踊らされることもなく、地味な仕事も嫌がらずに取り組む。

「素質はいいパイロットだと思うんだがな……」

 ガリガリと頭をかく。


 うっかりな“大発見”は危うい一面もある。

 他社の探査部門や軍に目をつけられたら厄介だ。それならまだしも、他国の諜報や海賊に知られたらイワンの身が危ない。


 よって、第2探査課でお使い仕事に失敗しつつ、たまの“発見”を期待される、という、ジレンマ極まる扱いなのだった。


 庶務AIにデータ整理を命じながら、

「本当に、なんなんだ、あいつ」

尽きないため息を繰り返すのだった。(ついでに胃薬の追加支給申請もポチった)




 カモメ亭は、探査局宙港からほど近く、うまい酒食をほどよい価格で楽しめる店だ。ざっかけない居酒屋と小粋なビストロの中間くらいの雰囲気で、探査局の職員が多く集う。


 イワンは隅のテーブルに席を占め、名物の肉の煮込みを適当につつきながら、グラスを傾けていた。手元のハイボールはもう氷しか残っていない。

  テーブルに投影されたニュースホロには、今日のイワンの「発見」が、さらっと一行で流れている。


〈第2探査課、定期巡回中に新規短距離ルート候補を発見〉


 パイロット名は伏せられている。それが、妙に堪えた。

 課長、庇ってくれてるんだよなあ……。

 ちらほらと見知った顔を見かける店内、周囲の顔色が気になって仕方ない。自分の失態と裏腹の発見に、「いい気になってんじゃねえぞ」「てめえの仕事しろや、しゃしゃってくんな」などと言われたこともあった。

「そりゃ、そうだよなあ」


 しょぼしょぼと煮込みを口にしていると、

「よう、おまたせ」

と、スージーが現れた。傍らには、

「おつかれ、イワン。俺もいっしょしていいかな」

 白い制服が眩しい、第1のエースパイロット、エリックもいっしょだった。

 うっ。と内心で怯みつつ、「やあ、おつかれ」と挨拶を返す。


 エリックはいいやつだ。エリートなのに、全然偉ぶったところがなくて、イワンの失敗の後始末に回されても嫌な顔一つしない。

「いいさ、フォローはお互い様だろ」

 と、白い歯をのぞかせて爽やかな笑顔で言う。

 まったく、イヤミなくらいにいいやつだ。


 スージーはホロパネルで注文を選びながら、

「まだくよくよしてんの? 元気出しなって」

 同じのでいい? じゃ、イワンのそれも追加ね。と、ちゃきちゃき世話を焼いてくれる。

「いいな、俺も煮込み食いたい。これさ、残った煮汁に揚げポテト追加して突っ込むの最高だよな」

「いいじゃん、それ。あ、でもあたしはマカロニチーズ派だな」

 あえて失敗の話題に触れないエリック、明るく笑い飛ばしてくれるスージー。

 うう。いたたまれない。


 イワンの落ち込みを見かねたスージーが

「あんま、悪い方にばっか考えすぎんなよ」

 ほれほれ、食いな、と、でっかいソーセージを皿に寄越してくる。

 エリックは黙ってビールを飲んでいたが、ごとり、とジョッキを置くと、正面からイワンに向き直った。

「いろいろ言う人がいるかもしれないけど」

 穏やかだが、強く思いのこもった口調で続ける。

「自分で、自分を貶めるのはよくないぜ」


 痛いところを突かれて、思わず見上げると、エリックは、てへっ、と片頬を歪める笑い方でごまかした。

「なんてな。わかるよ、俺も失敗したときとか、果てしなくヘコむもんな」

「エリック……」

 完璧か。なんて出来た男だ。かっこいい。


「エリックはすごいよなあ」

 唐突に聞こえるだろうことは承知の上で、ついつい、正直な気持ちがぽろりとこぼれた。

「なんだよ、急に」

 エリックは可笑しそうに応じる。

「かっこいいし、仕事できるし、ミッションの成功率だってぶっちぎりだし、脚長くて制服似合うし、顔もいいし、酒も強いし、モテるし、」

「……酔ってるな?」

「めちゃくちゃかっこいいのに、てへっ、とかお茶目もかますし、」

「おい、大丈夫か、イワン?」

「……完璧じゃんか、エリック」

 紛うかたなき、アコガレ100%の視線を向けられて、エリックは一瞬、固まった。

 それから、苦笑を返し、

「完璧なんかじゃないさ」

 つまらなそうに返した。



 その後、テーブルに突っ伏して酔いつぶれてしまったイワンを見やって、エリックはボヤキをこぼす。

「まったく、人の気も知らないで」

 スージーは黙って肩をすくめてみせた。

「ほんと、なんなんだ、こいつ」 

 万感の思いが込められたその一言は、奇しくも第2探査課の課長と重なった。


 卓上のニュースホロが、音を消したままニュースを流している。

〈第2探査課、またもや偶然の大発見〉のテロップが、静かにスクロールしていた。





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