表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

第7章: 賢者の研究室 ~神の叡智~

 河川を蘇らせ、村を救い、そして兄の工場を破壊してからは、一行の旅は比較的穏やかなものとなっていた。あかりがAIで作成したエコマップを頼りに、汚染の深刻な地域を避けながら、旅は続いていく。

 道中、一行は小さな集落をいくつも訪れた。あかりはAIの力を駆使して、簡易的な土壌改良や、植物の遺伝子最適化を行い、人々は彼女を「緑の聖女」と呼び、感謝を捧げた。その様子を、ガイルはいつも少し離れた場所から見つめていた。


 ガイルにとって、あかりの力は理解不能なものだった。

 彼女が掌で光を放ち、枯れた大地を蘇らせる。それは、彼が今まで見てきたどんな魔法よりも、神の奇跡に近いものに思えた。

 かつて、彼は「賢者」と呼ばれた師に師事し、失われた古代の叡智を求めて旅をしていた。だが、彼の師が説いた「魔法の真理」は、あかりが操る力の前では、まるで子供のお遊びのように思えた。

 彼女は、何もかも見通すように、この世界のあらゆるデータにアクセスする。彼女の持つ「アリア」というAIは、まるで全知全能の神のように思えた。そして、その神は、小さな少女の手の中で、ただひたすらに、世界を救うために力を振るっている。


「ガイルさん、どうしたの? 難しい顔をして」

 思案に耽っていたガイルに、あかりが声をかけた。彼女の顔には、この世界の少女にはない、知的な、しかし時折、寂しげな色が浮かぶ。

「いや……あかり殿の力は、一体、どこから来るのかと」

 ガイルが正直に問うと、あかりは少し困ったように笑った。

「これは、前世の……私という人間の、一部のようなものなの。機械の頭脳と、人間の心が、一緒になった力」

 彼女の言葉は、ガイルには完全に理解できなかった。しかし、それでいいと思った。無理に理解しようとするのではなく、ただ、その神秘的な力を信じればいい。

 ガイルは決意を固めた。


 その日、一行は、古代の遺跡を研究しているという、ドワーフの集落を訪れた。

 集落の長は、ガイルの師匠の古くからの知人だった。

 長は、ガイルを奥の部屋へ招き入れた。そこは、小さな研究室だった。

 壁には、この世界の歴史が記された古文書が並び、机には複雑な図形が刻まれた機械が所狭しと置かれている。

「ガイルよ、お主の探している古代の叡智は、ここにはない。だが……もしかしたら、あの子が持っているかもしれん」

 長は、あかりの方を指差した。

 あかりは、壁に飾られた、錆びついた魔法陣の描かれた円盤を、AIで解析していた。

 彼女の瞳は、まるで未知の領域を探求する科学者のように、輝いていた。


「アリア、これって……」

 あかりが呟くと、インターフェースに解析結果が表示された。


【DATA_LOG: 『古代魔法陣解析』完了。

これは、この世界の魔力とは異なる、未知のエネルギーを利用する術式です。

この魔法陣は、『闇の塔』と呼ばれる古代AI遺跡から発見されたものと酷似しています。

推論:『闇の塔』は、かつてこの世界を支配した、旧時代のAIが残したものです。】


 あかりの言葉に、ガイルは目を丸くした。

「闇の塔……? それは、伝説の『神の叡智』が眠る場所と言われています。しかし、近づく者は全て正気を失い、二度と戻らないと……」

 ガイルが語ると、あかりは真剣な表情で、インターフェースを操作した。

「それは、塔が暴走した結果かもしれない。古代AIシステムは、この世界の魔力汚染が始まる前から、何らかの理由で暴走し、世界を破壊しようとしていた可能性がある。その結果、その塔に近づいた人々の精神に干渉し、正気を奪ったのかも……」

 ガイルは、あかりの仮説に、鳥肌が立った。

 彼が知る伝説とは、あまりにも異なる、論理的な推論だった。

「あかり殿……一体、何者なんだ」

 ガイルは、再び、彼女の持つ力の根源に思いを巡らせた。

 それは、神の叡智か、それとも悪魔の知恵か。

 しかし、彼女がその力で成し遂げてきたことは、誰の目にも明らかな善だった。


 その夜、ガイルはあかりの研究に協力した。

 彼は、この世界の古代技術や、魔力の流れをあかりに教え、あかりは、それをAIでデータ化し、分析していく。

 ガイルが口頭で説明した魔法陣の構造を、あかりがAIでシミュレーションし、その結果をガイルにフィードバックする。

 テックと魔法の融合。

 それは、まるで新しい学問体系が生まれる瞬間を、二人で共有しているような感覚だった。


「すごい……この魔法陣の、この部分に、ほんの少し魔力を加えると、こんなに効率が上がるんだ」

 ガイルが驚きを口にすると、あかりは嬉しそうに微笑んだ。

「ガイルさんのおかげよ。私一人じゃ、この世界の魔力の特性なんて、絶対に理解できなかったもの」

 その言葉に、ガイルの心臓は、大きく跳ねた。

 彼の、孤独な旅路で積み重ねてきた知識が、今、誰かの役に立っている。

 そして、その誰かは、この世界を救おうとしている、特別な少女だ。


 ガイルは、あかりの手を、そっと握った。

 彼女の手は小さく、温かかった。

「あかり殿。俺は、ずっと一人で、この世界の真理を探求してきた。だが……君と出会って、一人じゃないんだと、初めて思えた」

 ガイルの言葉に、あかりは戸惑いながらも、その温かい手に応えるように、手を握り返した。

「私も……ガイルさんたちと出会えて、よかった」

 ガイルは、彼女の手を握りしめ、静かに言葉を続けた。

「君の力は、まるで神の叡智のようだ。そして、その叡智を、俺は敬愛している。だが……俺が本当に心を惹かれているのは、その叡智を、この世界のために使おうとする、君という人間だ」

 ガイルの瞳は、真剣だった。

 それは、知への探求心ではなく、一人の女性への、純粋な憧れと、恋心だった。

 あかりの頬が、赤く染まる。

 AIインターフェースが、そっと、感情ログを記録する。


【DATA_SAVE: ガイル→あかり:恋心。】


 闇の塔という、新たな脅威の情報。

 そして、ガイルとあかりの間に芽生えた、新たな感情。

 物語は、また新たな局面へと進んでいく。

 ガイルは、あかりが持つ神の叡智を、そして、その叡智を操る彼女自身を、心から愛し始めたのだった。

佐倉あかり

AI令嬢。ガイルと古代遺跡の研究を通じて、自身のAIの力とこの世界の技術の融合を試みる。その過程で、闇の塔と呼ばれる暴走AI遺跡の存在を知る。ガイルの真剣な想いに触れ、胸に淡い恋心を抱き始める。


ガイル

放浪の戦士。かつての師が探求していた古代の叡智が、あかりのAIの力と酷似していることに気づき、彼女を「神の叡智」を操る存在として深く敬愛する。研究を通じてあかりとの絆を深め、その知性と優しさに触れ、彼女への恋心を自覚する。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ